第5話 近くにあるもの

 ここから僕の人生は大きく変わっていった・・・。

莉子が【劇団その日暮らし】に返信してから、返事はすぐに返ってきて会う約束までとんとん拍子で進んでしまった。

 正直、こんなに早く事が進むと思ってなかった僕の頭の中は不安という言葉でいっぱいだった。


【劇団その日暮らし】に会う日の前日は、緊張しすぎて寝れなかった。

莉子には「言い出しっぺなんだからついて来いよ」なんて言ったけど、内心一人で会う勇気なんてなかったのは絶対に莉子には秘密だ。


 緊張して時間を急いだら、約束していた時間の四十分前に着いてしまった、僕と莉子。


莉子  「絶対に早かったよね」

幸四郎 「・・・」

莉子  「こんな早く来る必要あった?」

幸四郎 「何でも十分前行動って言うだろ」

莉子  「十分どころの騒ぎじゃないよ、絶対もうちょっとゆっくりできた」

幸四郎 「遅れるよりましだろ」

莉子  「まぁそうだけど、でもこんなに早く来なくても・・・」

幸四郎 「いいんだ、いつもギリギリな莉子よりはましだ」

莉子  「悪かったわね、いつもギリギリで・・・」


 莉子と会話しながらも緊張を隠せない幸四郎。


莉子  「・・・幸四郎、緊張してる?」

幸四郎 「別にっしてないけど(軽く声が裏返る)」

莉子  「してるじゃん」 

幸四郎 「うるさいな」

莉子  「昔っからそうだよね、ほんと臆病なんだから」

幸四郎 「・・・」

莉子  「せっかくのチャンスなんだからものにしないと!ビビってる場合じゃな

    いよ!」

幸四郎 「ビビってないし・・・」

莉子  「素直じゃないなぁ」

幸四郎 「うるさいよ」

莉子  「ほらリラック~スリラック~ス」

幸四郎 「まったく、連れて来なきゃよかった」

莉子  「別に今から帰ったっていいよ」

幸四郎 「・・・ごめんなさい、帰らないでください」

莉子  「素直でよろしい」

幸四郎 「・・・(少し拗ねた顔をする)」

莉子  「もう何年の付き合いだと思ってるの~勝てると思うな~(クスクス笑う)」


 普段と変わらないことだけど、莉子と笑い合ってる時間は僕の頭の片隅にいる「つまらない」を隠してくれていた。

 

 僕はこの時間が、愛おしかった・・・。



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