第25話 異世界見聞録編 07 大団円?

カツン! カツン!

ここは炭鉱の最深部にある洞窟。

先が丸くなった楔(くさび)とハンマーで岩を砕き鉱物をとりだしている人々がいる。


その人々が先が尖った楔(くさび)を使えれば作業効率は上がるが・・・

万が一反逆された時、武器になるので作業効率が悪いものを使わせている。


ただ、人数をいくら増やしても・・・・

炭鉱からでる鉱物は減っていっていた。


鉱物の枯渇?

それは、この工業都市としては認められるものではなかった。

この鉱物が無ければ今の産業を維持できない為だ。


それでも作業効率を上げて生産量を増やす為、鞭で叩き、作業員達を鼓舞する。

しかし作業する人々顔には疲れがでていて覇気がない。


見えるのは手元の岩のみ、聞こえるのは坑内に響く鞭の音と悲鳴、そして採掘する音・・・・。

誰とも話すことなく黙々と岩を砕く。

時間の経過も忘れるほどの孤独で自我がなくなるのを感じながら・・・。



優秀なメンバーを持つとリーダーは楽だ。

カクスケは街で問題を起こすとあっという間に炭鉱へ送られた。


母親と少年には、別の仕事があってカクスケが先にこの国を出発したことを伝えた。

少年は別れの挨拶ができずに残念がっていた。


ジュリエッタは私を見て赤い瞳で睨んでいる。

私が内緒で事を進めたことを怒っているようだ。


それからしばらくの間・・・・

ジュリエッタは相変わらず、率先して宿の手伝いに子守としている。

最近は、魔法を使うことなく、自分の体を動かしている。

お母さんと触れる機会が多く、色々な事を学んでいるようだ。


私はトビマルと話をしてみた。

淡々と宿の手伝いをし、少年に戦闘技術を仕込んでいる合間に・・・。


「いやあ、人間という生き物もよく見ると面白いものですね」

とトビマルは言う。


「労働の対価でお金を貰うが、そのお金の価値がわからない・・・」

魔族の考えとしては、労働して入手するより、他の人が持っているお金を盗んだ方が早いし、そもそも魔族はお金を使う必要が無い。

お金で何かと交換する必要が無いからだ。


「労働の対価はお金だけではない。周りから『ありがとう』や『ごちそうさま』と言われると・・・・心が暖かくなるそんな感覚はありませんか?」

私はトビマルに聞いてみる。


「暖かくなる感覚・・・・・」

トビマルは手を胸に当て考えている・・・・そして。


「少年や母親に”ありがとう”と言われた時、次もがんばろうと思える感覚・・・・でしょうか?」


トビマルは不安そうな顔をして私を見る。


「きっとそう、」

私は笑顔でトビマルを見る・・・。


「でも、ゆきち様より殺戮の命令が出て、達成した時の満足感には敵いませんが」

と笑顔のトビマル、殺戮の命令とか恐ろしいことは言わないでください。


”やってしまいなさい”・・・その命令は・・・・若気の至りです。




一方炭鉱では・・・・


カクスケが、鉱山で採掘をしている。

普通の人々には淡々と穴を掘る作業だが・・・

カクスケにとっては初めての作業。穴を掘り進み、鉱物を見つけるのが楽しくなってしまったようだ。

ありえないスピードで掘り進み、新たな鉱脈も発見したようで異常に増える鉱物の生産量!

枯渇の心配が無くなったと感じさせるほどに。


生産量が増えたことにより、ノルマが達成!

そうなると鉱山で働く人々への締め付けも弱くなり・・・・。

休憩時間に働く者同士の会話も許されるようになってきた。


そして休憩時間にカクスケは色々な人達と会話をして情報を入手していく。

ここで働く殆どの人達は少額の借金返済ができなかったなど、無理やり連れてこられて働かされていた人が多いようだ。


当然、宿屋の少年の父親にも会って話すこともできた。

赤ちゃんが生まれてうれしい反面、抱っこすらしてやれない不甲斐なさを嘆いていた。

決して家族から逃げ出したわけではなく・・・”赤ちゃんが生まれるまでの数日間、炭鉱で働けば借金を免除してやる”の口約束にのりここに来たが・・・・帰してもらえず現在に至るとの事。


そして又、カクスケは炭鉱で掘る人達を管理している人とも話をした。

管理側の彼らも好きで鞭を振り回していたのではなかった。


彼らにも家族がいて、生産量向上を上から押さえつけられていたため仕方なくそうしたそうだ。

今は生産量が増えたのでその押さえつけも、心配もなくなり・・・。ホットしてるそうだ。


そしてある日、カクスケは”ゆきち”の指示通り、龍に戻り炭鉱で暴れる。

炭鉱で無理やり働かされていた者達を逃がすために・・・・

でも人々を襲うことはしなかった。

怪我人がでないよう龍(カクスケ)は暴れる。


逃げ惑う人々、しかし管理側の人間はそんな混乱した状況下でも職務を放棄することなく、罪を犯した囚人は捕まえる。

しかし、無理やり鉱山に連れてこられた人間は見逃している。


「何をしている!全員を取り押さえろ!」

と叫ぶ人物が・・・・。


管理側の人間はその声が聞こえているのだろうが無視をしている。

その人物の言う事を聞くのが嫌なのだろう。


自分の部下に無視されたと感じたその人物は呪文を唱え、魔法の雷を落として大きな岩を砕く。

その雷の音で振り返る管理側の人間達。


「馬鹿者!お前たちは私の言う事だけ聞いていれば良いのだ!」

と叫ぶ。

「鉱山で働いていた者達全員を捕まえろ!、私の命令に逆らって黒焦げにされたくはないだろう!」


といい、『ブヒブヒ』と笑う。


「おいおい、暴れている俺は無視かい?」

カクスケは大きく息を吸い、ブヒブヒ笑う人に向かって息を吐きだす。

吐き出した息によって突風が起こるが、ブヒブヒは呪文を唱え、突風を防いだ。


「私のように選ばれた優れた魔法使いの前では!龍の力とはこんなものか!」

と叫び、ブヒブヒは呪文を唱えている。攻撃呪文だろうか?


ブヒブヒの手から電撃が発せられ、カクスケを襲う。

カクスケに電撃があたり、全身に電撃が回る。


「龍ごときが私に逆らうとは・・・私の最強魔法、電撃を食らい、あの世へ行け!お前の表皮は私が有効に活用してやろう!」

といい


「ブヒ~ブヒ~ブヒ~」

と笑い・・・・咳き込む。

運動不足で肺活量が落ちているようだ。


「??????」

カクスケは・・・・・よくわからない。

ブヒブヒは今、何をしたのだろうか?体に当たった感覚が全くない。

さっき突風を起こしたのも手加減できる一番弱い攻撃がそれしかなかったから・・・。

それ以上の魔法を使うと逃げる人や管理側の人達に迷惑がかかるから。


ブヒブヒは叫び、

「何をしている龍は退治した!早く鉱員共を捕まえろ!逆らうものはそこの龍のようになるぞ!」

と管理側の人間をけしかける。


管理側の人間達は諦め顔で鉱員達を追いかける。


カクスケは・・・・ブヒブヒの周りに人がいなくなるのを確認すると・・・。


「なんと面白い人間だ!そんな魔法で我を倒せると!」

とカクスケは大声を出す。


その声で人々はその場から動けなるなる。

カクスケが持つ強大な魔力によって、金縛り状態になっているからだ。


ブヒブヒもその声で動けなくなる・・・。


「私の魔法が効かないだと!しかもこの龍は知識があり、言葉を発するのか?」

とブヒブヒは今までとは違う声で呟く。


「お前が首謀者か?」

ブヒブヒの顔にカクスケは自分の顔を近づける。

ブヒブヒは恐怖に顔をこわばらせている。

そして周りの人々はそんな2人?を見ている。


「では私がお前の魔力を試してやろう」

といい、息を軽く拭きかける。

ブヒブヒは飛ばされそうになりながら呪文を詠唱しカクスケに向かい両手を出す。

呪文が発動したのだろうか?

ブヒブヒの少ない髪の毛の動きが止まった。

カクスケの吐息を止めたようだ。


「ブヒ~ブヒ・・・これでどうだ!」

ブヒブヒは微笑んだが・・・・


次の瞬間、ブヒブヒは50mほど飛ばされた。

そして倒れたまま動かない・・・。


呆気にとられる。カクスケ。

自分としては指で軽く突いただけだったようだが・・・。


「ゆきち様がおっしゃる通り、人間は貧弱。」


ブヒブヒが静かになると・・・・

全員の歓声が上がる。鉱員も管理する側も・・・・。一部囚人を除いて。


カクスケは空に向かって飛び立つ、そして見えない所で龍から人間に擬態、鉱員と合流する。

管理側の人々が、連れてこられて鉱員をしていた方々に謝罪をしている。

それを見守るカクスケ。

そして炭鉱に残るもの以外は宿屋の父親も含め一緒に街へ向かい歩き出す。


各々久しぶりに家族との再会!足取りも軽い。


その人間達を見てカクスケは思う。


(人間という生き物は面白いものよ)

自分の顔が他の人々のように微笑んでいることに気が付く。

そして思う、龍族にはあまり感情がない。そんな自分に微笑む感情が見栄えるとは・・・


ゆきち様との冒険!これは面白い!


カクスケは転送の呪文を唱える。

一足先に街へ戻り、ゆきち様に事の顛末を報告する為。


ゆきちはカクスケから報告を受けると・・・・足早に出発する準備をする。

次の街を目指す為。


そして、親子感動の再開を邪魔する気はない。

見たら私、涙必須!ですし・・・・

何より、3人とも人間的な考え方ができてはいるけど・・・・何をしでかすが想像ができない。


なので父親が戻る前に宿屋を出た。

母親と少年は残念がっていた。

ジュリエッタは赤ちゃんの額にキスをする。

そして小さな声で呪文を唱える。

トビマルは、少年にカクスケから預かったとして赤い龍の鱗を渡す。そして龍の鱗にトビマルも呪文をかける。

それを見守る私達・・・。

カクスケは残念ながら街の外で待機中だが・・・・。



大きく手を振り出発する。

そして私達は後ろを振り返ることなく歩いて街の門をくぐる。

この街とはお別れだ。

入れ替わりに汚れた身なりをした人々が門をくぐり街の中に入ってくる。

そして街のあちらこちらで歓声が上がる。感動の再会で・・・・


「次は何処に向かいます?」

とメルフィス姫からの質問。


「実は私、決めている所があるのです。ここから西に向かうと海があるようなのです。そこには港街があるそうなので・・・そこに向かおうと思います。」

他4人は異論がないようだ。


「宿屋の親子はまた冒険の途中に立ち寄りましょう!」

と私が言うと・・・4人とも恥ずかしいような顔をした。


私は意識を切り替える!

次は港街♪

海魚♪食べ放題!


ぴろりーん

ジュリエッタ、トビマル、カクスケのレベルが上がった。


勇者・ゆきちは ”何もしない現場監督”のスキルと手に入れた。

久しぶり?初めて?いい感じの終わり方ができた。


因みに少年の名前は、フェルナンド、成長して龍の加護を受ける戦士となる。又、今は赤ちゃんだが妹で後に精霊の加護を受けた大魔法使いと呼ばれるユウリと共に

この世界を救う救世主となる。

そのお話は後ほど・・・。

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最弱勇者「ゆきち(女子)」の異世界見聞録 真矢 @hen26

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