フリ子




 仮面をかぶるのが息苦しくなって、踊るのをやめた。

 バルコニーで夜風に当たりながら遠くの自分の居場所を見る。

 小さく、とても小さく。

 遠くまで来てしまった。

 汗ばんだ体が冷めていくのと同時に、心も夜の温度に馴染んでいく。

 先刻までなんともなかったのに、どんどん胸の奥が固まっていく。

 ワイングラスに血の様なドロドロが少しだけ残っている。

 もう飲みたくはないけれど、飲まないとやってられない。

 飲み干して一息。

 ため息と汚れの匂い。

 夜は好きだけれど、そこにいる人は好きじゃない。

 夜に限った話じゃないけれど。

 期待、していたのだろうか。

 このまま飛び降りてやろうかと思ったけれど、自分の骨が皮膚を食い破るのをみてやめた。

 綺麗に終われるなんて、虫の良すぎる話かしら。

 誰かの前では良い私。

 誰かの前ではクズな私。

 誰かの前では他人の私。

 ただの私でいられる時間が、私には必要なのに、どうにも許してくれないものね。

 小休止の間に誰かが来るかと、少し緊張していたが、そんなことはなく、期待通りの未来となった。

 また眩い刹那の世界へと戻っていく。

 堕ちていけばどこかぶつかって砕けるのだろうか。

 臆病な私には夢のまた夢。

 甘い甘い誘惑と、刺激的な鼓舞で仮止めされた世界へと戻っていく。

 二つの世界を行ったり来たり。

 対話ができれば楽なのだろう。

 逆転できれば昂るだろう。

 でも本当は必要ないんじゃないか。

 本当は、ウミウシみたいな世界が良いんだ。

 

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