第59話 辺境のとある村にて

「こっち、こっち」

ドリアードのクロリスが手招きする。


「どれどれ、おお! 特上の薬草じゃないか! クロリス有難う」


鑑定の魔道具であるゴーグルを装備したソウタは、特上薬草を見つけると丁寧に採取し、アイテムバッグに収納した。


ソウタの足元では雷獣のリャンゾウがソウタのゴーグルに魔力を流している。


そしてソウタ達の前方では探索者のモモカが周囲を警戒していた。


「ソウタ! 待ってよ。……はあ、はあ」

息を切らせて幼馴染の薬師ナナミが駆け寄る。


ソウタは辺境村で採取士をしていた。そして今日、ソウタとナナミ、モモカの3人とリャンゾウとクロリスの2体は近隣の森に薬草の採取に来ていたのだ。


ソウタが住んでいる村は薬草の畑を順調に育て、回復薬の売り上げもあり発展していたが、更なる発展の為、新たな薬草を探しに来ていた。


「ソウタさん! 何か来た!」

モモカが声を上げてナイフを構える。


(ゴブリンだキュー)

ソウタはリャンゾウの声を聞き、リャンゾウが見ている方向を見た。


「リャンゾウが言うにはゴブリンらしいぞ」

ソウタは腰に差していた剣を抜いて構えた。


「ソウタ、私に任せて」

ナナミがそう言うと「豊穣の杖」を掲げた。


「おう、任せた」

ソウタはリャンゾウの視線の先を注視していると、草むらがガサガサと音を立てる。


ゴブリンが数匹草むらから飛び出そうとしたのが見えたが、「豊穣の杖」が光るとゴブリン達は蔦に絡まり身動きが取れなくなった。


「やったー! 攻撃しても良いわ」

ナナミの合図でゴブリンに飛び掛かるソウタとリャンゾウ、モモカ。


蔦が絡まり身動きの取れなくなったゴブリン達に、3人は止めを刺していった。


「ナナミ、有難う。ゴブリン達なら楽勝だな」

ゴブリンの死体をアイテムバッグに収納するソウタ。


魔物の魔石は売れるし、ゴブリンの肉は食べられないが、薬草畑の肥料となるのだ。


「さて、目的の特上薬草もゲットしたし、魔石も肥料も手に入れた。そろそろ引き上げるか」

ソウタは村に向かって歩き出すと、足元のリャンゾウも歩き出した。


「そうね。コエザさんも待ってるわ」

後に続くナナミ。


「先導は私がします」

走ってソウタの前に出るモモカ。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

ソウタが村に戻ると、ソウタの元に村長で錬金術師のコエザが訪ねて来た。


「コエザさん、どうしたの? 後でそっちに行こうと思ってたんだけど……」


「ソウタ、ビーカル辺境伯から召集の命令が来たのじゃ」


「召集? 領都に行くの?」


「そうじゃ」


「ふ~ん、行ってらっしゃい」


「ん? ソウタも行くのじゃよ」


「ええええ? 何で~? 俺は今や一村人だよ」


「何を言ってるのじゃ、この辺境がこれ程早く立ち上がり豊かになったのは、全てソウタのお蔭じゃ。ソウタはこの辺境の幹部に決まっておろう」


「えええええ!」

露骨に嫌な顔をするソウタ。

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