第十六話 久しぶりの、その笑顔
そして、あっという間に三日が過ぎ。
紹介所は今日も多くの人で賑わい、掲示板は先程貼り出された依頼で溢れている。
カウンターもフル稼働で受付対応を行っており、それぞれが忙しい時間を過ごしている。
そんな喧騒から少し離れた、待合室のエリアに健太の姿はあった。
椅子に座る彼は、表向きは平静を装っているものの、内心は彼女と久しぶりに会える嬉しさと緊張感で、首筋にじわりと汗をかいていた。
掲示板と入り口を交互に見ること数分。
「遅刻、遅刻っ」
慌てた調子で、一人の少女が紹介所へ飛び込んでくる。
その姿を見た人の一部が声をかけようとするが、少女はそれに気づかず、きょろきょろと室内を見回し、健太を見つけると、小走りに駆け寄る。
「お待たせしましたっ!」
荒い息を整えながら、白髪赤眼の少女テンシは健太へ元気一杯の笑顔を見せる。
それは、健太がこの数日ずっと頭に思い浮かべ、待ち望んでいたものだった。
*
街から出た二人は、南西にある漁村へと向かっていた。
というのも、テンシに直依頼が来ており、その依頼主に依頼の詳細を確認するためである。
この日のテンシは、先日のパーカー姿とは打って変わり、戦闘用と思われる衣装に身を包んでいた。
胸元にフリルの付いた白い
三段フリルのついた
「待ち合わせ時間より早かったし、あんなに慌てなくてもよかったのに」
「あはは、何と言ったらいいか……。お恥ずかしい限りです」
テンシは照れ笑いをみせるが言葉を続けない。理由はどうやら秘密のようだった。
漁村までの道すがら、健太はここ数日のうちに起こった様々な出来事や出会いについて話し、テンシは嬉しそうに聞く。
そんな時間がひと段落すると、健太はそういえば、とテンシに尋ねる。
「……ずっと気になってたことがあるんだけど」
「はい、何でしょうか」
「いつも中央広場のベンチにいるカップルを見ていて思ったんだけど、転生しちゃったら、こっちの記憶持ち出せないし、違う人と付き合ったりなんてこともあるのかなあって」
「あー。そういうところ気になっちゃいますか」
「うん、せっかくだし、あっちでも幸せになって欲しいなあって。でも『九十一日ルール』があるから、定期的に転生はしないとだし」
テンシは健太の言葉に、そうなんですよね、と頷く。
「九十一日ルール、結構厄介なんですよね。前の転生から九十一日以内に転生しないと、酷い心の傷が残るような転生をしたり、ATがごっそり削られたりと……」
と、そこまで話したところで、テンシは健太に尋ねる。
「そうですね、健太さん、最終転生のことは分かりますか?」
「ええと、確か……」
言葉の通り、最後の転生。これ以後は、もう二度とこの世界に戻ってくることはない。
最終転生の方法は、主に二つある。
この世界での余命であるATが完全に尽きてしまうか、もしくは尽きる寸前に、自ら死に終わりをシステムで選ぶ自発転生(と書いてサクリファイスと読む)を行うかである。
健太の説明に、テンシは大きく頷く。
「ばっちりです、さすが健太さんですね! ちなみに準備さえ出来ていれば、ATが沢山残っていても、大聖堂の特別な術式を使って最終転生を選択することは出来るんですよね」
そう言って、テンシは一つの画面を引き出す。
それは、健太も持っている座学の資料の、最終転生と自発転生の部分であった。
「あの二人は、出来る限りの準備をしつつ、今、この世界での日々も大切にして、どちらか一方のATが残り少なくなって来たら、大聖堂での最終転生を選ぶと思います」
「けれども、健太さんのおっしゃった通り、途中の転生で他の人とお付き合いなんてしたら、記憶がないとはいえ、気まずいですよね」
テンシは自分のカードがある所を軽く撫でると、複雑な文様が
「じゃじゃーん。これがそのための切り札、『
「おおお……、そういうのもあるんだ」
「あるんですね、これが。これがあればあちらに行っても、誰とも結ばれることがないので、こちらで好きな人がいる場合、とりあえずの転生は安全というわけです」
逆にいうと、その転生は一生独り身の寂しい人生にもなるわけですが、それはもう仕方ないということで、と付け加える。
「あと、こちらでは子供を作ることも出来ないですからねー……」
「あれ、そうなんだ」
座学では習わず、資料にもなかった情報に健太は驚く。
「教育上ナントカ、みたいなやつで。オープンじゃない情報ですからね」
だから、パートナーが出来ると、あちらで幸せになる為に一層頑張れるんですよね、とテンシは過去に手伝ったとある仲間のことを思い出し、天を仰ぎ見る。
連日の晴れ模様により、今日も澄み切った青空に太陽が
街道沿いからでも見え始めた海が降り注ぐ光を浴びてちかちかと輝き、水平線の彼方には大きな白い入道雲がうっすらと立ち昇っている。
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