第4話 またオレ何かやっちゃいました?
スキルを授かり神託を受けた翌日、僕らは冒険者ギルドにやってきた。
まだ朝が早い時間だから依頼受注前の冒険者が多くいることだろう。
洗礼を受けたばかりの、まだ子供に見える僕らが冒険者登録をすれば、きっと「おいおい、こんな弱そうな奴らが冒険者かよ」と、ガラの悪い先輩冒険者が絡んでくるに違いない。
僕らは将来この新人冒険者ムーブをする為に、これまで冒険者ギルドには立ち寄らないようにしていたのだ。
どんなガラの悪いやつが絡んでくるのか……、まったく楽しみだ。
「いこうアンリ」
「ええ」
冒険者ギルドの中に入ると、一斉に冒険者達がこちらをみた。
そして勢いよく目を逸らした。
あれ、なんか違くない?
「ここが冒険者ギルドか。よし、これから冒険者として一旗あげてやるぜー」
「そうね。きっと私たちは凄い冒険者になるわー」
あえて聞こえるように新人アピールをしたのに誰もこちらを見ない。
なぜだ。
これから登録する新人が一旗げるとか、凄い冒険者になるとか生意気だろう。
こいよ! 絡んでこいよ!
熱烈な視線を送っているにも関わらず、誰も僕らと目を合わせようとしない。
仕方がないので僕は自分からいく事にする。
「ふーん。冒険者ギルドの中って酒場もあるんだな」
「――っ!」
こんな朝っぱらから酒を飲んでる明らかにガラの悪そうな冒険者。
馴れ馴れしくその顔を覗き込んで話しかける。
しかし彼は一瞬僕と目が合うと、びくっと肩を震わせて顔を背けた。
「こんな朝からお酒だなんて、冒険者って簡単に稼げるのね」
顔を背けた先からアンリが攻める。
冒険者は小さく悲鳴を上げて、椅子から転げ落ちるようにして走っていってしまった。
誰もいなくなったテーブルを挟んで、僕とアンリは目を合わせる。
なんか、思ってた反応と違うんだがどうしよう。
せっかく登録にきた新人冒険者が絡まれたところを返り討ちにして、「な、こいつら一体何者――」っていう有望新人冒険者ムーブを楽しみにしていたのに……。
僕は他に誰かいないか周りを見渡す。
視線の先の首がぐりんぐりん回る。
ははは、恥ずかしがり屋さん達め。
そんな人見知りで冒険者じゃ苦労してるだろうなあ。
「あー、君たち。そこの君たち」
「はい?」
奥のカウンターから眼鏡をかけた受付の男の人が呼んでいる。
「登録に来たのかな? 違うよね? そんなことないよね? ね?」
「――! バカにしないで、これでも成人してるんだから!」
お、受付で侮られる新人ムーブか。
アンリが嬉しそうに食いついた。
受付の人はすぐに全力で否定してきた。
「うわっ、やばい! 違うよそうじゃない! そういう意味で言ったんじゃないよ!」
「いや、わかってるよ。確かに俺たちは若いからな。でも――もう少し見る目を鍛えたほうがいいな」
「やめてやめて! 巻き込まないで! あ、ちょ、先輩どこいくんですか!」
僕らの相手をしてくれている受付の人の周りから人がいなくなる。
なんだか泣きそうな顔をしてるんだが。
ははあ、なるほど。
わかったぞ。
きっとこの受付の人も新人だな?
大丈夫、僕らはこのパターンもきちんと押さえている。
彼は伝説の冒険者の専属受付として、様々なクエストをさばき、そして彼が将来ギルドマスターになった時、冒険者達に噂されるのだ。
実はギルドマスターは新人の頃、あの伝説の冒険者の専属受付をやってたのだと。
いいね。悪くない。
「――共に成長して行こう。受付の人」
「あれ、なんか仲間認定されてます!?」
「誰でも最初は新人だもの。でも、あんまりヘマばかりしたらダメなんだからね?」
アンリが出来るお姉さんムーブでウインクをする。
新人じゃないですよ!? と何か喚いているがスルーだ。
「ところで俺たちは冒険者登録に来たんだが、ギルドマスターはいるか?」
「なんで新人が冒険者登録でギルドマスター呼びつけるんですか!」
「まあ呼ばなくてもいいけど。どのみち僕らの試験の結果をみて――飛んでくるぜ?」
「マスタぁーー! マスタぁーーーー!! たすけてぇぇ!!」
そんなに慌ててギルドマスターを呼ばなくてもいいのだが、どうやら僕たちから只ならぬ気配を感じ取ったらしい。
まいったな。
これじゃアンリのスキルもいつまで隠し通せるか……。
「どうしましたホロホロ君。こんな朝っぱらから」
新人君、ホロホロ君っていうのか。
降りてきたギルドマスターは細見の、いかにも事務職って感じの外見だった。
んー。筋肉隆々のつるっぱげマスターじゃないのか。
「この子達、例の冒険者狩りの子達ですよ! ついに冒険者登録に……!」
冒険者狩りって。
確かに僕とアンリは強くなるためにあらゆる武芸者に教えを請うてきた。
お金がないので致し方なく、手当り次第に襲いかかるという実戦形式を取るしかなかったのだが……。
4歳で初めた当初は返り討ちに合う毎日だったが、ここ数年は外から来る冒険者以外には負けなしになった。
ダンジョンに潜る冒険者は所謂レベルアップというやつをしていて、一般人より身体能力がずっと高い。
理屈は分からないが、ダンジョンに長く居たり、魔物を倒すと段々と身体能力が上がっていくそうだ。それをレベルアップと呼んでいる。
そして長い間ダンジョンに潜らないでいると、上がった身体能力は元に戻っていくんだとか。
僕らはまだダンジョンに潜った事がないのでレベルアップはしていないが、それでもそこいらの冒険者には負けない。
まあマイラ島には強い魔物がいるダンジョンはないから、冒険者達もそこまで身体能力が一般人とかけ離れているわけじゃないんだけどね。
そういえばさっきのガラの悪そうな冒険者も見た事があるような……。
立ち合いに負けただけであの反応は、ちょっとやり過ぎな気もするが。
「ふむ。まあ冒険者登録は成人すれば誰でもできます。この子達は罪人でもないでしょう?」
「普通は捕まりますが、相手が冒険者なので少しくらいの揉め事では罪に問われない上、この子達が絡むといくら呼んでも衛士が来ないという噂です」
「なんですかそれ……。まあとにかく登録はしてあげなさい」
「くっ……、きっと後悔しますよ」
ホロホロ君は奥から水晶のようなものを取り出してきた。
あれか、魔力測定とかそういったやつか。
魔力が多いと色が変わるとか、光が強くなるとかそういった類のやつか。
あまりに魔力が強くて水晶が壊れて、「あ、ああ……どうやら故障していたようですね」とかいうイベントだな!
「これはスキルチェッカーといいます。これに手を触れてくれれば登録完了です」
「手を触れるだけ? 登録用紙とかはないのか?」
「この水晶に触れて名前を思い浮かべるだけで、本部に記録されますから」
アンリと顔を見合わせる。
これはマズいかもしれない。
スキルチェッカーなるもので<ライフ・シード>のスキルがバレてしまう。
もしバレてしまえば――。
同じことを思ったのだろう、アンリも僕をみてニヤついている。
そう、アンリが実はレアスキルを持っている新人冒険者ムーブを起こしてしまう!
僕は下級スキルしかないのに。ずるいぞ!
「私からやります」
「いや、アンリ。ここは俺から――」
「大丈夫よディ。ありがとう」
「いやいや、何か起こるかわからないし」
「ふふ。心配性ね」
「いやいやいや――」
せめて先にやらないと!
レアスキル持ちの後は確実に注目が集まる。
そこで下級スキルなんて嫌すぎる!
牽制し合っている僕らにホロホロ君が声をかける。
「あのー。登録するの名前だけなんで、どちらからでも……」
「名前だけ? スキル名は?」
「スキル名は大事な個人情報ですから。開示しませんよ」
「そ、そうか。じゃあアンリからどうぞ」
「……」
明らかに落胆した様子のアンリ。
抜け駆けしようとするからだぞ。
アンリがゆっくりと水晶に手を触れる。
この時僕はすっかり失念していた。
水晶の名前がスキルチェッカーだという事を。
「うっ――」
「こ、これは――!」
眩しく光り輝く水晶。
明らかに通常動作じゃないだろう。
ギルドマスターもホロホロ君も驚いている様子だし。
何、魔力測定機能とかついてんの?
先に言ってよ!
光が収まり、ホロホロ君が水晶を覗き込む。
「アンリ・ロッリ。登録完了です……」
「今の光は上級……? いや、レアスキルか。いやはや、凄い新人が来たものだ」
「力を得てはいけない人が授かってしまった気がしますが……」
どうやら光の強さはスキルの強さを計るものらしい。
次どうぞ、とアンリが僕の番を促す。
なんだその顔! 聖女の口もとにゲスの目元!
さっきまで目も合わせなかった冒険者たちが、まさかあいつも……? なんて小声で囁き合っているのが聞こえる。
シチュエーション的には美味しいけど結果がマズい!
「どうしたのディ? 早く登録してしまいましょう?」
くっ、勝者の余裕がうらめしい。
いつか僕も覚醒してレアスキルを授かるとはいえ、今はまだ下級スキルだ。
侮られる新人からの逆転ムーブも悪くはないが、
アンリにおんぶに抱っこと思われるのはよろしくない。
いや待てよ。スキル覚醒するって事は僕の中に強力なスキルの力が眠っているという事。
そうであればスキルチェッカーはその秘めたる力を感じ取り、アンリの時のように、いやそれ以上に光り輝くに違いない!
なんだ、心配して損した!
ホロホロ君が僕の前に水晶を置いた。
「では次、登録お願いします」
「ああ。ところでギルドマスター」
「なんだ?」
「別に――壊してしまっても構わないんだろう?」
「いやダメに決まっているだろう」
僕の力にスキルチェッカーが耐えられない可能性を心配したのだが。
まあきっと前例がないんだろうな。
僕はやれやれと首を振りながら水晶に触れた。
水晶はほんのりと光を放つ。
先ほどのアンリとは比べ物にならない程の弱弱しい光だ。
「よかった普通だ。これは下級ランクの――」
「いや、まだだ」
ホロホロ君が水晶を覗こうとするが、これで終わりなわけがない。
僕は水晶を思い切り握りしめた。
ほら読み取れ! 僕の奥底に眠るスキルの力を!
ギリギリと全力で水晶を握りつぶす。
だが光量は増えない。
ちょっとこのスキルチェッカー古いんじゃないですかー!?
「気持ちはわかるけど力を込めても結果は変わら――」
「まだだぁぁぁ!!」
うおぉぉぉぉ!
これが! 僕の! 全力だあぁぁぁぁぁぁ!!
「だからそんなに力を込めても――って! ぶつけないで! 水晶を机の角にぶつけないで!」
「感じる――! 俺の奥底にあるレアスキルの脈動を!」
「違うから! それ脈動じゃなくて机にぶつけてる衝撃だから!」
「今こそ目覚めろ! 俺の力――!」
「目を覚ますのは君の方だから! やめてーーーー!!」
思い切り振りかぶった水晶が机の角にあたる瞬間、目を開けていられないほどの眩い光がギルド内を覆った。
明らかに先程のアンリの光よりも眩しい。
こ、これが僕の秘められた力――。
ゆっくりと光が収まり、僕の手の中にあった水晶に目を向けると、ぱっくりと割れて真っ二つになっていた。
く、やはり僕の力に耐えきれなかったか……!
「ああー! スキルチェッカーが壊れてる!」
「やはり、俺の持つスキルの力に耐えきれなかったようだ」
「いやいやいや! 思いっきり机に叩きつけてたせいですよ!!」
周りを見渡すと、なんだかドン引きしている様子だ。
やはり上級を超えるスキルとなると理解が追いつかないのだろう。
アンリだけは平然としている。
うーん、僕からしたら当然の結果なんだけど。
これは、あれかなあ――。
口をあけて唖然としているギルドマスターに対して、僕は頬をポリポリとかきながら言った。
「あー……。またオレ何かやっちゃいました?」
「やっちゃってるでしょうがぁぁーーーー!!」
呆けたままのギルドマスターに代わり、ホロホロ君の絶叫がこだました。
こうして僕らの伝説的な冒険者登録は波乱の幕引きとなった。
そして僕は借金を負った。
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