愁嘆


人は深く傷付いた時

どんな気持ちになるのだろうか?

自分を傷付けた人間を恨むだろうか?

憎むだろうか?

俺にはそんなもの…何にも無かった…

悔しくはないのか?

拳にもなれない指先は力無く垂れ下がったまま

掌の先に徒 ぶらさがっていた

憤怒の焔も感じられず

怒号もしなかった

その気にさえならなかった

憎悪の念はおろか

怨みの渦ですら

何一つ生まれてこなかった

何よりまず

ぶつける最もなる切っ掛けである「怒り」を感じなかったのだ

全く…だ

情けないくらいに

皆無である

虚しい…

言葉にならない脱力感と弾丸でぶち抜かれた胸の穴

傷跡からは

紅い液体が血潮とは呼べないくらい弱々しく溢れてきた

それも

大した量でもないのに未だ止まらず

重苦しく流れている

澱みながら

まるで蟻地獄のようだ

後は果てしなく続く虚無の嵐

それだけが生々しく心に沁みた

頬に流れて首筋を伝った塩辛くも無い一筋の涙

それだけが全てを雄弁に物語る

口を開いて何とか言葉としての体形にして

漸く吐き出してみた

「哀しい…」

…何故だろう…?

いくら自問自答を繰り返しても明確な「答え」が得られない

掴めそうにない

全人間性を否定された気がしたから?

期待なんてしていたから?

信じたかったから?

ただ利用されるだけされて

お払い箱にされて

矜持を傷付けられたからか?

嗚呼…くだらない…

くだらな過ぎて胸糞が悪い

莫迦げているにも程がある

誰も…信じられない…!

いくら頭で考えても嘆息しか出て来ない

やるせない空気が纏わりついて

離れようとしない

何にも出来ない

一時的に忘れていても

気を抜くと再び鎌首をもたげてくる

解決する術は

時間しか無いのだろうか…?

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