第23話 騎士と商人・賢者と導師

うーん、困った。導師は、どうやら警戒心が高いみたい。森に僕が入った瞬間、僕の正体を見抜き素早く距離を取る。そして、彼がいた場所に着いた時には遥か遠くに。何故かな?僕、何かした?


もしかして、凄く恥ずかしがり屋とか?


取り敢えず、今回も逃げられたし帰ろうかな。そうだ、お友達に何してたのか聞いてみよう。


「お友達、導師は此処で何をしてたの?」


『お歌を、僕達に聴かせてたの!子守唄!』


『あらゆる傷を癒やし、浄化する僕達の為の子守唄だよ!懐かしくて、とても心地良い音色なの!』


なるほど、エルフの魔法は歌だものね。そして、神樹を護るために傷ついた彼らを癒やし、同時に黒精霊にならないよう浄化してくれてたのか。何か、とても申し訳ないな。同時に、感謝しかない。


今の僕は、癒やしの力を使う事が出来ない。


まだ、力が完全には回復していないから。だけど、回復まで行動せず放置してしまえば、大勢の精霊や妖精が死んでいた事は確実なんだよね。竜皇女は、癒やしの能力を持ってないし。


うーん、やっぱり会いたいなぁ。ここで、待ち伏せしても彼は来ないだろし。どうしようかな……。


取り敢えず、今日は遅いし帰ろう……。


「ノイル、また逃げられたの?」


エウロスは、ノイルの表情を見て心配そうに言う。


「うん、どうやら精霊や妖精の治癒と浄化をしてたみたい。どうすれば、会えるんだろうね。」


「うーん、相手は会いたくないみたいだし放置しておくのは?余り、追いかけ回すのもかわいそうだと思うし。彼の仕事、その邪魔になりそう。」


エウロスは、書類を置いて紅茶を飲む。ノイルも、そうだね。っと複雑な表情で呟き部屋に戻る。


精霊や妖精達は、顔を見合わせてからそのうち1人が真剣な表情でノイルに言う。


『あのね、神樹の枝と赤い木の実を使うの。後は、僕がおまじないをかけてあげる。その腕輪を着けてれば、彼の感知魔法を潜り抜けられるよ。』


「お友達、気持ちだけありがとう。そんな事して、彼に嫌われたくないかな。取り敢えず、おやすみ。さあ、明日に備えて君達もちゃんと寝るんだよ?」


ノイルは、そう言うと寝てしまった。




さて、パーティーに出る事になった。慣れないし、出たくなかったけど勇者関連だからね。開始前だけど、勇者が居るからか貴族達が大勢いる。最初は、笑顔で対応していた勇者だけど、現状は無言で疲れたのか俯いている。これは、やばいかもしれない。


「勇者は、疲れてそうだし解散したら?」


「お疲れなのですか?でしたら、私達と…」


言い寄る、世界中の若い令嬢達。負けじと、顔を覚えてもらおうと喰らいつく令息達。


そんな中、悪戯っぽい優しい声音が聞こえる。


「相変わらず、おモテになりますね勇者様。」


すると、凄い勢いで顔を上げて驚く勇者。そして、徐々に心からの笑顔を浮かべる。


「ルカさん、お久しぶりです!」


「注文の品について、説明したいのですがお時間は大丈夫ですか?勿論、勇者パーティー全員の商品を揃えてあります。良ければ、お茶でもしながら。」


ルカと呼ばれた彼は、茶目っ気たっぷりに言う。そして反抗する貴族を、巧みな言葉使いと堂々とした対応で素早く黙らせる。これには、貴族のみならず多くの王族も唸る。彼は、相手を不愉快にさせず、手短に丸め込んだのだ。エウロスも、驚いている。


「流石は、ハルジオン商会の顔役の1人。」


「確か、交渉部門の顔役だっけ?」


ノイルも、ホッとしながら言う。エウロスは、無言で頷く。そして、勇者を見てから言う。


「どうやら、勇者様のお気に入りみたいだね。」


エウロスは、少しだけ心配そうだ。


「だね。けど、大丈夫。直感だけど、彼に悪意を感じない。それに、わざと割り込んでた。そろそろ、勇者が限界だって察してたんだと思う。」


ノイルは、暢気に笑いながら言う。


「何故、最初から割り込まなかったんだと思う?」


エウロスは、真剣な表情で言う。


「急ぎでは、無い商談だったのかも。それに、厄介事に自ら割り込む馬鹿じゃないと思う…し?」


ノイルは、好意的に受け止めていた。しかし、言葉にすると何か引っかかる気がして言葉が途切れる。


何か、導師みたいだね。まあ、気のせいかな?


「どうかしたの?」


「うーん、何でもないや。」


エウロスは、そう?と言うと勇者達を見送った。


帰って来た勇者パーティーは、全員が楽しげに雑談をしていた。ルカと呼ばれた彼は、別のお届け物があるらしく手を振り去って行った。


ノイルは、気になったがパーティーに意識を戻す。




ノイルは、パーティーが終わり騎士服を着る。これから、17特殊騎士団のお仕事が待っているから。


「すみません、そこの騎士様。」


声が掛かったので、振り向くとルカと呼ばれた彼がいる。少しだけ、困った様な表情だ。


「どうかした?」


聖人顔で、にこやかに言う。


「17特殊騎士団に、お荷物を届けたいのですが、場所が聞いた場所ではなさそうなので。」


「なら、一緒に行こうっか。」


ノイルが、そう言えばルカは驚き申し訳ない表情。


「すみません、お手数をおかけします。」


そんな、本心からの言葉にノイルは笑う。


「良いよ、行こうと思ってたし。僕は、第17特殊騎士団の騎士ノイルだよ初めまして。」


「申し遅れました、私はハルジオン商会交渉部門のルカと申します。以後、お見知り置きを。」


騎士団に着き、ルカは商品を渡し代金を受け取る。


「あれ、ベレちゃんが届けるはずじゃ?」


「はい、その予定でした。しかし、親の容体が悪くなったそうで、私がくる事になりました。」


ルカが、謝罪するとゼナは心配そうに言う。


「そっか、それは大変だな。それと、謝らなくて良いさ。顔役自ら、忙しいのにありがとな!」


そんな、2人の会話をノイル含め微笑ましく聞く。


「では、私はこれで失礼します。」


ルカは、部屋から出ていく。ノイルとしても、礼儀正しく品があり気遣いも出来る人だと感じる。


ルカは、書類仕事を終わらせると帰るのだった。


「ノイル、勇者様の茶会に呼ばれてるけど行く?」


エウロスは、暢気に笑って言う。


「それ、断れないやつだよね?」


「まあね。それと、お茶会セッティングも勇者が、ハルジオン商会に頼んでやったらしいんだよね。」


エウロスは、考える様な雰囲気である。


「勇者と彼の、関係が気になるって事?」


ノイルは、首を傾げて言う。


「少し、依存してそうだから…心配だと思って。」


「本人に、聞けば良いんじゃない?彼は、エルフだし嘘はつけない。もともと、エルフは精霊の分類だからね。それに、僕は賢者だからね。」


ノイルは、仕事が終わり帰ろうとするルカを呼ぶ。


「ルカさん、少しだけお話しいいかな?」


「ノイル様、その節は本当にお世話になりました。それで、私にお話しとは?どうかなさいました?」


ルカさんは、優しく微笑んで聞いてくる。


「君と、勇者様の関係が気になって。」


エウロスが、真剣な表情で言う。


「私は、支援者ですよ。勇者様が、この世界に来て間もない頃から、旅を快適に出来る様に消耗品や食品を支援してました。それが、どうしました?」


ルカからは、嘘を感じられず頷くノイル。エウロスも、それを見てからルカを見てから言う。


「勇者は、君に依存している様だから。」


すると、ルカは苦笑する。


「だから、基本は距離を置いているんですけど。私の立場上、勇者様の指名もあり逃げられないのですよね。相当に、貴族様や王族から睨まれてたとしてもです。そして、商会に迷惑をかける事も出来ませんし。なので、私ではどうにも出来ないのです。」


それを聞いて、エウロスは申し訳ない表情を浮かべている。ノイルも、複雑な表情である。


「確かに、勇者には依存の自覚が無さそう。」


ルカは、弱々しく笑うと仲間に呼ばれて去った。


「言っても、多分だけど依存は解けないよ?」


ノイルは、そう言うと歩き出す。


「寧ろ、今の勇者が暴走しないのは彼のおかげ。」


そう、続けるとエウロスも真剣に言う。


「彼には、負担だろうけど…世界の為に、緩衝材になってもらうしかないんだよね。聖女が、既に闇に堕ちかけている様だからさ。困ったものだよ。」


その言葉を、妖精や精霊は聞いて驚き消えた。ノイルは、そんな彼らを真剣に見ていた。


はあ…、なるほど。やっぱりなのかぁ…。


「ルカさん…いや、導師エデルさんも大変だね。」


ノイルの言葉に、エウロスは驚き固まるのだった。

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