第18話 『清楚な彼女は頑固者⑥』

 

「ここが黒音の洋服屋さんなんです」


 ガーリーな服が並ぶ店の前まで来ると、白奈が旺太郎にそう説明する。


「ん?お前らは違う店で買うのか?」


「勿論ですよ。みんなお洋服の趣味が違うから、順番に行ってみんなで選ぶんです」


「たしかにバラバラだな」


 目の前にいる白奈と、店の中で服を選んでいる黒音、美栗、紫乃の三人の服を見て、服に関して詳しくない旺太郎もそう感じる。


「黒音はこういうガーリーな服が好きなんです。白系のワンピースとか、スカートとかです」


「へー、どっちかというとスポーティなイメージだったけどな」


 今朝のランニングや、初対面の時の力の強さや足の速さから、旺太郎は勝手に黒音に対してスポーティなイメージを抱いていた。


「黒音は運動神経バツグンだから、間違いじゃないんです」


「そうなのか」


「白奈〜?早く来なさいよ〜!」


 店の外で駄弁っていると、紫乃が中から手を振って白奈を呼ぶ。居場所もなく白奈に着いていき店に入る旺太郎だが、紫乃の近くまで行くと、


「なによ、あんたはお呼びじゃないわ、駄犬。戻りなさい、ハウスよ」


「てめぇ……」


 紫乃による犬扱いに対し、苛立ちを露わにする旺太郎。


「あーら、ご主人様に歯向かうなんて。躾が必要かしら」


「誰がご主人様だ」


 だが紫乃の言う通り、中にいてもやることが無いため、旺太郎は近くにあったベンチに座り、勉強しながら黒音の買い物が終わるのを待つ。


「ぐ……っ」


 突如、旺太郎を深刻な腹痛が襲う。窮地に陥った旺太郎の脳は急速回転、その腹痛の原因を瞬時に導き出す。


「あの野郎……!」


(昨日の激辛ペペロンチーノか……!)


 激辛ペペロンチーノ、その刺激によって腹を下した。旺太郎は一瞬の間にそう結論づけると、すぐさま吊り看板に視線を移す。御手洗いの文字を発見し、なるべく刺激を与えないよう最小限の早歩きで向かう。


「急げ……っ!」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「良い買い物が出来ました!ありがとうございます」


 上機嫌で笑顔を浮かべながら、黒音は紫乃、美栗、白奈の三人に感謝の言葉を述べる。


「そ、良かったわ」


「うんうん、すごい似合ってたよ」


「さすが爆乳オバケ、です」


 そう言いながら、白奈が黒音の胸を後ろから揉みしだく。


「かっ、関係ありません!」


「あはは」


 頬を赤らめながらバッと白奈の手から逃げる黒音と、それを見て笑う美栗。


「次は私の店ね。……あれ、あの駄犬どこ行ったのよ」


「あ!なんか向こうに歩いて行ってますね」


 店の外で待っているはずの旺太郎がいないことに紫乃が気付くと、黒音が早歩きでどこかへ向かう旺太郎を見つける。


「あはは。陰キャ君、レディースの階だから逃げちゃったのかな」


 美栗が楽しそうに笑いながらそう言う。


「トイレじゃないんですか」


「はぁ……。全く、あの人は何をしているのですか……。トイレにしろ、一言ぐらい伝えられないのですか」


「……」


 旺太郎に呆れたように黒音がそう言うが、白奈のトイレ発言に思い当たる節があったのか、紫乃が微妙な表情で黙り込む。


(ペペロンチーノ……!最悪だわ……。みんなに迷惑かけることになるなんて)


 紫乃は心の中で少し反省。


「わ、私、あいつのこと待ってるから、あんたたち先に服選んでていいわよ」


 そう言って旺太郎の行った方に歩いて行こうとする紫乃に、黒音が後ろから声をかける。


「紫乃、私が行きます。三人はまだ買い物していないのですし、三人で回っていて下さい」


「なら私も黒音と行くわ。先に二人で―――」


「しーのっ!今日はあんまり時間ないんだから、黒音の言う通りだよ。ほら、いこいこ」


 二人で待つ、そう言いかけた紫乃の言葉を美栗が遮ると、そのまま手を引いて次の目的地へと歩き出す。


「え、いや、でも……」


「何かあったら連絡しますね」


「黒音、任せたよ!」


 振り返ってサムズアップしながら黒音に旺太郎を任せる美栗。


「健闘を祈る、です」


 横で歩きながらそんな美栗を見た白奈も、何かにピンと来たのか、振り返って敬礼し、黒音に向かってそう言った。

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