第6話 はじめてのダンジョンと爆殺系聖女

 あれからさらに7日が過ぎた。

 僕たちは今日、はじめて<平原洞窟>に挑む。

 初挑戦までに時間が掛ってしまった理由はいくつかある。


 まず僕らのランクで入れるダンジョンは2つしかない。

 <古代神殿>と<平原洞窟>だ。


 このうち<古代神殿>は宝箱が出現しない為、除外した。

 おそらく深部には伝説のアイテムが眠っているが、まだその時ではない。


 つぎに<平原洞窟>だが、ここはスライムがいる。

 スライムは弱いが、打撃に滅法強い。

 僕らの装備は木刀と木の杖。


 撲殺系パーティーだ。


 このまま行っても時間ばかりかかって稼ぎがない。

 だからまずは刃物を買うために、ギルドの依頼をコツコツこなしていた。

 

 しかしお金は貯まらなかった。

 なぜかな。

 なぜか報酬が目減りしちゃうからかな。

 毎日報酬を受け取る度にアンリの目が怖かった。


 しかしこの問題は一気に解決の目途がたった。

 僕が読解していた<光>について、進展があったからだ。


 <光>とは、それすなわち魔力の塊である――。


 なんか<空気>の時も同じ結論だった気がする。


 <空気>をもっと集めたら光るのか?

 光の戦士ムーブができる!?


 まあそこは追々やろう。


 魔力というのは魔の力。

 力である。

 世の中は力があれば大体どうにかる。

 筋肉、権力、財力である。

 もちろん魔力でもいい。


 そこに力があるならば、それを解放してみてはどうだろうか。


 という感じでアンリに伝えてみた。

 最初は杖の先でライフ・シードが光るだけだった。

 しばらくするとぽとりと落ちて、地面に吸い込まれる。


 大地が若返っていく――。


 ぽとり、ぽとりと何度も練習していると、草原ウルフが近づいてきた。


 なんか色々あってイライラしていたのだろう、

 飛び掛かって来たウルフの横っ面を、アンリが思いっきり杖で叩いた。


 そして思いもよらぬ事が起こる。

 杖の先に顕現していたライフ・シードが爆発したのだ。


 草原ウルフは首から上が完全に吹き飛んでいた。

 どうやら魔力の解放を意識しながら衝撃を加えると、爆発するらしい。


 アンリはこれをドヤ顔で<ライフ・ボム>と名付けた。


 めちゃくちゃ物騒な名前だ。

 超カッコいい。

 

 そして爆殺系聖女が誕生したのだった。



----


「見てっ! スライムがゴミのようだわっ!」


 <草原洞窟>にやってきた。


 アンリは沸いてくるスライムを片っ端から<ライフ・ボム>で爆殺していく。

 ぼっかんぼっかんと洞窟の中なのに遠慮なしだ。


 崩落とか大丈夫なの、と思うがダンジョンの壁が崩れることはない。

 B級とかA級の冒険者の使う魔法はもっと強力なものばかりだ。

 ダンジョンが脆かったら冒険譚はショボイ魔法ばかりになってしまう。


 神は冒険譚を望んでいるのだ。

 だからダンジョンの壁は壊れない。

 真理である。


「くっ、俺だって――<エア・スライム>!」


 ぼよん、とスライムが何かに当たった。

 以上。


 スキル格差がひどい……。

 動きの止まったスライムをアンリが爆殺する。

 僕のナイス・アシストだ。

 まあスライムなんてゆっくりとしか動かないから意味ないけど。


「アンリ、奥に進もう。ここらへんには宝箱はないみたいだ」


「ええー、もうちょっと」


 聖女は皆殺しを所望だ。


 スキルが使えて嬉しいのはわかるが、

 これじゃただの弱い者いじめだ。

 僕らが望む冒険じゃない。

 仕方ないな、仲間を正しき道に連れ戻すのもまた英雄の仕事だ。


「アンリ。力に溺れるんじゃない。そんな調子じゃ――呑まれるぞ?」


「そう……ね。ごめんなさい、私としたことが」


「いいんだ。先に進もう」


 <草原洞窟>はその名の通り洞窟タイプのダンジョンだ。

 洞窟の中にはヒカリゴケという光を放つ苔がところどころに生えており、多少薄暗いが視界は保てる。


 前はヒカリゴケに何も思わなかったけど、これは魔力を取り込んで光ってるんだな。


 <アーカイブ>の知識を得てから世界を見ると、新たな気付きが生まれる。

 そして僕はこの世界の秘密に辿り着くわけだ。

 ふふふ。


 今いるのは1Fでスライムの階層だ。

 スライムはまったく儲からない魔物の代名詞といえる。

 ドロップするのは小さな魔石か、スライムの粘液。

 魔石は小さすぎてほとんど値打ちがない。

 スライムの粘液は素材として売れるけど、

 わざわざ空瓶を持ってきて採取するほどの価値はない。

 よって、<草原洞窟>の1Fを狩場とする冒険者はいないのだ。

 

 全部避けて通れるほど数が少ないわけじゃないから、まったくスライム対策せずにここを走り抜けるのはするべきじゃない。


 まあ普通にショートソードとか持ってるだけで十分なんだけどね。

 

 2Fは洞窟ウルフとゴブリンの階層。

 草原ウルフと洞窟ウルフの違いは住んでいる場所だけ。

 と、思えるが実は若干違うらしい。毛並とか、色とか。

 採取クエストでも洞窟ウルフの方が少し報酬がいい。


 ゴブリンは結構厄介だ。

 そこまで強いというわけではない。

 だがあいつらは武器を使う。

 人型の魔物はそれだけで厄介だ。


 別に剣術とかを習ってなくても、人型ってだけで結構強い。


 石を拾って投げつけるだけで、多少強いぐらいの人間は完封できる可能性がある。

 どんな達人でも当たり所が悪ければ死んでしまうのだ。


 まあ達人なら避けろって話だけど。

 洞窟には石ころならいくらでもある。

 しかもちょっと視界が悪い。

 ゴブリンは油断していい相手じゃない。


「こっちに何か動くものがいる。たぶんゴブリンだ」


「距離はわかるの?」


「洞窟だから風の動きを読みやすいな。あの角の向こうぐらいだろう」


 細かい事はまだ分からないが、何かが動いているかどうかぐらいは、今の<エア・コントロール>でも把握できる。


 相手より先に存在に気付く、それだけで物凄く有利だ。

 特に洞窟内では風が少ないから空気が動けばすぐ分かる。


 僕らは角の手前で待ち伏せをすることにした。

 匂いや息遣いが届かないように少し逆風にする。


「っし!」


「ァギャ!」


 ぼけーっと角を曲がって来たゴブリンの喉元に木剣を突き入れた。


 一撃必殺。


 血を払うように木剣を振り、腰に収める。

 血もついてないし鞘もないんだけどね。


「<エア・コントロール> 凄いじゃない」


「まあ、どんなスキルも使い手次第ってことさ」


 ちなみに人型かどうかぐらいは分かるが、冒険者とゴブリンの違いまでは分からない。

 つまり今のが他の冒険者だったら大分マズい事になっていた。


 僕はやってしまってからその事に気付いた。

 うーん。

 避けないのはゴブリン。

 避けるのはよく訓練されたゴブリン。


 よし、問題ないな。

 

 それから何度か同じ手法でゴブリンを倒した。

 ゴブリンの魔石は1個で銀貨1枚。

 そんなに嵩張らないし回収していく。

 

 一度、シーフらしき冒険者が角を曲がってきたが、ぎりぎり刺突を避けた。


 パーティの斥候だったようだ。

 謝ったのだけど、めっちゃビビッて逃げて行った。


 僕の突きを避けるとは……、あいつは強くなるぜ。

 ふっ。

 まあ途中で気づいたから手加減したんだけどね。

 本当だ。強がりじゃない。


 ……次は外さない。


「ねえ3Fに行ってみない?」


 1Fでも2Fでも宝箱が全然見つからなかった為、アンリがそう提案してきた。

 まあそんな簡単に見つけられたら冒険者は皆もっと裕福だし、仕方ない。


 冒険者が危険を冒して深層を目指すのは理由がある。


 深い階層ほど宝箱は見つかりやすく、物がいい。

 理由はわからない。

 そもそもダンジョンに宝箱が出現する理由からして不明だ。

 ダンジョンが宝箱を作り、冒険者を呼び込んでいると言った学者もいる。

 今まさにその通りになっているのだから、的外れというわけじゃないだろう。


「3Fはポイズン・リザードか。毒消しは1つずつしかないぞ」


「あら、行く前からヘマをする心配かしら?」


「言ってくれる。いいぜ、行こう」


 肩に木刀を乗せ、強者ムーブで僕は先に進んだ。


 僕らは冒険者だ。

 そこに冒険があるのなら、立ち止まることはしない――。







 ちなみに毒消しは3つずつ用意してある。

 準備は万端である。


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