第10話 世界樹

私がスカイフィッシュを追って、森を抜けるとそこには月明かりに浮かぶ広大な湖?が見える。

湖?なのは対岸は地平線に隠れが見えず・・・広さがわからない為だ・・・。


「我は世界樹と太古より呼ばれる者。勇者よ、よく来たな・・・。」

その声にメルフィス姫は跪く。


メルクス姫は湖の傍に大きな木が生えているのが見え、その木が話しかけてくる。


(これが私達に力を授けてくれる世界樹様!)

そして、月明かりに照らされた世界樹を見上げる。メルフィス姫。


「メルフィスよ・・・・勇者はどうした?」


「え・・・・」

跪いていたのはメルフィス姫の魂のみ。

世界樹の前では肉体よりメルクス姫の魂がけ抜けだし・・・・黄色い光となって世界樹の前に浮かんでいた。

一方、肉体である「ゆきち」は迷いの湖の畔で・・・・・剣を湖にさして魚とりをしている。

ただ、成果はないようだ・・・・。


「ゆきち様」

メルフィス姫の声に湖を見ていた、ゆきちは顔を上げる。


「メルフィス姫?外から声が聞こえたような気が・・・・。」

ゆきちは周りを見渡すが・・・・見えるのは月明かりに照らされる湖の水面と周囲の木々・・・。


(気のせいか・・・・)

ゆきちは湖に小石を投げ込み水面に広がる水紋を見ながらつぶやく・・・・。


(お腹すいたな・・・・)

迷いの森に入ってから獲物が取れないし・・・・

因みに先ほどのスカイフィッシュは何処かにいってしまったようだ・・・・。


(取り逃がしたか!捕まえられれば未確認生物の正体がわかったのに!)


しかしこの湖は何?

魚はいないのに虫が多い!ブンブン耳の周りを飛び回っていて五月蠅い。

手で払うといなくなるが・・・・しばらくするとブンブン寄ってくる。


(湖には食料になりそうなものは何も無いな・・・・)

ゆきちは立ち上がり森に向かって歩き出す。

この場所にいても食料が無いと判断したためだ。


そんなゆきちに


「ゆきち様!世界樹様の御前です!!」

メルフィス姫がゆきちに向かい話しかける。しかし、ゆきちは耳の周りを手で払う仕草をするのみで返事はない。


「勇者はどうしたのだメルフィスよ・・・さっきから我も声をかけているし聖なる力達も声をかけているが無視されている。」


「もしかして勇者ゆきち様は空腹の為、真剣に食料を探しているのかも・・・・。」

メルフィスは勇者が考えていそうなことを弁明する。


世界樹より風が起こる。

そして世界樹からポトン・・と大きさは10cmほど、オレンジ色をした木の実が”ゆきち”の前に落ちる。

大きさは10cmほど、オレンジ色をした木の実で甘い匂いがする。


木の実の甘い匂いを嗅ぎ、うれしそうな笑顔、その後、噛みついたが殻が固いようで、悔しがっている。


ゆきちは考える仕草をした後、地面に木の実を置き剣を取り出す。

剣で木の実を割り、中を確認しようとしているようだ。

ゆきちは木の実に向かって力強く剣を振り下ろす。

しかし、ゆきちのステータスは攻撃力1、木の実を突くつもりのようだったが、的の場所に剣を突き立てる。


(外したか!)

その時突風が吹いて地響きがする。


(地震?)

ゆきちは地面に突き立てた剣に掴まり地震が収まるのを待つ。


(収まった?)

ゆきちは地面に突き刺した剣を抜く。


周囲を見渡すと・・・・特に地震前と変化はないようだが・・・

木の実が地震の振動と突風の影響で湖への転がっていく!

湖に向かって下り坂になっているためだ。


ゆきちは必死に転がっている木の実を追いかける・・・・。

唯一の食料を逃さない為に・・・

ただ、追いつく前に地面に開いていた20cmほどの穴に木のみが落ちる・・・・。

ゆきちは穴を覗き込んで腕を穴の中にいれるが・・・・

底が深いようで届かない。


(貴重な食料が・・・・)

残念そうに穴を覗き込み落胆するゆきち・・・・。



話しは少し前に戻り・・・・

キャロルが勇者を呼びに行っている間。


「世界樹様、勇者を討伐する許可を頂きたい。」

世界樹の前に龍族の長が跪いている。


「龍族の長よ、なぜ勇者の討伐を希望する」


「あの勇者は危険です。先日、我が盟友であった妖鹿は勇者へ交渉に向かいましたが・・・・問答無用に切り捨てられました。」

龍族の長は怒りを抑えて話している。


「我が龍族の中では、恩義のあった妖鹿の仇を打つべし!となっており、私も抑えきれませんし、抑える気持ちもありません」

世界樹を見上げる龍族の長の目は真剣であった。


「そうか・・・・我は勇者をここに呼んでいる。勇者から聞き取りを行った後、討伐の許可について判断しよう」

世界樹が龍族の長に言う。

龍族の長は頭を下げると、世界樹の前から姿をけした・・・・。



(ぎゃーーーーーーー)

世界樹は一度も感じたことが無い体に響く痛みの感覚。

世界樹は混乱していた。


(勇者が我の体に剣を突き立てた!話しかけても無視し、食料を提供すれば気に入らないのか剣を我に突き刺す!)


「メルフィスよ」

世界樹は怒りに震える声で呼びかける。


「世界樹様!」

メルフィスは再度跪く。


「勇者と話がしたい!メルフィスであれば話を聞くようだ!通訳をしろ!」

そう命令するとメルフィスの光が強くなり・・・・”ゆきち”がいる肉体に飛ばされた。



木の実に届かない・・・・。

”ゆきち”は諦めずに穴の中に手を伸ばし木の実を探す。


「ゆきち様」

今度は脳内でメルフィス姫の声がする。

その時、穴の中に伸ばした手に何かが触れた。


「メルフィス姫、今、忙しいのですが・・・・」

ゆきちは穴の中に入れた手を伸ばす。もう少しで届きそうなのに・・・・


「ゆきち様、木の実ではございません!、世界樹様を御前(おんまえ)にして。」


「せかいじゅ?おまえ?」

ゆきちは答える、異世界転移者であるゆきちにとって聞いたことがない言葉だから。


世界樹はメルフィスに話しかける。

「メルフィスよ勇者と話はできるか?」


「はい、世界樹様。」

メルフィスは答える。


「勇者よ我は世界樹!この世界の創生時より存在するものなり。我が聖なる力を生みだし、世界の規律を守るものなり」

メルフィスは”ゆきち”に伝言する。


「この世界には世界樹という名前の太古からある偉大な木がありまして・・・・その木が規律を作っています。」

メルフィスはゆきちに分かるように言葉を変え要点を伝えようとする。


「勇者に聞きたい事があり、我はここに来た。なぜ妖鹿を殺した。」

「メルフィス姫?世界樹様という木があるのですね」

世界樹の言葉と”ゆきち”はのんきな答えが重なった・・・・。

世界樹は一方的に話す。なぜなら会話を途中で止められたことが今までなかったからだ。


「はい、ゆきち様、世界樹様が怒っています、なぜ妖鹿を殺したかと」

・・・・妖鹿?

(記憶にないな???いつのお話しだろうか?)


「メルフィス様、世界樹様に聞いてください。いつ頃のお話しでしょうか?メルフィス様は妖鹿について心あたりはありますか?」

「妖鹿はこの地域で動物たちの長となってる生き物、勇者の話が通じない相手ではなかったはずだ!又、妖精であるキャロルを差し向けたが・・・・キャロルの羽を切った理由も知りたい。」

又、2人の話が重なる。


「ゆきち様、妖鹿って・・・・先日仕留めた鹿のことでは?先ほど、スカイフィッシュ?UMA?と言いながら切りかかり、追いかけまわした理由も知りたいそうです。」

「世界樹様、妖鹿について勇者様は心当たりがないそうです。」

メルフィスは2人へ伝言する。


世界樹は

「知らぬわけがなかろう!又、なぜ先ほど我をも攻撃した」


ゆきちは

「鹿・・・・いわれてみればいましたね・・・・でも弱かったですよ?話しかけられた記憶もないですし・・・・スカイフィッシュ!未確認生物UMAだよ!追いかけるでしょう!切りかかった理由?攻撃されると思ったから・・・」

又、世界樹と”ゆきち”は同時に回答する。


「世界樹様、弱いUMA(うま)、いえ鹿を仕留めたことは認めました。妖精であるキャロル様より勇者は攻撃されたから反撃したそうです。」

「ゆきち様、また世界樹様を攻撃した理由も知りたいそうです。」

メルフィスは伝言する。


「聖なる存在である妖鹿を弱い馬?だと!ふざけるな!又我ら聖なる者なり、妖精であるキャロルが勇者を攻撃するわけがないだろう。聖なる力の集合体である我らを愚弄するのか!?」

「世界樹を攻撃?しらないよ~私何か悪いことした?」

又、同時に回答する。


「ゆきち様、我らを愚弄するのか!?と怒っています。」

「世界樹様、なにか悪い事をしたのか?と勇者様が言っています。」


「勇者だと思い、ここまで赴いたのに何たることか・・・・」

世界樹様の声が怒りに震えている。


又、勇者ゆきちも

「私が愚弄?えらい世界樹様?この世界では偉いのかもしれませんが・・・所詮”木”でしょう!」


「世界樹様、木の分際で何をいっているのか?と勇者様が言っています。」

「ゆきち様、なんか怒っています。」


メルフィス姫・・・・見かけは良く、社会的地位は高いが・・・

皆さんも気づいているかと思いますがメルフィスは残念お姫様、同時に話しかけられる2人の言葉を正確に伝言できません。


「メルフィスよ勇者に伝えろ。龍族の長にそなたの討伐を許可する。そなたが持っている武器や防具では長の龍の鱗を突き破ることはできない。」

世界樹が低い声で話す。


「ゆきち様、龍族の長が攻撃してくるそうです!私達、龍の鱗を貫く武器、持ってませんよ!」

ゆきちは考える。


なるほど・・・・ボスとの戦闘シーンの前にある、交渉決裂・・・・ってやつだ。

しかし困ったぞ・・・・・龍の鱗を貫く武器・・・・”ドラゴンなんちゃら”を私達、入手していないぞ・・・!


でも順番としては世界樹⇒ドラゴン・・・・といった所だろうか?

ダブルボス戦か・・・・

ロールプレイングゲームでは鉄板な展開!


世界樹とやらを討伐すると・・・


ちゃららちゃっちゃっちゃ~ん♪

勇者ゆきちは、龍を攻撃できる武器、ドラゴンなんちゃらを手に入れた。


となるのでしょう!

そしてドラゴンとの対決!

この小説でもちゃんとした戦闘シーンが展開されるでしょう!


しかし世界樹・・・・どこにいるのだろうか?

メルフィス姫の感じでは周辺にいるようだが。

ゆきちは聖なる力を感じることができない!よって世界樹が何処にあるかもわからない・・・・。

見えない敵(世界樹)と戦う・・・・どうしよう?

ヒットポイントが少ないから先手必勝か?


そうだ・・・・見えない敵への攻撃はこれだ!

ふ・ふ・ふ・・・レディーパーフェクトリー!!


私は静かに剣を抜き天に掲げ叫ぶ

「聖なる光を!」


同時に脳内に響く!

「それはだめ!」

メルフィス姫の叫び・・・・。





ぴろりーん

勇者ゆきちのレベルが上がった。

ヒットポイントが上がった。

伝説の武器と防具で手を抜く戦い方を覚えた。

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