第57話 謁見の間

ヤイムラ王国王城、謁見の間。


跪く大柄な男が戦場から戻り、王への報告を行っていた。


男はコトウハ将軍。


ヤイムラ王国の重鎮で最高戦力。王家の一族に連なり公爵の地位にもある。


「すると補給部隊が持って来た回復薬がヤコイケ印では、無かった事が敗因だと言う事か」


国王ヤイムラはコトウハ将軍に尋ねる。


「は、しかも上部のみヤコイケ印の回復薬で、見えない下部には粗悪な低級回復薬がある始末」


コトウハ将軍は謁見の間にいるリーキヤ公爵を睨む。


「ふむぅ……、コトウハ将軍程の武人でもヤコイケ印の回復薬が無いと、厳しいか」


国王は、コトウハ将軍の視線を無視して、話を進める。


「ヤコイケ印の回復薬を使う事が前提の戦術故、寡兵にて大軍と戦ったのです。不死身にならぬ寡兵では、如何ともし難く……」


悔しさを隠さぬコトウハ将軍。


「補給部隊を担当したリーキヤ公爵よ。申し開きはあるか?」


「ヤコイケから回復薬が入らなかったのです。国中からヤコイケ印を集めましたが、数が揃わず急を要したので、止む無くヤコイケ印に次ぐ回復薬を送りました。敗戦の責はヤコイケにあります」


「ヤコイケは申し開きはあるか?」


国王は謁見の間にいたヤコイケ子爵を見る。


「は、ヤコイケの都市では、職人が回復薬を作って商人に売るのみ、その先何処に売られるかまで責任は持てません。従って、戦争で使用する事を前提の約束等、一切していない事から責任を問われる事に戸惑っております」


「うむ、確かにヤコイケは戦争に回復薬を提供する約束などしておらんな。元々先代は顔も見た事が無いのう」


「しかし、王国中でこれ程出回っている回復薬が、先月から全く出荷しないとは、何事だぁ!」


リーキヤ公爵はヤコイケを威圧して大声をあげた。


「ビーカル辺境伯がスギンビに転封になったおり、先代は私に家督を譲り、ヤコイケから出て行きました。回復薬は先代が居なくなった為、作成出来ない状況です。しかし、元々商会とも出荷数を保証する、何の約束もしておりません。出荷出来なくなった事でお咎めを受けるいわれはありませぬな」


ヤコイケ子爵は平然と応える。


「出荷出来ない!……」


「つまり軍部と勝手に出荷数を約束した、リーキヤ公爵に責任があるのは明確! そもそも製造元と何の契約もしていないのに、何故軍部に出荷数を約束した!」


コトウハ将軍がリーキヤ公爵に噛み付く。


「コトウハ将軍、人聞きが悪い事は言わないで貰おうか、軍部と回復薬の契約を交わしたのは、メアサ男爵と商会だ。儂も軍部の補給部隊を預かる身、騙されたのは、お主と同様よ」


「うるせぇ! 元々てめえが裏で手を回して、ビーカルを辺境地に追いやった事が発端だろう!」


「ビーカルは栄転だ、何が問題なのか分からんな! それより口のきき方を気を付けなさい」


「はぁ? 栄転? 誰がどう見ても左遷と同じだろう! 今後も発展が見込める領地を捨てて、辺境の地でゼロからやり直せって、馬鹿でも分かるわ」


「な、なに? 回復薬の大量流通の褒美として我が与えたモノが、罰に等しいと言う事かぁ?」


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