第24話 お家問題とお茶会

うーん、眠い。


ノイルは、小さく欠伸をしながら廊下を歩く。


そう言えば、気になる事があるんだよね。剣公爵の継承問題、話題にもされないから外されたと思ってたけど。そうでも、無さそうなんだよねー…。


「ノイル、暇なら書類仕事を手伝ってくれない?」


部下に、大量の本と書類を持たせたエウロスと遭遇する。どうやら、本人も寝不足らしく疲れている。ノイルは、部下さんから書類を受け取り歩く。そして、少しだけ悩んだ末に疑問を聞いておく事に。


「良いよ。それと、聞きたい事があるんだけど。」


ノイルは、部屋に入り書類を仕分けながら書く。


「ん?何かな?」


エウロスは、キョトンとしている。


「剣公爵の、後継ぎ問題はどうなったの?」


「まだ、継ぎたくないの?」


その言葉で、理解した。ノイルは、苦笑する。


「まだ、外されてないよ。貴族の継承権を理解しているでしょ?後継ぎは、長男が優先される。例外として、兄より弟が優れている場合にだけ継承権は他兄弟に渡される。それに、あれは失態じゃない。」


エウロスは、書類から目を離さずに真剣に言う。


「うーん、なるほど。そうだ、勇者はいつ変わったの?知らない人に、なってたけれど。」


すると、エウロスは険しい表情になる。


「君が眠って、2週間経過した頃。悪魔に唆され、ノイルを殺そうとしたんだ。だから、勇者の資格を神様に剥奪されて、残念ながら死刑になったよ。」


ノイルは、驚き書類を落としそうになる。慌てて、書類を机に置いてからエウロスを見る。


「な、なるほど…それは大変だね。」


「そうでも、なかったりする。召喚は、別の国だったし。けどまさか、支援を全て着服しているとは思わないじゃない?やられたよね。支援してたのは、3カ国だけど激怒して聖戦まで起きたし。」


エウロスは、疲れた様にため息を吐き出す。


「それで、聖戦はどうなったの?」


「僕達の勝ちだよ。でも、気になる事がある。」


エウロスは、真剣にペンを置いてから言う。


「とても、住民や商人達が協力的だったんだ。それこそ、誰か統率者が居るかの様な動き方だった。」


考える雰囲気で、深刻な表情をするエウロス。


「住民は、分かるけど商人まで?ナニソレコワイ」


商人の商魂は、とても厄介なのは知っている。それを、動かせる様ならその人は脅威となり得る。


「大丈夫だよ。調べた所、住民や商人は人伝に頼まれたらしい。統率者は、居なかった。正確には、協力する様に働きかけた人は居るけど脅威では無いと判断されたよ。現に、聖戦が終わってから動きは無いからね。他に、聞きたい事は有る?」


「また、何か出たら話すよ。」


2人は、無言で書類整理をする。


「あ、そうだ今夜は出掛けるね。神樹の件、気になるからちゃんと見ようと思って。」


ノイルは、暢気に言えばエウロスは頷く。


「護衛は、ちゃんと連れて行くんだよ?」


すると、嫌そうな表情をするノイル。エウロスは、連れて行くんだよ?っと念押しして笑う。


「確か、神樹には他の賢者も居るよね。クノンを、連れて行く事は出来ない。けど、大丈夫だよね。」


夜に、向かえば神樹の前に人がいる。精霊達が、一瞬だけ庇う仕草をするが、ノイルだと気付くと警戒を解く。ノイルが、隣に来ても気付いてない。


「君は、誰なの?」


「痛っ!」


いきなり、声を掛けられて驚き、術に失敗したのか小さく悲鳴をあげる。ノイルは、その声を知っていた。そして、オロオロして謝る。


「あ、ごめん導師…」


「……。」


無言で、去ろうとする導師の腕を掴む。


「待って、逃げないで。取り敢えず、君と話がしたいんだ。せめて、お茶でもしない?恩を受けてばかりでは、僕も良心が痛むんだよね。」


待って、何か口説いてる感じになってしまった。


「……。」


「協力体制云々は、取り敢えず置いておいてさ。」


ノイルは、真剣に言う。


「僕は、精霊達に頼まれただけです。別に、貴方を助ける為ではありません。お気になさらず。」


静かな声音で、拒絶する様に言う。


「敬語禁止。知ってるんだよ、君がエルフの公爵家の人だってミフィルガルドさんに、聞いたし。」


ミフィルガルド、それを聞いて苦笑した雰囲気。


「なるほど、口が堅いと思っていたのにな……。」


導師は、小さく呟く。


「取り敢えず、一度だけでも良いから…ね?」


「……本当に、一度だけだよ?」


ノイルは、頷く。そして、お茶会場には賢者・竜皇女・導師とその他賢者そしてエウロスと四公爵の人達がいる。導師は、深くフードを被り黙り込む。


「導師、君の事は何て呼べばいいの?」


ノイルは、フレンドリーな雰囲気で言う。


「ルピカ。エデルは、エルフ達が勝手に付けた名前だから嫌い。仕事上でしか、絶対に使わない。」


それに、たんたんと静かな雰囲気で答えるルピカ。


「えっと、なるほど。その、顔を見せてはくれないの?僕としては、ちゃんと顔を見て話したいな。」


「……北の国は、黒髪差別が色濃く残っている。初対面で、素顔を見せられない程ね。だから、僕は信頼できる人にしか顔を見せない。まだ、死にたくないし。まだ、残念ながら死ねない…。」


すると、ノイルは固まり小さく謝罪する。


「その、ごめんね。でも、友達になりたくて。」


すると、ルピカは困った様な雰囲気で言う。


「ルピカの時には、友達は精霊と後は主だけかな。表の姿なら、友達になっても良いけれど。」


ルピカは、どうやら内側に入れてはくれない。


「でも、それは君ではないでしょ?」


「いや、あれも僕だよ。僕が、正気でいる為にあるもう一人の僕さ。道化と言われれば、それまでだけどね。勇者とは、縁があるから繋がらない様に。」


すると、ノイルだけでなくインフィーも驚いた。


ん?今、何て言ったの?勇者と、縁がある?繋がらない様にって、そんなに強い縁なの?


「えっと、勇者と導師の関係って。」


「秘密…。」


ルピカは、素っ気なく言うと窓を見つめる。


「え?え?凄く、気になるんだけど?」


「そこまで、言うならば答えるべきじゃろ!」


インフィーも、堪らず聞いてしまう。


「黒歴史だから、言えない。」


その場が、シーンと静まり返る。すると、ヤックが入ってくる。少しだけ、ホッとするルピカ。


「黒歴史?余計に、混乱してきた…」


ノイルは、混乱する様に呟く。


「で、何の話?」


「僕が、導師であり道化である話。」


すると、ヤックはとても複雑そうな悲しそうな表情をする。そして、少しだけ考えてから言う。


「結局、あの感情は消えてしまったのか?」


「そう言う、女神様との契約だったからね。とっくに、消えてしまったよ。言うの、忘れるくらい。」


ルピカは、キョトンとしてからあっさり言う。


「えっと、良く分からない。」


ノイルは、苦笑しながら言う。


「勇者によって、運命を歪められた被害者なんだよルピカは。しかも、神々から勇者を導く導師に選ばれるなんて地獄だったろうな。それこそ、もう一人の自分を作らなければ正気になれない程な。」


ヤックは、冷たい声音で言う。すると、インフィーは悲しそうな表情をする。ノイルも、複雑な表情をする。ルピカは、思わず笑ってから言う。


「やっぱり、色恋沙汰は人を駄目にするよね。」


すると、ザワッと全員がルピカを見る。


「もう、恋なんて懲り懲りだよ。やっぱ、お仕事が恋人だよね。さあ、朝だしお仕事しよー!」


そう言うと、イヤリングと眼鏡を取り出し俯いて装着。そして、フードを取り早着替えの魔法を使う。


「招待、ありがとう。そろそろ、商談の時間だから表の仕事に戻るよ。それでは、失礼しますね。」


最後らへんの、それではな雰囲気はルカの雰囲気であった。全員が驚き、固まっている。


「ルカ、今日の商談だけど一件追加できる?」


ヤックは、深い溜息を吐き出しエウロス殿下を苦々しく見ている。エウロスは、ニコニコしている。


「別に、構わないけど。えっと、急ぎ案件かな?」


キョトンとして、追加すべく鞄から手帳とペンを取り出す。そして、聞き逃さないようヤックを見る。


「エウロス殿下、本部に手紙出してかなりの取り引きしたらしくお得意様になってた。つまり、指名権を得ちゃった訳よ。本当に、無茶苦茶だよ!俺も、予想外すぎて困ったもん。で、一件追加になる。」


ヤックは、ヤケクソ気味に言う。一応、本人がいるのだが。エウロス殿下は、気にしていない様だ。


「あははは…。まあ、バレればこうなる事も分かってたし。まあ、うん…仕事だから頑張るよ。」


ルカは、メモをしながら乾いた笑い声。ノイルは、このチャンスを逃すまいと決心するのだった。


何だかんだで、ノイルとルピカは仲良くなるのだが。それは、ルピカの話で語られるだろう。




さて、騎士の巡回も終わった。ルピカは、北の帝国に帰ったし暫くは会えないかな。でも、最初は冷たくて怖い印象だったけど。本当の彼は、大人しくて儚げな雰囲気の優しい目をした人だった。


けど、確信的な事がある。


彼は、とても危うい…。具体的には、彼の心がぐちゃぐちゃなのだ。空いた穴を、必死に埋めようとしている。けど、穴は広がるばかり。女神は、消去する事で穴を小さくしようとしたが、一度崩れれば雪崩れるように周りも壊れていく。このままでは、心が壊れてしまう。もし、彼が堕ちた時は彼がしてくれた様に僕も助けたい。けれど、僕に出来るかな。


もう、時間が無いのかもしれない。


せめて、彼の心の穴がどうやって出来たのか。どうして、心の雪崩が始まったのか調べないと。


勇者も、導師については何か隠している。


「せめて、彼に救いがあらんことを…」


精霊王に、ノイルは祈るのだった。


「さて、それと僕はどうやって剣公爵から逃げるか考えないと。まずは、カインだよね。もう、細い体型だし女を侍らせる様な馬鹿じゃない。なら、後は押し付けるのみでしょ!どうやって、押し付けようか?ゆっくり、後で考えておこう。」


ノイルは、1人真剣に言うと寝るのだった。

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