第23話 『嗜虐な彼女は悪戯好き②』
「はぁ……。なんだって二日連続で買い物に……」
その日の放課後、旺太郎は最寄り駅にあるスポーツショップの中を歩きながら愚痴を呟いていた。
(いや待て、正式には三日連続か)
ふと、一昨日も手土産を買うために買い物をしたことを思い出す。
(引っ越してから忙しくて勉強がほとんどできてねー……)
一昨日、昨日と、とても長く感じた二日間だったが、その内容はロクなものではない。人間関係の難しさを思い知らされた旺太郎。
特に、嫌われてしまった紫乃と黒音に関して、比較的能動的に動いているため、旺太郎の精神的疲労が蓄積されていく。
(なるだけ早いうちに、せめて普通に接することができるようにならないとな)
だが、一度関係が悪化すれば、時間が経つほどその関係は修復が難しくなるというもの。人間関係の構築には無知な旺太郎だが、皮肉なことに人間関係の破壊には詳しいのだ。
そんな事を考え若干落ち込み気味の旺太郎は、目的だったアウトドア用品のコーナーに辿り着いた。ポケットからガサゴソと遠足のしおりを取り出す。
「軍手、トレッキングシューズ、雨具に帽子が必須……。雨具と軍手は持ってるから、他二つか」
(『忘れた場合はその場で購入できますが、値段が高いため忘れないように』って、忘れたら買わされるって事だもんな……)
旺太郎の本日の買い物の目的、それは遠足に向けた道具を買い揃える事だ。アウトドアコーナーを歩きながら、辺りの商品の値札が目に入る。
「さすがにアウトドアグッズは高いな。貯金崩すしかないか……」
(真面目に働いてて良かったぜ)
旺太郎もこの時ばかりは、去年学校に行かず働いていた自分に感謝をする。そうせざるを得なかったとは言え、旺太郎も初めから高校生になりたかったと言うのが本音だが、そもそも中卒で働き始めた時点で、旺太郎は高校に編入出来るなど考えてもいなかった。
(考えてみれば不思議だよな……。なんで俺が編入できたのか)
旺太郎がそんな謎に思考を割いていると、トレッキングシューズが置いてある一角を発見。
「……高い」
(想定の倍はするぞ……)
その値札を見て、旺太郎は愕然。それもそのはず、旺太郎にとって靴や服に1万円以上かける事など言語道断。ましてや、昨日の赤いシャツが数万円することなど知りもしない旺太郎は、たったの一足でその値段になるなど想定もしていなかった。
普段から激安な靴を履いているのに加え、トレッキングシューズなどと言うものをよく知らない旺太郎は、せいぜい普通の靴より少し高いくらいと踏んでいたのだが。
「お!これは2480円か!」
比較的安価な靴が旺太郎の目に入り、喜びをあらわにする。旺太郎とて他は1万円以上なのに安すぎる、と少し不安がないわけではないが、背に腹は変えられない。
帽子は安価だったため適当なものを見繕い、そのままレジへ向かい、購入。手痛い出費だが、それでも節約できたと考えれば旺太郎には十分。
旺太郎は帰ろう、と意気込んでスポーツショップを出ると、商店街を歩いていく。ふと、映画の宣伝ポスターが目に入る。
「……はぁ」
(『主演、"千年に1人の美少女"、若手No.1女優、星宮織姫』か……。千年に一度って十年に1人くらい出るけど、このキャッチコピー考えたやつは時間の感覚狂ってんのか?)
確かに、千年に一度や百年に一度という文字ほどよく目にするキャッチコピーはない。絶対に良く目にしてはいけないキャッチコピーなのだが。
そんな事を考えながら、小洒落たカフェや古着屋、ボウリング場やケータイショップの横をぼーっと通り過ぎていく。
角を曲がると、先程通った時にはなかった行列が目に入る。その行列の主な構成人員は女子高生、ついで女子大生であろう若い女性が占めている。
(あぁ……なんだっけか、タヒチ……じゃなくて、芋で出来た飲み物……まぁいいか)
旺太郎はその店の行列を傍目に考えながら素通り。最近できたタピオカの有名店なのだが、旺太郎のいた山奥にそんな物があるはずもなく。なんとなく存在は知っている程度の認識。言うなれば、関わりこそないが何故か有名なので名前だけ知っている問題児のような存在。
そんな問題児に構うことなどない、早々に帰宅して勉強をしよう、と旺太郎が店の横を通り過ぎた時だった。
「だーれだっ」
背後から、悪戯っぽい声が聞こえる。本当の問題児が、旺太郎の背後に現れた。
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