第3話 一旦の別れ

葛葉は、少し考える仕草をしている。そして、困ったように笑うと一瞬だけ躊躇して言う。


「それは、希少な称号だから非表示にした方が良いと思います。そして、君が心底から信頼できる仲間になら、その称号を教えても大丈夫です。」


その表情は、僕を心配しているようだった。アレンは、嬉しくて思わず笑って頷く。葛葉は、ホッと笑うと話題を変える。アレンは、暢気に話にのる。


その時、葛葉が心苦しそうな表情を一瞬だけした。だが、アレンは気付かなかった。


「葛葉?どうしたの、クエストに行こう!」


「はい、行きましょうか。」


葛葉は、結局……本当の事を話さなかった。


いや、話せなかった。アレンは、まだこの世界に来て日が浅い。下手に、あの称号の事を表で話されるとルイスとして困るのだ。それだけでは無い、アレンの自由も縛られかねない。それは、ベテランプレイヤーのルイスにとっても許せない事だった。


自分が、被害に遭うのはいつもの事だ。


しかし、ついさっきまで初心者だった彼を巻き込む訳にはいかなかった。そう思うくらい、ルイスはアレンの純粋さや性格を気に入っていたのだ。


ルイスは、心の中でアレンのFL L生活での平和を願う。そして、未知なる冒険を楽しんで欲しいと思った。アレンは、暢気に笑ってはしゃいでいる。


ルイスは、心が癒される気がした。


あれ、葛葉?少しだけ、元気がない?あら、やっぱり気のせいだったかな?うーん、まあいっか。


「葛葉、やっぱり前衛は僕?」


「勿論です。残念ながら、この洞窟は最低でも3人で攻略する場所です。なので、傷薬を使ってたら死にますね。という訳で、回復職の僕の出番です。」


葛葉は、耳をピコピコ動かして尻尾を揺らす。そして、えっへん!って雰囲気で言うので笑うアレン。


「ぷふっ……、お世話になります!」


「お任せを。てっ、いつまで笑ってるんです?もしもぉーし、敵さんはもう来てますからね?」


葛葉は、少しだけムスッとして言う。照れ隠しだ。アレンは、その言葉に集中するが既に遅し。


「わぁー!死ぬ死ぬ死ぬ!ぎゃー!」


「まったく、世話が焼けますね。回復!」


すると、アレンから魔物のターゲットが外れ、魔物が葛葉を襲う。しかし、葛葉は怖がる素振りも見せずに範囲魔法で全滅にする。そして、アレンを見てから暢気な雰囲気で周囲を確認しながら近づく。


「こらっ、無闇矢鱈に攻撃したら駄目です。攻撃はですね、当たらなくても挑発になるんです。ダメージが、入らなくっても敵意を持たれやすい。つまりです、君は敵を煽りに煽った形ですね。」


「え?ごっ、ごめん!でも、何で葛葉を襲うの?」


すると、ルイスは苦笑してから言う。


「簡単です。アレン君が、煽ったせいで敵が持った敵意。このゲームでは、ヘイトと言いますが。つまり、僕が君のヘイトを奪ったんですよ。」


え、あれって奪えるの?いや、実際に奪ってたし。ふむ、やっぱり凄いなぁー。ヘイト…、ヘイトね。よしよし、覚えた!やっぱり、ゲーム用語は有るんだね。えっと、全部は覚えられるかな?


やっぱり、葛葉は戦い慣れてる。凄い、僕も少しは良くなってるのかな?少しだけ、不安なんだよね。


うーん、進歩を感じない。そうだ、どうやってヘイトを取ったんだろ。普通に考えたら、僕のヘイトを葛葉が上回れば良い話だろうけど。葛葉は、回復しかしてないよね?攻撃は、範囲魔法?だけだし。


「葛葉、どうやってヘイトを奪ったの?葛葉、回復しかしてないよね?それだけで、僕のヘイトを上回る訳が無いし。うーんと、他に何かしてたかな?」


すると、葛葉は笑顔で説明する。


「実は、攻撃よりも回復の方がヘイトを集めやすいんですよ。せっかく、ダメージを与えられた敵を回復される訳ですから。勿論、イライラしますし。」


アレンは、なるほどとメモを取る。


「そして、回復職は攻撃職よりHPが少ないです。さらに、基本は接近戦に向きません。なので、距離を詰められると打つ手無しです。だから、勝てないと思った弱い敵は回復職から狙います。」


「なるほど、だから距離を取って範囲魔法。」


葛葉は、頷くと歩き出す。アレンは、慌てて追いかける。そして、洞窟を攻略して2時間。


アレンは、レベル30までレベルアップ。


「さて、そろそろ一旦のお別れですね。」


「え?」


葛葉は、メンバーチャットを見せて言う。


「呼び出しですよ。これでも、クランのリーダーですからね。サボリが、バレたので戻ります。そろそろ、レイド戦の予告が来る時期ですからね。というか、予告は公式ではもう出てましたけど。」


そう、葛葉は楽しそうに言う。


「レイド戦?」


「大規模戦闘では、分かりませんか。レイド戦は、大人数で強い敵を協力して倒すイベントです。勿論、人数制限がついてたりしますが。今回は、全プレイヤーが対象ですから。かなり、盛り上がると思いますよ。後、3週間後でしたっけ?なので、ギルドで仲間を集って挑むもよし!自分で、仲間をスカウトしてパーティーを組むのもよしです。」


うはー、専門用語!パーティー?お祝い?


「あの、パーティーって?」


「少ない人数で、行動するプレイヤーの事です。大人数だと、クランになりますね。そして、クラン同士が支え合う約束をして、集まった集団を同盟と言います。まずは、パーティー規模の場所から始めるのをお勧めします。では、また何処かで!」


そう言うと、葛葉は大人数の人達に向かって走り出す。そして、ルイスの姿に戻り何処かに消えた。


まだまだ、聞きたい事もあったけど。頼りっぱなしは、駄目だよね!よし、此処まで手伝って貰ったんだ。僕も、自力で歩き出さなきゃ。


まず、ソロは初心者には辛いって事だよね。となると、ギルドで仲間を集うべき?でも、何か嫌だ。


確か、イベントまで3週間だっけ。


頑張って、仲間とレベルアップと頑張ろう!にしても、葛葉ってクランマスターなんだね。そりゃ、いろいろと詳しい訳だよ。何か、納得だね。


いや、ここではリーダーだったね。


さて、今日はもうログアウトかな。アレンは、楽しそうなワクワクを引き連れてログアウトした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る