第52話 鉄鼠と勇者

ビーカル伯爵はソウタの話を聞くと目を閉じて、何か考えている様子だった。


「あ、こんな話は信じられませんよねぇ」


ビーカル伯爵は目を開けてソウタを見る。


「いや、ソウタの話は信じるよ。君は嘘をつくような男じゃない。俺が考えていたのは、ライゴーの事だ。」


「ライゴーの事?」


「俺はライゴーも事もソウタと同様に信用している。とてもライバルである宗教や国を襲うとは思えない」


「ですが……」


「いやいや、ソウタの事は信じてると言ったじゃないか? だから、何があればそんな事になる可能性があるのか、考えていたのだ」


「そうですよね……」


「一つ確認したいのだが、ライゴーは最終的に勇者に討たれると言ってたが、ソウタが言うボスとしての力はないぞ」


「ライゴーの正体は、大きい鼠のモンスターである鉄鼠てっそなのです」


「いや、ライゴーは人間だ。それは俺がよく知ってる」


「え? でも……」


「……ん! そうか……、気を悪くせず聞いてくれ、あくまでも一つの可能性だ。ライゴーが国に殺されれば、その怨みから従魔の大鼠が、暴走する事はあるだろう。ライゴーの怨みを晴らす事を明言するため、ライゴーの名前を名乗ったと考えれば、俺の中では納得するよ」


「成る程、案外そうかも知れませんね。確かに俺の前世の話では、ライゴーが人間の形態は取ってなかったかも……」


「まあ、ライゴーは俺の掛け替えのない親友だ。ライゴーもソウタの事は良く思ってるし、孤児院を卒業孤児達の就職先を、用意してくれた事も感謝していた。仲良くやって欲しい」


「はい。私もライゴーさんは良い人だと思ってますので、争う気はありません」


「良かった、頼むよ。しかし、今回の転封はソウタの前世の物語では、無かった話なんだね」


ソウタはゲームのストーリーを、小説の物語として、ビーカル伯爵に話していた。


「はい。しかし、私が採取士ギルドを立ち上げたり、回復薬を売り出す事も無かったので、替わり始めてるのかも知れません」


「勇者の存在は、物語の通りに進んでいるがな……」


「勇者! 勇者の現在の動きが分かるのですか?」


(ユウキは勇者として活動を始めたのか!)


「勇者ユウキの事を知ってるのか? そうか、確かユウキはヤコイケ村出身だったな」


「そうです。隣の家に住んでいました」


「成る程、気になるだろうな。物凄く強い男だ。王都のダンジョンも数カ所攻略している」


「そうですか、かなりレベルも上がっているのでしょう……」


「しかし、彼はもうこの国にはいないぞ。攻略したダンジョンを2度と復活出来ない様にしたりと、随分自分勝手で我が儘な男だと聞いているよ」


「ははは……」


「国王に勇者の認定をされた後、魔王を倒す為の実力をつけると言って、国王が止めるのを聞かず出国した。今はどこにいるのかは分からない。会うことは難しいだろう」


「いや、私は勇者ユウキに殺されそうになりました。彼の事は大嫌いなので、会いたくはありません。寧ろ、出来るだけ関わりたく無いので、動向が気になったのです」


「ははは、そうか……」

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