第56話 コトウハ将軍

隣国と戦争中の前線。


ヤイムラ王国の将軍であるコトウハ・トグリは、難しい顔で戦場を眺めていた。


コトウハ将軍の戦法は、一言で言うと正攻法で、重装兵による力押しだ。


3列になって押し寄せ、1列目に疲労が溜まり、怪我をした場合は、練度の高い騎士達は素早く後ろに回り、回復に努める。この様に2列目、3列目と順番に交替しながら攻めるのだ。


この戦法にヤコイケ印の回復薬がマッチした。休憩した兵が、ヤコイケ印の回復薬を飲む事で、疲労も多少の傷も全快し、開戦前の元気な状態に戻るのだ。


故にヤコイケ印の回復薬を手にしたコトウハ軍は、不死身の軍団として、他国に恐れられていた。


しかし、ここに来て何かおかしいとコトウハ将軍は思い始める。休憩した兵の回復が上手くいって無いのだ。


いつもなら不死身の軍団は、どんどん敵を斬り崩し前に進むのに、場所によっては押し込まれる始末。


終いには全体的に押し込まれ始めた。


「むむむ、何事だ……、何故に……」


「コトウハ将軍! 補給部隊の隊員から緊急の報告がありました」


「今はそれどころじゃない! 後にしろぉ!」


「しかし、この度、補給部隊が持って来た回復薬が、ヤコイケ印じゃ無かったと報告が──」


「うるさい! 今戦況を……、何! ヤコイケ印じゃ……ない……」


コトウハ将軍は伝令に振り向いた。


「どう言う事だああああああああ!」


「ひぃいいいいい」


コトウハ将軍の怒声に恐怖を覚える伝令兵。


「ぐぬっ、た、退却だあああああ!」


コトウハ将軍の命令で退却のラッパが鳴り響く。


こうして、コトウハ軍は退却。前線は崩壊し、隣国が大きく前進する中で、コトウハ将軍は這々の体で王都に逃げ戻って来た。


怒り心頭のコトウハ将軍が、国王への報告より前に足早に向かった先は、連行されていたメアサ男爵が、刑の執行を待ち、囚われている牢だ。


ドカドカドカドカ……。


牢の中で意気消沈し衰弱しているメアサ男爵は、足音に気付いて顔を上げた。


そこには長身で偉丈夫のコトウハ将軍が、烈火の如く怒る顔。


「メアサああああああああ! この野郎! 貴様の所為で儂の兵が何人死んだか分かってるのかあああああ!」


「ひぃいいいいい」


余りの恐怖に失禁し、白目を剥いて泡を吹くメアサ男爵の牢に入るコトウハ将軍。


気絶していたメアサ男爵を蹴り上げる。


ドカッ!!


「ぐふっ、はひぃ」


余りの痛さに目を覚ますメアサ男爵。


「貴様ぁあああああ!許さん!」


死なない程度に殴る蹴るのコトウハ将軍。


ドカッ!!


「はひぃ、た、助けてえええ」


「うるせぇ」


ドカッ!!


「死ぬぅ」


「はぁ、はぁ、はぁ……」


荒い息でちょっとだけ溜飲を下げた、コトウハ将軍は国王の元に急ぐのであった。


「クソっ、リーキヤの野郎も只じゃおかねえぞぉ」


新たに闘志を燃やして、国王の謁見の間に望むコトウハ将軍。

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