第66話 八尺瓊勾玉《やさかにのまがたま》

コトウハ公爵の軍が王都に到着した。


千人の兵達の内百人が王城に入ると、王城の門番を不意討ちし門を開け放ち、九百人の兵が王都を駆け抜け、王城に雪崩れ込む。


あっという間の出来事。


「敵は国王とリーキヤだ! 突き進め!」

コトウハ公爵の迫力のある大音声が響き渡る。


ヤコイケ印の回復薬を充分に保持した、重装備の不死身の軍団が王城を駆け回る。


不意を突かれた王城の兵士達は混乱し抗う事が出来ず、次々と討たれていく。


王城に初めに入城した百人と一緒に紛れ込んだソウタ達は、コトウハ軍の兵士と別行動で謁見の間に来ていた。


「ソウタさん、この先に敵はいないです」

モモカが先頭を歩き警戒する。


「モモカ、有難う。中に入るぞ」


「ソウタ、こんなところに来てどうするの?」

ナナミが前を歩くソウタに尋ねる。


「ここに良い物があるんだ」


「なになに?」


「お楽しみだよ」


(確かゲームでは王都を占領した鉄鼠を勇者が倒した後、あるアイテムを入手するんだ)


ソウタはゲームを思い出しながら、王座の後ろにまわる。


そして、王座の直ぐ後ろの床を調べる。


「おかしいなあ、ここにあるはずなんだけど……」


「ソウタさん、なになに何を探しているの?」

モモカがソウタの声を聞いて側に来た。


「ここに地下に降りる階段があるはずなんだよ」


「ふ~ん……」

周りを見回すモモカ。


「これじゃない?」

モモカが王座の背面にレバーを見つけて指差す。


「お、そうかも」


カコン。


レバーを操作すると王座の後ろの床が動き、地下に続く階段が現れた。


「やった! モモカでかした!」


ソウタとモモカ、ナナミ、リャンゾウ、クロリスが地下に降りて行った。


階段を降りきると、鍵がかかった扉があり、その扉をモモカが開けた。


扉を開けると小部屋になっており、中央にある台には何やら宝物らしき物があった。


「おおお! これこれ」

ソウタが手にしたお宝は赤い勾玉まがたま


Cの字型で玉から尻尾が出ているような形。見る人によっては魂にも見える。


玉の部分には穴が空いており、黒い紐が通されていた。


ソウタはその勾玉の紐をチョーカーのように首にかけて服の中に隠した。


「ソウタ、何それ? 変な形だけど綺麗な石ね」


「これはね。『八尺瓊勾玉』という魔道具だ」


「ヤサカニノマガタマ?」


「そう。やさかにのまがたま。この世界に伝わる『三種の神器みくさのかむだから』と言われる3つの宝の内の1つさ」


「へえ、どんな事が出来るの?」


「え~とねぇ、…………内緒だな」


「えええええ、意地悪!」


「いや、これを俺が持ってる事がバレると色々拙いから、どんな効果があるかも秘密にした方が良いんだ。みんなも俺が持ってる事は内緒にしてよ。誰にも言っちゃダメだよ。命を狙われるかも知れないから、ナナミ達の為でもある」


「うっ、そ、そうかぁ、分かった。知らない方が良いんだね」


(良く考えてみたら、勇者が絶対後で取りに来るよな。誰にも見つからないうちに引き上げなきゃ)


「良し、目的の物はゲットした。早くここを立ち去ろう」


ソウタ達は地下室を出ると謁見の間に戻り、階段が現れた床も元通りにして、そそくさと謁見の間を出ていく。

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