彼女たちは幼馴染〜同居人は全員美少女、だけど超個性的〜

ひよこ大納言

第1話 『彼女たちは同居人①』

 

 木口旺太郎きぐちおうたろう、16歳の春。彼は長年暮らしてきた家に別れを告げていた。


「さて、行くか……」


 山の近くにあるボロボロの木造一軒家。周りは森や山で囲まれており、一番近い家でも50mは離れている。


 一階は駄菓子屋になっており、二階は居住スペースになっている。駄菓子屋と言っても学校帰りの小学生が週に数回訪れるくらいで稼ぎはほとんど無い。この駄菓子屋を切り盛りする旺太郎の祖母の年金で何とか二人、暮らして来たが、貧乏な事に変わりはない。


「だがそんな生活とも今日でおさらばだな」


 その祖母の知り合いの伝手で、都内の高校に編入できる事になったのだ。もちろん編入試験は受けたが、勉強していた甲斐もあり合格。旺太郎は偏差値に関してはよく分からないのだが、いわゆる名門校であると言う事は知っている。


(勉強しといて良かったぜ)


 とは言え、初めは旺太郎も自らの祖母をこんな山奥に置いてはいけないと断ったのだが、どうやら祖母も都内の老人ホームに入居する事になったらしい。何か理由はありそうだったが、はぐらかされてしまい深くは聞けなかった。


 ともあれそんなこんなで、木口旺太郎は明日、私立中野学園に編入する事になったのだ。

 だが勿論、こんな山奥からの登下校は不可能。その為今日はこれから二年間暮らすことになる、学校近くの家への引っ越し。駅から徒歩5分、学校まで徒歩20分と言う最高の立地にも関わらず、家賃や光熱費など諸々は要らないと言うのだから驚きだ。


 とは言え貧乏な彼に持ち物など無いも同然、ぼろぼろのスーツケースを片手にこの家に別れを告げているところだ。


「流石に菓子折りくらい買っていった方がいいか?いやでもここからの交通費で500円だとして、手持ちはこれだけだから、残りはこんなもんで……あとは1週間の食費でこのくらい、か……。つまり1000円で何か手土産を買わなきゃいけねーのか」


 歩きながら考える。最寄りの駅まで徒歩約40分、考える時間は沢山ある。

 わざわざ大きな駅で降りると交通費の無駄になる。だから何か買うなら乗り換えの駅か、家の最寄り駅の二択だ。


(どっちかの駅で良さそうなものがあれば買って行けばいいか。ただの同居人だし手土産はそれで十分だろ)


 となると問題は何を買うか、と言う話になる。同居人は四人、かと言って四人全員に買っていけるほどお金の余裕はない。

 勿論旺太郎はその四人には会ったことも無いし、話したことも無い。だから好みなど知らないし、そもそも性別すら分からない。同居人に関して聞いているのは、旺太郎と同じ学校に編入する事になった同級生という事だけ。


「同級生か……」


(好みとかは分からないが、俺が好きなものを買っていけば安心だろう。変に背伸びして高級品を買うとか、そんな事はしなくていいな)


 これから二年間共に暮らす仲間。深く関わる気は無いが、この程度はしておいた方がいいはずだ。


(勉強していい大学に行って、卒業後は公務員になる。そして俺は安定した楽な生活を送るんだ)


「俺の人生も捨てたもんじゃなかったな!もう誰も俺を止められないぜ!ふはははははは!」


 彼の笑い声は青い空に消えていき、反応してくれたのはやまびこだけだった。

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