第5話 真名から加流奈へ
同類に会ったことは、なかった。
だから、わけもなく嬉しい。
世界の中に、自分と同じように、しななかっただけという理由で生きている人間がいる。無気力な人がいる。それだけで、なんか、救われたような気分。
べつだん、言葉を必要としなかった。同じだから。生きるのが大変なのに、わざわざ喋る必要性もない。
「すまない」
「えっ」
突然。声をかけられた。
すまない。
何を。
何が。
「君の思うような人間じゃないんだ、俺は」
「なにが?」
目の前の男性。頭を下げる。
「君の心に入り込むような真似をして、ごめん。俺は、無気力に生きてるわけではないんだ」
無気力よりも、驚きのほうが先にきた。
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