第55話 ヤコイケ子爵2

ウオハは都市メアサに戻ると、メアサ男爵に事の次第を報告した。


ドカッ!!


執務机を拳で叩き、怒りを抑える事が出来ないメアサ男爵。


「何だとぉ! 平民上がりの田舎貴族がぁ! 都市一つしか無い癖に、俺がリーキヤ公爵の名代みょうだいだと知ってて言ってるのかぁ!クッソー」


執務室の椅子から立ち上がり、ウオハの前に進むメアサ男爵。


ドカッ!!


メアサ男爵は、ウオハの腹に蹴りを入れた。


「ぐふぅ」


腹を抱えて蹲るウオハ。


「行ってやろうじゃないかぁ! 目に物を見せてやる」


メアサ男爵は兵を挙げて、都市ヤコイケに向かった。


ヤコイケ子爵は都市の門を閉じて、籠城をして向かえ討つ。


「ヤコイケぇえええええええ!」


城門前で叫ぶメアサ男爵。


「なんだメアサぁ!」


城門の上から応えたヤコイケ子爵。


「貴様ぁ! その門を開けろおおお」


「お前、何をしてるか、自覚があるのか? 爵位が上の儂に無礼であろう」


「うるせー! 俺がリーキヤ公爵の名代だと分かっていて言ってるのか?」


「知らん。初めて聞いたなぁ」


都市ヤコイケには、残った騎士は少ない。今攻め込まれたら負ける事は確実だが怯む事はなく、平然と応えるヤコイケ子爵を不審に思うメアサ男爵。


「いいかぁ、ヤコイケ。今直ぐその門を開けて、俺達を中に入れて、回復薬を渡せ! 泣いて謝れば許してやらなくもないぞぉ!」


「がっはっは、まるで強盗だなぁ。兵を挙げて儂の領地に無断で侵入した時点で、騒乱罪だと言う事は理解しているかな。その上、門を破って儂の領民に傷一つ付けて見ろ、内乱罪で爵位剥奪、領地没収だ。リーキヤ公爵の名代と宣言した時点で、リーキヤ公爵にも罪が及ぶが、間違いないな!」


「うっ、そ、それが狙いか? 先程の言は言い過ぎた。俺の独断だ…」

段々声が小さくなるメアサ男爵。


「男爵と言えば儂より爵位は下だ。お前の要求に従う必要もない。サッサと引きあげろ! 武力でビビらせて、言う事を聞かせようとしても無駄だ」


「くっ、覚えてやがれぇ。引きあげるぞ!」


すごすごと引きあげるメアサ男爵軍。


「はっはっはっはっは」


してやったりのヤコイケ子爵の大笑いを背に、悔しさを隠せぬメアサ男爵。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


数週間後のリーキヤ公爵執務室。


「馬鹿者ぉ!」


ドカッ!!


「ぐふっ」


報告に来たメアサ男爵が、リーキヤ公爵に腹を蹴られて蹲る。


「ヤコイケ印の回復薬が出回らなくなったと思えば、貴様がヤコイケ領を襲撃したと言う話が王家よりあった」


「それは。都市一つしか無い田舎子爵の癖に、回復薬を売らなくなったので、脅しを掛けに──」


「煩い!」


ドカッ!!


「はひぃ」


「全部分かっておる。しかし、ヤコイケからは、儂の命令でお主がヤコイケを襲ったと報告が上がった」


「え!」(あの野郎ぉ……)


「その上、録画の魔道具でお主の言質も取られておる。言い逃れは出来ん」


「あぁ……」

(ま、拙いぞ……、やはり罠だったのか…)


と言うか、兵を挙げて脅したメアサ男爵が全面的に悪いのだが…。


「儂まで騒乱罪で告発される始末だ。まあ、儂は知らん事なので、儂の疑いは揉み消したが、全てお主の独断、お主は騒乱罪で爵位剥奪の上、領地没収だ。」


「そ、そんなぁ……」


「メアサを引っ捕らえろ!」


「待ってください。リーキヤ公爵様、助けてください。どうかぁ……」


「連れて行け!」


リーキヤ公爵の騎士が、泣いて縋ろうとするメアサ男爵を拘束して連行されていく。


「ちっ、回復薬は我が領地からも要望が多いし、軍部からも要請がどんどん上がって来て拒否出来ん。何とかしないとダメだなぁ……」

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