第2話 『彼女たちは同居人②』
「高ぇよ……」
電車に乗る事30分。今、旺太郎がいるのは乗り換えのために降りた大きな駅。どでかい建物、蟻のような人の多さ。どれもこれも彼には馴染みがない。始めてきたわけでは無いが、旺太郎は滅多にこないような場所だ。
そんなどでかい駅の構内にあるデパートで、良さげな菓子折りを探しているのだが。やはり1000円で買えるものなどほとんど見つからない。
(やはり俺のような貧乏人の来るような場所ではなかったな)
「……ふぅ」
少し歩き、端のほうにあったベンチに腰を落ち着ける。周りを見渡すが、彼のようなぼっちは周りを見てもどこにもいない。カップル、友達、学校帰りであろう高校生グループ。すれ違うたびに見られるんだからたまったもんじゃ無い。
「ふ……。やはりひとりこそ至高だ……」
ひとりでいることの良さを知らないとは愚か者め、と旺太郎は内心で嘲笑う。彼はひとりの良さを知っている。他人に気を使わない悠々自適、気ままに過ごせるとは何と楽なことだろう。
人間関係とはとても面倒なものである。特に恋愛は最も愚かで本能的なものであり、先を考えない阿呆が行う行為だ。そんなものにかまけている暇があるなら、より良い未来のために勉強した方がいいなど自明である。以上が旺太郎の拗らせた思考だ。
そんな彼目の前のベンチに女子三人組が腰掛ける。スマホや食べ物を片手に楽しそうに喋っている。
(猿かよ。まったく騒がしいな。こんな公共の場で他人に迷惑をかけるとは頭がいかれてるな)
そんな女子たちに怪訝な視線を向けていた旺太郎だが、ふと彼女らを意識の外に退け、デパートのマップを見て良さげな店を探しておく。
「どいつもうまそうだな……」
店の名前と共に掲載されている商品にも目を通すが、どれも美味しそうに撮られている。
(地元の山くらいの広さはありそうだな……。どうなってんだ、本当に)
かなり広く、全部回るとなると2時間は必要になりそうだ。やはり候補を絞って回るしかない。
「あの」
「ん?」
旺太郎がそんな事を考えていると突然、女の子に声を掛けられる。銀や白というような色の髪にコスモスの髪飾りをつけ、サイドテールの髪型をした女の子が、無表情で彼を見つめている。それも、超至近距離で。
「近っ!?」
思わず彼女から少し離れる旺太郎。
「見てたんですよね」
「……ん?マップが見たいってことか?」
「さっき私たちのこと、見てたんですよね」
「何を……」
(待てよ。残りの二人はもういなくなったが、さっきの女子三人組の一人にこいつがいたようないなかったような……)
となると、煩いと思って不機嫌な顔で見ていたのがバレていた、と言うところか。デフォルトで他人に興味のない旺太郎は、目の前の彼女をさっき見たかどうかすら覚えていない。
「あぁ、ちょっと煩かったぞ、気をつけてくれ」
「お前、犯罪者みたいな気持ち悪い顔してたんです」
「はっきり言い過ぎだろ!別に真顔だったと思うけどね!?」
「変態さんですか?警備員さん呼んでもいいですか?」
「!?」
彼女は表情を変えずにそう言い放つ。公共の場で警備員などを呼ばれた時、男性の立場が圧倒的に低いのは現代社会において誰もが知ること。当然、旺太郎もそう考えている。
(話が飛びすぎだろ!いきなりそんな事言うか!?)
「い、いやだから、お前らが煩いから睨んでただけで」
「嘘です。きっとお前の頭の中で私たちがイヤらしい目にあってたに違いないんです」
(なんなんだこいつは!一体俺がいつそんな目でこいつを見たんだよ!そもそもそんな事を考えてるヒマなんてこっちにはないってのに!)
旺太郎は驚きのあまり声も出ない。
「視姦です!って叫んでもいいですか?」
「痴漢です!みたいなノリで言うんじゃねえよ。わ、悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ、落ち着け。睨んだことは謝る。だから―――」
「謝るって事は認めたって事ですね」
「ちげぇよ!」
(なんなんだよこの女は!だから人と関わるのは嫌いなんだ!)
旺太郎の言葉を遮って認めさせようとする彼女。だが旺太郎もそんな不名誉な事を認めるわけにはいかないし、何より面倒ごとは避けたいと言うのが本音だ。
(明日から学校に通えるってのに……クソ……!)
「どいつもうまそうだなって、私たちを見て言ってたんです」
「な……!?」
(なんでその発言でこうなる!?勘違いも大概にしてくれ!)
これ以上この場にいるのは逆効果だと思った旺太郎は、背中に感じる視線を無視しながら、急いで荷物と共にその場から走り去った。
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