ランドセル

 ランドセル


 ランドセル(蘭: ransel)は、日本の多くの小学生が通学時に教科書、ノートなどを入れて背中に背負う鞄である。


 ――――フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より。




 ランドセルに骨壺を入れて登校するなんて、この宇宙でぼくくらいのものだろうな。

 朝、まだ誰もいない教室で一人。

 ぼくはぼくの席に座る。

 ランドセルには骨壺しか入っていない。

 国語も、算数も、理科も、社会も、何もかもを家に置いてきた。

 これはどこを持てばいいのだろう。

 わからないなりに、ぼくは両手でゆっくりと持ち上げ、丁寧に机に出す。

 よくわからない素材でできた立方体を、白く、確固たる意志で形で包む布。

 美しい、雲のような刺繍で飾られている。

 何でできているのか、ざらざらしている。

 不思議な感触と重み。

 形はどことなく牛乳パックに似ているな。

 尋常じゃない。

 教室の中の一角、鞄から出てきた箱から漏れ出た空気から順に浸食されていく。

 その中の壺の中には、何が入っているのか、ぼくも知らない。

 まだ朝は冷たい。

 鳥のさえずりも一つ一つ減っていく。

 ちぎれたカーテンから光が差し込む。

 宙に舞う塵が目立つ。

 少し息を吸うのをためらって、ゆっくり、風を起こさないように呼吸した。

「おはよう」

「おはよう」

「また学校に変なもの持ってきてるの?」

「筆箱代わりだよ」

「筆箱もなくなっちまったな!」

 笑い飛ばすけれど、何も変なことじゃないだろう。

 しかし異質ではあるか。

 急に浄化され始めた教室から、もう立ち去ろうとしたけれど、引き止められたら仕方がない。

「何を書くの」

「何を描きたい?」

「何が欠けるの?」

「何でも駆けるよ」

「じゃあ懸けて」

 骨が、折れたが、痛みはない。

 でも、寂しくはない。

「さようなら」

 ここを出たその日のうちに、ぼくは死ぬんだ。

 そして帰ってきた頃には、学校になんて入れないんだ。


 サヨナラだけが人生だ。




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