第10話 ふたり

「すまんね。余計な邪魔が入った」


「いいえ。おかげで心の整理がついた」


「そうか」


「名前。言うわ。言う。自分の名前も分かる。たぶん、書ける」


「それはいい」


「でもおねがい。先に、あなたの名前を教えて」


「あ、そうか。俺も名乗ってなかったか。すまんすまん。俺は加流奈っていう。加流奈。加えるに、流れるに、奈落の奈」


「加流奈」


「親父と母さんが医療従事者で、なんか出会うきっかけになった薬があってな」


「え、もしかして、カロナール?」


「ご名答。それを文字って、加流奈。品がないだろ。何時摸野加流奈いつものかるな。七文字もある。いつものカロナール、ってな」


「あはは。何それ」


「まあわるい薬じゃないし、気に入ってるよ」


「そうなんだ」


沈黙。


「なんか、緊張するね」


「ああ。俺も少し緊張してる」


「私の名前は」


「うん」


「真名」


「真名っていうのか」


「あっちょっと待って。はじめましての挨拶は後で。私もあるの。名前の由来」


「おう。聞きたいね。どんな由来なんだ?」


「もしゲー」


「もしゲー?」


「スマートフォンって、分かる?」


「ああ。持ってるけど」


「それのゲーム。やったことは?」


「ないな。ゲームはいつもPCだ」


「そう。とにかく、スマートフォンでやるゲームがあるの。おもしろくもつまらなくもないやつ」


「名作じゃん。面白くもつまらなくもないって」


「そこはいいのよ。とにかく」


「うん」


「なんか私が生まれた日に、そのゲームをやってたら、なんか良いやつが当たったらしいの。両親とも」


「へえ」


「だから真名なの。なんか当たったその良いやつが、真名なんちゃらっていうやつらしくて」


「ゲームから取ってんのか」


「おもしろくもつまらなくもないゲームから。だから、人生が」


「面白くもつまらなくもないってか」


「うん」


「ばかみてえだな」


「ほんとに。ばかみたいよ」

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