『指揮者 処 典』その2
楽員のひとりは、こう、証言する。
『たしかに、ぼくらは、田舎の小さなオケだし、林業で巨大な財をなした町長の趣味から始まった室内オケだし、はじめの頃は、珍しさもあって、また、それなりの看板奏者もいたから、まちおこし、としては、うまくいってましたよ。しかし、あの、ウィルス・パンデミック以来、うまく、活動ができなくなり、有力団員は去り、消滅の寸前まで行きました。そこに現れたのが、処 典さんでした。まあ、世界の有名指揮者には、悪魔的な、オーラとか、超能力みたいな力がある人はいるけど、ぼくらが、関わることはない。でもね、あの人は、明らかに普通の指揮者じゃないです。ぼくらは、全員、彼の意識に吸収され、彼自身と同化するんです。んな、ばかな、と、言われても仕方ないですが、そうなんです。
彼は、ぼくらを、まったく知らない、異次元の感動に巻き込んでしまいます。
指揮者が凡庸なら、それだけですが、そうではないわけです。
かれには、ぼくらには、普段は出せないような、演奏能力を引き出されてしまうのです。
ただし、あとで、くたくたになりますが。
お客様も、そうなんです。
全員が、あの人の、虜になる。
もし、宗教家や、独裁者になったら、たいへんな人になるかもしれないですな。しかし、そういう、権力には、興味がないらしいですが。
そうそう、一人だけ、変わった楽員がいましてね、彼女だけは、彼をいつも、醒めた眼で見ていたらしいです。
彼女だけには、魔法をかけられなかったみたいです。
で、ごたごたに、なったんです。』
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『つまり、あのオケには、化け物が紛れ込んでいると?』
総裁は、処 典に尋ねたのです。
『それが、『不思議が池』と、関係するのかね?たしかに、お膝元の町だが。』
『総裁、あの町は、ただの町ではない。あそこには、別世界の出入口がある。『不思議が池』は、その一つにすぎない、と見た。』
『ほう。ほかに、どこにある?』
『分かっているのは、『不思議が池お気楽饅頭』本舗。しかし、そのふたつだけで、あの、異様な異世界臭は説明が、十分には、できない。ただ、まだ、特定はできていない。もしかしたら、より、深刻なもの、なのかもしれない。たとえば、境界があいまいに、なりつつある、とか。』
『ふむ。調べよう。して、その、楽員の、正体はなにか?』
『おそらくは、不思議が池と繋がる、異世界から来た、地獄の鬼か、怪物だ。人間性を持たない。だから、我がパワーを拒否するのだ。』
『殺るのかね。』
『それが、務めであろう?総裁。』
『よかろう。しかし、女王には、気をつけてやれ。そのまえに、幸子さんが立ちはだかるだろうがな。』
『まあ、あれは、かなり、化け物としては、抜けてるので、却ってやりにくいのは、事実だ。』
『ああ、そうだ。地獄に亡者を送るのが仕事のくせに、人助けばかり、やっている。女王も、それを黙認しておる。極めて、不謹慎だ。正当なこの世界と、化け物の世界が、君が見るように、いまや、混合してしまいつつあるのだろう。『女王』は、それをひたすら、推進している。一方で、キツネの化け物の『女帝』は、この世の征服を目論んでおる。どちらも、我々とは、相容れない。化け物の世界と断絶し、この世にいる化け物は、追放するか、消去すべし。』
『承知。まあ、まずは、ご笑覧あれ。毒をもって、毒を制す。しかるのち、勝負。』
『よかろう。』
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・・・・・・・・・・・・ふろく
『なによ、やましんさん、こちらで出演させるからって言うから見に来たら、化け物の女王って、どういう扱いなのかしら?あたくし、これでも、本物の王女さまですし、永く、女王でもある。もすこし、化け物は、化け物なりの、よい、待遇にしてくださいな。まあ、化け物と、呼ばれるのは、うれしいですが。いささか、中途半端ですわ。つまり、主人公でないのは、心外ですわ。』
女王さま直々の、お言葉である。
『まあまあ、まだ。これからです。』
『だいたい、ほとんどが、途中止めになるみたいね。幸子さんから、報告が、来てますよ。最後まで、きちんと、お書きなさいまし。』
『まあまあ、これからですから。』
『おなじことを……………あ。逃げたか。』
『まあまあ、これからですから。』
え、やましん人形が、なんべんも、同じセリフを、繰り返しております。はい。
『あ、さきに、逃げられましたか。』
『幸子さん、遅い。やましんさんは、逃げ足だけは、早いから。』
『もう、扱い悪いんですよお。女王さまあ。』
『最近、ちょっと、精神崩壊してるからなあ。持つのかしらね。』
『さあ。おまんじゅうあらしい〰️〰️〰️❗で、カツを入れましょう。』
『それは、逆効果かも。』
つづく
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