第64話 叛逆
「シアウェル、飯より要件を先にしたいんだつてな。ほら、言ってみろ」
ビーカル辺境伯がニヤニヤ笑いながらシアウェル伯爵に声を掛けた。
「うぬぅ……。俺は王の代理で王命を告げに来た! 田舎者には分からんかも知れんが、王命は王の言葉! 国王が目の前にいると同じようにここに来て跪いて聞けえええ!!」
怒りで強く握った拳が震えるシアウェル。
「くくく、良いからその王命を聞かせろ」
ビーカル辺境伯は相変わらず領主の座に座り嘲笑う。
「こ、こここの田舎貴族めええええ!!」
シアウェルは己の前で跪くビーカルに、優越感を抱いて王命を告げる事を信じていたので、真逆の不敬な態度のビーカルを見て、怒り心頭で顔が真っ赤になっていた。
「いいかぁ! 良く聞けえええ! ビーカル辺境伯、領内のヤコイケ印の回復薬を持参し軍を率いて参戦せよ!」
シアウェルは国王の命令書を目の前に広げ大声で叫んだ。
「ほう、それで終わりか?」
「くっ、領内の回復薬をあるだけかき集めて、1万の兵を率いて早急に王都へ駆け付けろよ!!」
「ふっ、回復薬の数と軍の人数は王命に記載はないはずだが、シアウェルのアドリブか?」
(なに! コイツ、何で見せてもいない王命の内容を知ってるんだ……)
「……」
シアウェルは言い返す事が出来ず、無言で冷や汗を流す。
「断る!!!」
ビーカルは迫力がある大声で毅然と答えた。
「えっ?……」
(な、何? 王命を断ったのか……、馬鹿な! 王命を断れる訳ないだろう……、王命を断ったら……)
「ビーカル、叛逆する……のか?」
「ああ、叛逆する。でっ? どうする?」
「何を言ってる? 王国が黙っていない……ぞ。直ぐにでも討伐軍を編成して滅ぼ──」
「おう! 討伐軍上等だ。返り討ちにしてやる。ところで戦争真っ只中で敗戦濃厚の王国の何処に討伐軍を編成する余力があるんだ?」
「あっ!………な、何故、謀反を起こす? 長年王国に仕えてきて恩があるだろ?」
「俺からも聞きたい。何故、国王は俺が謀反を起こさないと思ってるんだ? 長年身を粉にして王国の繁栄を支えてきて、回復薬で王国の経済と軍備を発展させたのに、褒美どころか領地没収と辺境開拓の罰を与えて、兵役免除のはずが参戦の王命。終いには王命を伝える者が城門を襲撃する始末」
「い、いや、そ、それは……」
「先程、その内容を文書にして宣戦布告として国王に送ったぞ」
「はあ? せ、宣戦布告?」
「シアウェル、お前を生きて王都に帰す義理も理由もない事は分かったか?」
「え、えっ、え? ま、まさか……」
「おい、やって良いぞ!」
謁見の間にいたビーカルの騎士達が、剣を抜いてシアウェル達を取り囲んだ。
多勢に無勢。一瞬の間にシアウェルの護衛達は制圧された。
怯えて後退り、逃げようとしたシアウェルの前に一人の男が立ち塞がる。
ドゴッ!
「門番の蹴りも避けられないのか? 宮廷貴族は鈍臭いな」
シアウェルの腹に蹴りを入れた門番。
「うぅ……」
「シアウェル、お前は達筆らしいな。利き腕は右だったか?」
ビーカルが剣を持ち、蹴り飛ばされたシアウェルの前に歩いて来た。
「や、止めろ! 止めてくれ! 頼む」
「特別に生きて帰してやるが、門番を襲撃したケジメはつけて行け! そして、リーキヤに『首を洗って待ってろ』と伝えろよ」
「な、何を言ってる……。ひぃ、詫びる、詫びる、詫びるからああああ……」
「俺が王都を直接落としに行ってやる!」
そして、ビーカルはシアウェルの右手首を斬り落とした。
「ぎゃああああああああああ!!!」
シアウェルの悲鳴が謁見の間に響く。
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