第9話 初めての親子喧嘩とひとめぼれ

「加流奈っ。ばかやろうっ」


親父。感情を露にする。今まで見たことがない、真っ赤な顔。怒ると、こんな感じになるのか。


「あの子の心に何かあったら、どうするつもりだっ」


「そうか」


分からない。

彼女の無気力は、理解しようとしない周りの人間のせいだ。


「あの子はただでさえ」


「ただでさえ、しにやすい、ってか?」


親父の襟首を掴む。


「そこだ。そこが違う。親父」


親父を持ち上げる。

はじめてかもしれない。自分も。怒っているのは。


「あんたらが勝手にあの子をモノ扱いしたんだろうが」


親父がばたばたしはじめたので、さすがに、降ろしてあげた。


「親父。あの子は自分で自分の名前さえ言ったことがないんだ。彼女は、まだ、生まれてきていない。俺には分かる。同じだからな」


「まて」


「いや待たない。彼女には俺が必要だし、俺にも彼女が必要だ」


彼女は、魅力的だ。

世界中の誰よりも。

会って5分も経たないけど。

一目惚れといっていいかもしれない。特定の誰かを想うことが、こんな感情を、呼び起こすのか。


「待て加流奈。やめろ」


「親父。しばらく入ってくんなよ。顔が赤いぜ」

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