秩序とコアゲーム

春嵐

焼き畑

FPS(一人称視点射撃ゲーム)の要領で、DDos(サイバー攻撃)のシステムを作った。


まずゲームに参加してもらって、マシンスペックに応じて仮想敵を作り出す。

そして、プレイヤーにはボタンを連打したりアクションをしたりしてマシンから何かどうでもいい信号を送ってもらう。

そしてそれが仮想敵から変換されて、システムに情報負荷としてダメージを与える。


要するに、ボタンを押すとシステムがダウンするという基本的なゲーム。


「おまえなあ、こういう、社会に喧嘩売るようなもの作るの、うまいよなあ」


「ほめてんの?」


端末に映し出される。

公安のおっさん。


呼ばれるのは三回目。

面倒だから、今回は端末越しに喋ってる。


「社会って分かる。社会」


「人が生存競争を生きぬくために構築したシステム」


「その通り。でもお前のゲームはね、その社会をね、破壊してるの。分かる?」


「社会って、破壊されるほど脆弱なの?」


「なんだおまえ口ごたえすんのか」


「だってさ、俺の作った今回のゲーム、大人気よ。同接数めちゃくちゃだし破壊されたシステムの数もめちゃくちゃよ」


「それが問題なのよ。なんでこう、あんたは社会を敵に回すようなことしかできないのよ」


「あんたみたいに、美人なのにおっさんの変装してどこぞに潜入してるようなのよりはマシじゃないの?」


実際、端末から見えるおっさんは、本当におっさんだった。声も変声機を使っているのか、おっさん声。


「公安なめんなよ」


「公安っつっても色々あるからなあ」


自分のような人間に重要なシステム任せるぐらいだから、この国も底が知れている。


「ほら。次の教祖様来たよ。早いところ内偵終わらせて、DDos止めに来なきゃ。国中のシステムがぼろぼろになるよ」


「このやろお」


「おっ」


今の声は綺麗な女の声だった。怒りに任せた声は変声機を貫通するのか。


「じゃあね。がんばってね」


通信を切った。


がんばって、という言葉の響き。

なんとも時代遅れな感じがして、好きだった。


DDoSで手当たり次第にシステムを壊して、どこのシステムがこの国にとって最も脆弱なのかを、見極める。同時に、他国に干渉されているシステムやサイバー攻撃の発信元も壊す。


無差別に焼き払うことで安全が確保されるとは、誰も思わないんだろう。


サイバー空間に、現実の戦術や戦略は通用しない。第一、兵站の仕組みがそもそも異なる。


説明しても分かってくれないので、とりあえず公安のおっさん(美人)に意思疏通だけしとけばいいか。


「さて、社会を壊して、社会を守りますか」




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秩序とコアゲーム 春嵐 @aiot3110

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