第3話
「今度の土曜日、アスカたちと遊ぶんだけど涼も来るか?」
「デートなんじゃないの?」
「いや、アスカが友達連れて来いって。よく分からんけど、たまには複数人も楽しいんだと」
「へぇ、てか“たまには”ってもうそんなにデートしてるのか」
「いや、まぁ。家ならよく行くけどアスカの手料理、マジ美味くてさ。毎日でも食べれるよあれは」
素直に認めた翼だが惚気さえもクールだ。
「それで、涼のほかに来そうな奴いるか?頼む」
そう来たら断れない。クラスの数少ない男子同士として協力は必須だ。
「女子の方は誰が来るんだ?言っておくけど僕は合コンみたいなことするつもりないからな」
「さすがにそんなことにはならんだろ。チアキあたりを誘ってみるって言ってたな」
まじか。チアキとアスカってそんな仲良かっただろうか。誘われたところでチアキは応じるのか。好きな人とその彼女を目の当たりにするためにわざわざ。
でも、チアキが参加するなら合コンになっても良いのになと僕は密かに思った。
結局、アスカは誰も連れてこなかった。チアキには断られたという。まぁ当然だ。
「他を当たるのも、なんだかめんどくさくなっちゃって、せっかくだから涼の話もじっくり聞けたらな〜と思って」
というわけでカラオケルームに僕と翼とアスカ。カップルの間に水をさしてしまったように感じたが、勝手に居心地悪くなっているのは僕だけのようだ。二人とも僕の存在を何も気にしていない、むしろ元から仲の良かった3人グループのようになっている。よくもこんな振る舞いができるものだ。もっと2人で、いろいろなことをしなくていいんだろうか。
2人を見ていると仲の良さは自然と伝わってくる。共通の好きなバンドの話になると、確かに2人とも幸福に溢れたような顔で語るのだ。率直に、うらやましかった。ここにチアキもいればなぁという妄想は払拭できぬまま、ただただ二人を観察していた。
アスカはかなり男に慣れているようだった。彼氏である翼にはもちろん、なんでもない僕にも妙に距離が近く、馴れ馴れしい。噂に聞く通り、元彼の人数も多いのだろうなぁ、という感じがした。
そのまま3人で外食し、暗くなった頃にアスカを家に送り届け、僕は翼と帰路についた。
「あー、ラーメン美味かったなぁ」
さっきから翼はそればっかりだ。
「美味かったけど、アスカはラーメンで良かったのか」
「ラーメン嫌いな人なんているのか」
「さすがに、女子だぞ……」
幸いアスカはラーメンに乗り気だったが、無頓着な翼は経験の多いアスカの不満を買ってはないだろうか余計な心配をした。
「楽しそうで何より」
しかし彼らの関係はそう長く続かなかった。どこかで分かっていたような気もするけれど、冬休み明けには2人は別れていた。
あの日、2人が昼食を共にするようになったのが11月。約2ヶ月か、あっという間だけど学生カップルなんてそんなものか。
アスカの方はまたすぐに彼氏を作るのだろうから、僕は翼の肩を持ち慰めようと思った。ところが翼は全く落ち込んでもおらず、さっぱりしていた。
「正月明け会ったときにさ、やつれた顔で『もう疲れた、別れたい』って言われて、それで終わり」
「なんていうか、お疲れ様だな」
恋人に別れを切り出された話ってそんな淡々と語れるものだろうか。
身近では、彼女にフラれたのが許せなくて付きまとっているなんていう話も聞く。その傍らでの、翼の執着のなさには安心した。
ところで僕の恋はまだまだ叶いそうにもない。
「翼とアスカ、別れたんだってさ」
「知ってるよー。今月の13日でしょ。アスカがインスタから翼の写った写真全部消した日ね」
「あ、知ってたんだ。しかもずいぶん詳しいな」
「んー、アスカはビッチだから、そろそろ男変える頃かなぁと思ってたもん」
「なかなか言うな……」
僕は苦笑で返す。
「もしかして喜んでる?」
「アスカのストーリーに、翼の弾き語りよく流れてきてたんだけどね、あれめっちゃかっこいいの。撮ってるのが女だと思うとモヤモヤするのに、なんか見るの辞められないんだよね。それが見られなくなっちゃうかと思うとうーん、残念ってことにしておこ」
やっぱりチアキの目は翼に向いている。目の前にいる僕を透かした先の、遠くの翼を見つめている。
「次は私の番かなぁ」
「ワタシの番?」
「うん。私が、翼をもらう番。明日、翼に告白しようと思う」
息が詰まりそうになり、両手を握りしめた。
「ちょっと急だけどね。付き合えるかなぁ。涼、応援してて!」
どんな展開だよ。
チアキのように、羨む相手に毒舌になれたら楽だろうに、翼が良い奴なのは否定できないし、したくもない。チアキが好きなのは翼であって僕じゃない。チアキと翼は付き合うかもしれない。事実を整理すると自分は板挟み立場にいることに気づき、悔しくて、心が痛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます