第17話 『清楚な彼女は頑固者⑤』
「お、おじゃましまーす」
荷物をスーツケースに詰め込み、そのまま歩いてひとりで家に帰った旺太郎。昨日の反省を活かし、旺太郎はぎこちなくもあるが、一言挨拶をする。
(……ん?あれは……秋月か)
ふと廊下の先を見ると、白奈がリビングからひょこっと顔だけ覗かせて、旺太郎の方をじーっと見つめている。
「な、なんだよ」
「変態さん、やり直しです」
「え?」
ムスッとした表情でそう言ってくる白奈に困惑する旺太郎。
「入っちゃダメです、もう一回帰ってくるんです」
「ちょ、おい」
そう言いながらトコトコと旺太郎に近づき、白奈は家の外に旺太郎を押し出す。
「なんなんだ……。やっぱりあいつが一番分かんねえ」
(何がダメだったんだ。やり直し?意味がわからん……)
初対面の時と言い、今のことと言い、白奈に、奔放すぎるといった印象を抱く旺太郎。困惑している間に、されるがままに押し出されてしまった旺太郎は、もう一度ドアを開けて家に入る。
「おじゃまします」
「……及第点ですね。声が小さいんです。大きな声で挨拶しましょうって、習わなかったんですか」
「お前が一番声小さいだろ」
「……はっ!」
旺太郎が思わずツッコミを入れる。あまり抑揚をつけず呟くように喋る白奈の声は、他の人に比べて小さいのだ。
そんなツッコミをされた白奈は、一瞬固まってから、眠そうな目を大きく開けて、まるで気が付かなかったと言わんばかりに驚く。
「……私はいいんです。変態さんのくせにナマイキです」
「お前……」
(マイペース過ぎんだろこいつ……)
そんなやりとりが終わり、ようやく靴を脱ぎ家に入ることができた旺太郎。家の中で引きずるわけにもいかず、昨日より重くなったスーツケースを持ち上げて部屋まで運ぶ。
(クソ……遠い……!)
角にある部屋が旺太郎だが、階段から一番遠いその位置が今の旺太郎には憎らしく感じる。
「ふぅ……。日々の運動の賜物だな」
部屋に到着した旺太郎は、まずは私服に着替える。それからスーツケースを開けて教科書を取り出そうとするが、棚が無いことに気付き絶望。
「どうしようか……」
悩みに悩み、旺太郎は開いたスーツケースに綺麗に教科書を立てて並べ出す。その中から教科書を一つ取り出し、予習しようと机につくと、突然ドアをノックする音が聞こえる。
「変態さん、変態さん」
「ん?なんだ秋月」
「出発ですよ」
「……ん?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
ガヤガヤと騒がしい建物の中、旺太郎は同居人の四人の後ろを歩いていた。
「なんでこんなことに……」
「ちょっと、荷物持ちのくせに遅いわよ」
紫乃が振り返って旺太郎を急かす。
「荷物持ちじゃねーよ」
「あら?違うの?じゃあストーカー?」
「ちげーよ!お前らが来いって言うから来たんだろーが!」
30分ほど前のこと。突然白奈に出発すると言われた旺太郎が部屋から出ると、吹き抜けの下の玄関で他の3人が待機していた。旺太郎は準備する暇すらも与えられず、この商業施設へと連れて来られたのだ。
(服を買うって言ってたが……。正直こいつらに新しい服が必要とは思えないな)
旺太郎は四人の服装を見てそんな事を思う。全員季節にあった服装をしており、旺太郎から見ればそれで十分とさえ思える。
「あんたみたいなのが家に居たら部屋に侵入されそうで怖いじゃない。連れてくるしかなかったのよ」
「しねーよ」
やはり旺太郎は紫乃には嫌われているのか、未だに不審者扱いされている。
「まぁまぁ、そんなに重いものは買わないし大丈夫だよ。今日は服とか雑貨とか見るつもりだから」
「荷物持たせる気満々じゃねーか」
美栗の大丈夫という発言に、なにが大丈夫なのかと不安になる旺太郎。そもそも旺太郎は余計な買い物をする金など持っていないし、荷物を持つ気もさらさらないというのに。
「それに……」
美栗がすっと旺太郎の方に近づき、耳打ちする。
「黒音と仲直りするチャンスだよ?頑張らなきゃだね」
「……別に喧嘩してねーよ」
(そもそも喧嘩する以前の問題だろ……)
耳打ちするとすぐ、他の3人の元へ戻っていく美栗。旺太郎は渋々とその後ろを付いて行った。
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