第4話

「翼、OKくれたの!私もう幸せすぎてどうしよう!」

チアキの目はキラキラしていて、テンションも高い。ピョンピョン跳ねるたびにポニーテールが揺れる。ほんとうに幸せそうだ。


マジか。噂を嗅ぎつけた勢いで告白してしまうチアキにも、あっさり承諾してしまう翼にも、驚くというより呆れた。呆れたというと負け惜しみっぽいか。物事ってそんなに順調に運ぶものなんだ、と、遠くの他人事のように感じた。


「私こんなに幸せでいいのかなぁ、涼、応援してくれてありがとね!」

いや、済まないが応援してないんだけど......


悲しい夢だと思いたかった。でも数日経つと2人が一緒にいるところをよく見かけるようになって、これは変わらない現実なのだと受け入れるようになった。

いつまでもクヨクヨしているわけにもいかない。僕はチアキのことを昔からよく知っているという自負を心の支えに、中立であることを決意した。

翼は恋敵である前に良き友なのだ。今回の件に関しても、翼は僕の想いなど知っているはずもなく、それゆえ決して悪意などなかったのだ。


とはいえ翼は変わってしまった。つい数ヶ月前までこんな女子に持て囃される翼ではなかったのに。


やがて、2人は通学を共にするようになった。僕、翼、チアキは家の方向も同じで、登下校時に出会でくわすことも多々あった。

バスから降りて学校まで少しの距離なのに、雪が降っているとチアキがサッと折り畳み傘を広げ、相合傘あいあいがさをするのだった。

最初は目を逸らしがちだったが、だんだん慣れてくる。口惜しいが、並んで歩く2人はお似合いで、最初っから2人の関係はそうだったような気もしてくる。


「待ち合わせがあると、朝に強くなるなぁ。おまけに雪に濡れないし。俺だったらあの距離、傘なんてささないな」

その日、翼を茶化したときの返事だった。


以前に翼の元カノであるアスカがしていたように、大ホールでのカップル昼食も欠かさない。昼休みの男子の輪からは、翼がいない日がほとんどになった。


ところで、アスカも同じクラスで過ごしているが、女子同士は気まずくならないのだろうか。

アスカはというと、翼とのことはまるで何もなかったかのように元気にしている。昼休みも女子グループで、いつもの女子特有の笑い声と悲鳴をあげている。チアキのことは全く問題にせず、楽しそうで何よりだ。

ただ一つ変わったのは、以前にはよくあった男絡みの噂を聞かなくなったこと。以前までは3ヶ月に一回ほど男を変える女だと工業科の男子から聞いたことがあった。もちろん翼には黙っているけど。

しかしアスカは翼と別れて2ヶ月経つが未だに新しい男を作っていない。これは異例だ。と、これも工業科の誰かが言っていた。

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