閑話 『彼女たちは騒がしい』

 

 玄関のドアが開き、タオルで汗を拭いながら黒音が帰宅する。


「疲れましたぁ〜」


「おつかれさま。今美栗がシャワーしてるから、一緒に浴びてきちゃいなさい」


 そんな黒音を、ソファで寛ぎながら労う紫乃。


「そうします。白奈、朝食はあとどれぐらいで出来ますか?」


「んー、20分くらいなんです」


 階段まで歩きながら、キッチンで朝食を作っている白奈にそう尋ねる。


「う……。なるべく急ぎますが、遅れたらすみません」


「いいわよ。あ、あとあんたが昨日買った香水、間違えて私が持ってたから部屋に置いといたわ」


「え!……しーーのーー!」


 ついでと言わんばかりにそう報告してくる紫乃に、黒音が頬を膨らませる。


「……てへ」


「てへ、じゃありません!昨日部屋に戻ってからずーっと探してたんですよ!もう!」


 そう言いながら、ずんずんと紫乃のいるソファの方に歩いていく黒音。


「わ、悪かったってば!ちょ、汗臭いからこないで!」


「ま、また言いましたね!?気にしてるんだから言わないでください!その為の香水なんです!」


 ソファに座る紫乃の目の前に立ちはだかった黒音は、恥ずかしさに頬を赤らめながら紫乃に忠告。


「覚悟は出来てますね」


 黒音はそう言うと、紫乃に覆いかぶさるようにソファに膝立ちし、ソファの背もたれに両手をつく。真上から紫乃を見下ろす形になる黒音と、真下からその黒音を見上げる紫乃。


「や、やめ、シャワー浴びたばっかりなのに……!」


 若干涙目になりながら止めるように訴えかける紫乃だが、もはやその声は黒音の耳には入らない。


「ふふふ……」


「ぎゃーーーーー!!!!!」


 不敵な笑みを浮かべながら、黒音は紫乃の顔面を自分の胸に埋め、紫乃が悲鳴を上げる。


「暑いわよ!爆乳オバケ!」


「な……!紫乃だって大して変わりません!お詫びに今度一緒に運動してもらいます!」


「ひ、日焼けしちゃうじゃない!」


「知りません!」


 黒音はさらに強く紫乃を抱きしめる。


「わ、分かったわよ!悪かったわ!」


「もう、紫乃はいつも余計な一言が―――」


 料理をする手を止め、そんな二人にそーっと近づく白奈。紫乃に覆いかぶさる黒音の背後まで忍び寄り、


「楽しそうなんです、ずるいです」


「「ぎゃ!」」


 黒音の背中に抱きつき、下敷きになった紫乃と黒音が思わず声を上げる。


「ちょ、おもいわよ!あんたまで来なくていいのよ!」


「白奈!?朝食はどうしたんですか!?」


「二人だけイチャイチャしててずるいんです」


「してないわよ!二人ともおりなさい!もう、仕方ないわね。みんなでシャワー浴びるわよ」


 その紫乃の言葉で白奈と黒音はソファから降りる。そんな白奈と黒音を見つめて、紫乃が笑い出す。


「……はははは!ったく、なんでいつもこうなるのよ」


「紫乃が余計なこと言うからです!ほら、早くシャワーにいきましょう」


「みんなで行く、です!」


 三人は談笑しながら、美栗のいる浴場へと階段を上っていった。

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