第21話 『清楚な彼女は頑固者⑨』
「なんなんですか、その服は!あり得ません!ダサすぎます!これ以上一緒に居るのは恥ずかしくて耐えられません!」
黒音が顔を赤く染めて、旺太郎に怒りをぶつける。これが四人の共通認識だったのだろう、他の三人もじっと旺太郎を見つめている。
「―――ん?」
(な、なんて言った……?服が、ダサいって言ったのか?え、今の流れって……。まじか、恥っず……)
見当違いな推測を立てていたことに気づき、心の中で恥ずかしさに悶える旺太郎。
「あはは、『武士道』ってでっかく書いてあるの、面白くって。いや、言葉だけは男らしいんだけどね、あはは!」
美栗がおかしそうに笑う。
「どこにそんなの売ってるのか、逆に気になってたんです。変態さんは服の趣味まで変態です」
「文字もダサいし、色もよ。黒地に金の文字ってあんた……。いつの時代の不良よ、ほんっとダサい」
「うるせー。先輩が金沢の土産に買ってきてくれたんだ。お気に入りなんだよ」
(めっちゃかっこいいと思ってたんだが……)
去年、働いていた工場の先輩にお土産としてもらったもので、旺太郎の今のブームでもある服だったのだ。そんなお気に入りの洋服を、全員からダサいと否定され、旺太郎はがくりと肩を落とし落ち込んでしまう。
「ですから、早急に着替えてきてください」
「着替えるったって、着替えなんて持って―――」
旺太郎がそう言いかけると、恥ずかしさに少しだけ紅潮しながら、黒音が紙袋を旺太郎に手渡す。
「こっ、これは、あなたの服装が見るに堪えないので、先ほど買っておきました。断じて、先程のお礼などではありませんので、勘違いしないでください」
「ま、まて、金なんて持ってないぞ」
旺太郎は先ほどまでの四人の買い物の金額からこの紙袋の中の服の値段を予想して、寒気が走る。
「もー、いいから受け取りなよ。黒音が勇気出してプレゼントしてくれたんだから」
「ちっ、違います!美栗!変なことを言わないでください!」
「ま、まて、そんな高価なもの受け取るわけには」
「うるさいわね、駄犬のくせに。女の子がプレゼントしてくれてるんだから、ウダウダ言ってないで受け取りなさいよ」
「し、紫乃まで!うわぁん、そんなつもりじゃないんですぅ〜!」
「よしよし、黒音、泣かないで、です。……変態さん、黒音のこと泣かせたんです。許さないです」
「……」
美栗の期待の眼差し、紫乃の蔑む視線、白奈の真顔の言葉。三人からの圧力に屈し、旺太郎はその紙袋を受け取り、走り出す。
「少し待っててくれ」
トイレに駆け込み、着ていた武士道と書かれたシャツを脱ぎ、紙袋の中から服を取り出す。
(こ、これは……)
旺太郎はさっとその服を着ると、元々着ていた服を紙袋の中に戻し、四人のいる場所へ走って戻る。
「待たせたな」
「へぇ、意外と似合うじゃない」
「あはは、陰キャ君が派手になってる」
「一層変態感が増したんです」
「おいコラ、秋月」
太陽のように真っ赤なシャツを着て戻ってきた旺太郎をみて、紫乃、美栗、白奈が三者三様の反応。
「ど、どうでしょうか。少しは気に入って頂けましたか……?」
「あぁ、こういうのは初めてだから嬉しかった。ありがとな」
「!いえ、喜んでいただけたなら何よりです」
眩しい笑顔で喜びを表現する黒音に、旺太郎も少し微笑ましい気持ちになる。
「あっ、違います!別に喜んで欲しかったとかではありませんっ!借りを作っておくのが嫌だっただけなんです!」
(忙しいやつだな……。まぁ、少しだけこいつのことが分かったような気もするし、今日勉強出来なかったのは仕方がないということにしよう)
美栗にいじられ、「うぅ〜」とか「違うんですぅ」とか言っている黒音。そんな仲良し四人組の背中を見て、旺太郎は微笑みながら帰路についた。
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