閑話 『彼女たちはお揃いが好き』
「紫乃〜、トレッキングシューズってどれがいいんでしょうか?」
「知らないわよ、そんなの。とりあえず高いやつ買っとけばいいんじゃないの」
遠足の前日。買い物に出た黒音と紫乃は、スポーツショップのアウトドアコーナーに居た。
「やっぱり履き心地とかもあるので、全部履いて試してみた方がいいのでは……」
「そんな時間ないわよ!せめて2、3足に候補絞りなさい。私はこれでいいわ、この一番高いの」
「やっぱり安い靴だと底が抜けたりするんでしょうか……」
「毎年いるらしいわね、こういう安い靴買って底が抜ける人。バカみたいよね。怪我するかもしれないのに、こんなところでケチる人間の気が知れないわ」
紫乃がそこにあった安い靴を指差しながら、お金の使い所が分かってない、と呆れている。
二人は旺太郎がどの靴を買ったのか、なんてことは知らないが、紫乃が指さした靴はまさしく旺太郎の選んだものである。
「わ、私も紫乃とおんなじのにしますぅ」
「やめなさいよ!お、お揃いなんて、小学生じゃあるまいし!」
照れたように頬を赤く染めながら、紫乃は拒否する。
「だ、だって紫乃が、安い靴は底が抜けるって行ったんじゃないですか」
「……あぁもう、いいわよ!おんなじの二足ね!」
紫乃はそう言うと、一番高いトレッキングシューズを二足カゴに入れる。
「帽子はどうする?結構汚れそうだから、汚れてもいいやつを買っていこうと思うんだけど」
「私はスポーツ用の帽子をいくつか持っているので大丈夫です」
「……お、お揃いにしないの」
紫乃は、消え入りそうな声でそう言う。その表情からは、恥ずかしさに必死に耐えていることが窺える。
「……や、やっぱりちゃんと登山用の帽子が欲しいかもしれません。いえ、なんだかとても欲しくなってきました!是非買いたいです!」
「そうよね!ついでに白奈と美栗のも買っていくわよ!」
「四人でお揃いですね!」
黒音が帽子を買うという方向に転換すると聞き、紫乃は満面の笑みで嬉しそうに帽子コーナーへ歩く。
「うーん、どうせ汚れるしデザイン重視でいいわよね。……ていっても、全部絶妙にダサいわ……」
「この迷彩柄とかが無難なんじゃないでしょうか」
「そうね、これでいいわ。さ、明日も早いしさっさと帰るわよ」
紫乃は黒音が選んだ帽子を四つカゴに入れると、レジへと歩き購入。即断即決で行動する紫乃のおかげで、日が沈む前に帰宅することができた。
「―――急いで帰ってきたのに!美栗は何してんのよ!」
夕食当番なのに帰ってこない美栗に怒りをぶつけながら作った料理は、旺太郎のペペロンチーノ事件を受け、遠足でお腹を壊さないように、ギリギリまで辛くされていたのだった。
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