第39話 翠露の迷宮3

『翠露の迷宮』最深部、ラスボスの部屋に入る扉の前。


ソウタと雷獣のリャンゾウは思ってたよりだいぶ早く到達した。


何となく、ソウタがこのダンジョンの迷路の癖を思い出したからだ。


二股に分かれた時は狭い方の道を進む。これが迷路の最深部に早く行くコツだった。このダンジョンを設計した人の悪意を感じる。


明らかに片方は狭い道なのだ。通常人は広い道を選ぶ。その方が安全だと錯覚するからだ。ゲームと違って実際の場合、広い道の方が動きやすいし、視界も広いので戦い易いから、尚更のこと広い道を選ぶだろう。


しかも最深部の地下10階だけは広い道が正解なのだ。


ここまで来ると、次は狭い道が正解かも知れないと思う人もいるだろう。全く人を食った仕様だ。


「リャンゾウ、さあ行くぞ! ラスボスはエルダートレントだ」


扉を開けたソウタ。


部屋の中は草原?広い空間の真ん中に1本の大木が生えている。


実際の空間はそれ程広く無くて、透明な壁に囲まれている事もソウタは知っているので、扉が閉まると直ぐに扉の前まで下がる。


ここが唯一エルダートレントの枝の鞭が届かない範囲なのだ。


大木の中央部の目が開き口が開いた。


「ほっほっほ、よくぞここまで来たのう。しかし、ここがお主達の墓場じゃ。おーほっほっほ」


ヒュンヒュンヒュンヒュン……。


エルダートレントの枝が縦横斜めに振られて、鞭の様に凄い速さで動き出した。


「まあ、通常攻撃はエルダートレントには、届かないだろうね。あの枝を掻い潜れる訳が無い」


(そうだろうキュ。だけどオレなら問題無いキュ)


リャンゾウの身体全体が光り、閃光が枝の鞭を掻い潜り、エルダートレントを直撃した。


ドカーン!


「ほげっ」


黒焦げになるエルダートレント。


広大な草原を写す壁は一瞬で洞窟の土壁に替わり、日光が眩しい昼の世界が、薄暗い洞窟になっていた。


「さてさて、『豊穣の杖』はどこかな?」


黒焦げになったエルダートレントの死骸をガサゴソ探すと、エルダートレントの魔石と一緒に、エルダートレントの木で出来た杖を見つけた。


ダンジョン内で鑑定のゴーグルをつけているソウタは、隣に来ていたリャンゾウから、魔力を流して貰い、杖を鑑定する。


「これこれ、これだよ。『豊穣の杖』取ったどぉ!」


豊穣の杖を掲げて喜ぶソウタと見守るリャンゾウ。


「と言うわけで、ダンジョンマスターと御対面と行こうかな」


ソウタは奥の空間を見詰める。


「どうせ、見てたんだろう!」


大声で叫ぶソウタ。


「そこにお前がいる事は知ってるんだよ!」


ボス部屋の奥に向かって豊穣の杖の先端を向けるソウタ。


枯れろwither!」


ゲームにあった裏技だ。


正面の大木が枯れて、ダンジョンマスターの部屋に入る扉が現れる。


はずだったのに……。


「あれ? 何で何も起きない?」


(魔力を流さないとダメなんじゃないのキュ?)


リャンゾウの言葉に……。


「そ、そうか……」


格好付けて、杖を正面に向けたポーズのまま固まり、恥ずかしくて顔を赤くするソウタ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る