第50話 転封

「問題はソウタの今後じゃ、その件で話があるのじゃろう」


コエザはビーカルに尋ねる。


「そうだ。転封はあくまでもビーカル家だ。ヤコイケ家はそのままとなる」


ソウタは貴族になり、ヤコイケ村を貰った際、家名をヤコイケにしていた。


従って現在は、ソウタ・ヤコイケ子爵だ。


「え! 一緒に引っ越すんじゃ無いの?」


思わず大声をあげるソウタ。


(俺ヤだよ、1人残って政争に巻き込まれるのは……)


「それが、リーキヤ公爵の狙いだろうな。ダンジョンの素材と回復薬の流通を手に入れる算段だ」


「成る程のう。スギンビとビーカルは距離が離れすぎているからのう。今まで、回復薬の流通はビーカルの商人に任せてたのじゃ。ヤコイケで作られた回復薬の流通を、ビーカルに変わってリーキヤ公爵が取り仕切ろうって事じゃな。その売り先をコントロールする事で、勢力を広げようと思っているのかのう」


「間違いなくそうだろう。俺も寄子のソウタを残して、スギンビに行く事になり、頭が痛いよ」


「ソウタは新任の平民上がりの子爵じゃ、ビーカル伯爵が居なくなれば、如何様にも出来ると、リーキヤ公爵は思っておるじゃろうのう」


「ソウタが、権謀術数にたけたリーキヤ公爵に対抗出来るとは思えんからな」


「全くじゃ」


(えええええ! ナニソレ? こわ)


「いやいや、俺もスギンビに行くよ」


ソウタがコエザに言う。


「ヤコイケはどうするのじゃ?」


「家督を誰かに譲ってさぁ」


「家督を譲る! ほう、それも一手じゃな」


「辺境は他国とモンスターが居るんでしょ、回復薬も必要になるよね? 畑ごと引っ越すよ」


「ふむ、それも有りか……。爵位を誰かに譲ると言う発想は無かったな」


「普通は爵位を簡単に手放す者はおらんじゃろう。全くソウタらしいのう」


「ははは」


(何、この展開? こんなのゲームに無かったよ。ヤイムラ王国なんて、勇者が出国した後、鉄鼠に荒らさ……、れ……、て……。鉄鼠! そう言えば、中盤で鉄鼠に荒らされたヤイムラ王国を勇者が救うイベントがあったな? 鉄鼠……。あ! ライゴーだ!ライゴーって鉄鼠のボスじゃん)


ソウタは、ビーカルの会議室で会った好々爺然とした風貌の老人、テンダイジモン教の大司教であるライゴーの顔を思い出した。


(あの爺さん、悪い人には見えなかったんだよなぁ)


そして、鉄鼠のイベントを少しづつ思い出す。


(確か王国の最大宗教イテンダ教に嵌められて、王国を怨み王国に牙を剥いたはず……)


「おい、ソウタ!」


「あ、あぁ」


「また、ボーッと考え事をしてたのう。お主の話をしていたのじゃぞ」


「あぁ、家督を譲って引っ越すで良いよ。家督を譲る人は誰でも良いから、ピックアップしておいてね」


「はぁ、全く仕方ないのう」


「はっはっは、分かったよ。叙爵したのは俺だ。最後まで責任を持ってやろう。回復薬で良い思いもしたしな」

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