花言葉

縁田 華

プロローグ

 どこの街にも都市伝説めいた噂はあるし、心霊スポットなんかもあると思う。それらの殆どは初めこそただの噂で、心霊スポットも廃墟(どちらにせよ不良がいる、ホームレスが寝床にしているなどの理由で不用意に近づかない方がいいだろう)というケースが多いのだが、次第に尾鰭が付いていき一般人は近づかなくなる。仮に近づくとしても怖いもの見たさの若者や、私のような物好きが稀に訪れるくらいだろうか。

 今日もまた、廃墟やら都市伝説をネットで検索していたら、興味深いホームページが見つかった。そのサイトでは、様々な廃墟を紹介しているのだが、中でも一番気になったのはとある県にある廃映画館のページである。その映画館は奇妙なことに、

『灯りが点き、誰もいないはずなのに映画を上映している』

『上映されている映画はポスターもなく、ネットのどこにも存在しない幻の作品ばかり』だというのだ。そんな映画館がこの世にあるのか、と疑いたくなるが好奇心の方が勝ってしまう。まあ、そのせいで何度も危ない目に遭い続けているものの、生まれつきこういう性格なのだから治しようがない。私は○○県にある花園市まで車を走らせることにした。花園市までは遠い訳ではなく、かといって近い訳でもない。約二十分かけて市内に着いた。

 花園市はこれといって特徴のない田舎町であった。というのも、数年前に大規模な都市開発が行われ、結果として一地方都市に急成長していったのだ。ショッピングモールやアミューズメント施設、映画館や美術館などが建設された。が、その華やかさは駅の周辺や開けた土地のみに留まっており、開発が遅れている自然豊かな地域では昔ながらの商店街や、手付かずの自然が残っていた。打ち捨てられた廃墟の数もそれなりに多く、マニアの間では穴場として知られている。

 街の外れにある廃映画館『花園座』に着いた。外見は少なく見積もっても半世紀は経っているであろう劣化具合であり、ツタが絡みついている。周囲には背の高い雑草が生い茂り、一見するとお化け屋敷のように見えるが、雑草に混じって可愛らしい花が植わっていて、その全てが花壇にあるような花ばかりだった。色とりどりの花達は、鮮やかな彩りで時が止まってしまったこの映画館に確かな生を与えてくれるものでもあった。

 扉を開けて中に入ると、不思議なことに灯りが点いている。料金所には若く、端正な顔立ちの男がいるが生気を感じられない。まるで、死人のような顔をした彼は、

「お客様、入場料を払って下さい」と一言。それもひどく抑揚のない声で。私は所々字が掠れた表示板通りの料金を支払った。

「それではどうぞ、お通り下さい」彼はお辞儀をし、私が通り過ぎると同時に元の姿勢に戻った。あたりを見回すが、観客は私一人しかいないようである。映画館を独り占めに出来るのは嬉しいが、一人きりというのは少し寂しい気もする。私は薄暗い通路を少し歩いて、錆び付いた扉を開けた。

 扉の先にあったのは、小さなホールとスクリーン、映写機。スクリーンの端には左右に一人ずつ幼い女の子が二人いた。見た目は八歳程度で、一人はウェーブのかかった茶色の髪を二つに結んでいる。もう一人は金髪を短く切り揃えている。二人ともガラスのように澄んだブルーグレーの瞳でこちらを見つめ、

「ようこそおいで下さいました。今宵はあなた様の為の、特別な映画を上映いたします」

そう言ったのはどちらだったのか。私は金髪の女の子について行き、前の方の席に案内された。着くと同時に耳元で、

「ここがあなたの特等席だよ」と囁かれた。




私が席に座ると同時に、スクリーンに映像が映し出される。

「それではどうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花言葉 縁田 華 @meraph

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る