第9話 執事と護衛

ノイルは、久しぶりに騎士団の書類仕事をする。ザンザスは、苦笑してノイルに声をかける。


「お前も、苦労するな。体は、大丈夫か?」


「なんとか。」


すると、ザンザスは紙を渡して言う。


「ノイル、これに参加してくれないか?」


「ん?」


ノイルは、紙を見てから考える。見習い騎士、それを集めて全国的な大会を開くらしい。国内でも、優秀な見習い騎士5人を選出させる条件あり。


「で、何故です…。優秀な見習い騎士、それなら第一騎士団に数えられない程に居るでしょう?」


すると、ザンザスはノイルの頭をワシャワシャ。


「この件、四公爵の当主達が絡んでる。四公の次期当主は、全員参加だしな。それに、見習いと言えど全国的な大会だ。国の格を、上げる良い機会だとでも思ってんだろう。それで、お前はどうする?」


「次から、次へと厄介事を……。」


「だな。俺としても、無理矢理に出させる事はしたくない。だから、断っても良いからな。」


ザンザス団長は、そう言ったけど。それは、貴方の立場を悪くする。最初から、拒否権なんて……。


ああ、もう!凄く、イライラしてくるなぁ。いや、分かってたけど。貴族社会に、出たら表に引き摺り出される事くらい。でも、やり方が気にくわない。


どうして、遠回しな脅しなわけ?おかしいでしょ?


最近、こんな事ばかりで嫌になるなぁ……。


ノイルは、書類を片付けてぼんやりと考える。そして、紙を引き出しに直して机に突っ伏す。


「森に、帰りたい……。」


思わず、こぼれた言葉に団長は困った表情をする。


「取り敢えず、今日は帰ってゆっくり休めよ。」


そう言うと、ザンザスは仕事に戻って行った。休むか…。まだ、あの人達は居るんだろうか?


「よーう、ノイル。昼飯に、行こうぜ!」


「あ、はい。今、行きますね。」


ノイルは、立ち上がり追いかける。先輩達と、冗談を言ったりふざけながら食堂に着く。


「ノイル、お前さ……最近。大丈夫か?何か、上に振り回されているだろ?顔色も、少し良くない。」


「え?あー、大丈夫です。」


ノイルは、誤魔化すように笑ってパンを食べる。すると、別の先輩が心配するように言う。


「お前の、大丈夫は信用出来ないんだが?」


「明日から、2日間のお休みを貰ってます。たまには、城下町をブラブラしようかなって。何気に、此処に来てから外に出ていないので。余り、城下町とか詳しく無いんですよ。お散歩ついでに、買い物とかしてみようかと。楽しんで来ます。」


ノイルが、楽しみな雰囲気で言えば、先輩達の表情も思わず緩む。そして、ザンザスは暢気に言う。


「お前にも、子供らしい所が有るんだな。」


「ん?えっと、当たり前じゃないですか。」


すると、複雑そうな表情をするザンザス達。


「まあ、気を付けて行けよ。それと、護衛だが。」


「要りません。」


ノイルは、嫌そうな雰囲気で言う。


「あのな、お前は公爵家の長男だぞ?」


「育ちは、平民ですもん。駄目ですかね?」


すると、全員に怒られてしまう。


「ふむ、面倒だなぁ……。」


「ごめんだけど、護衛はつけてね。護衛は、公爵家から来るはずだから。さっき、部下の人が急いで食堂から出て行ったし。だから、安心してね。」


エウロスは、困ったように声をかける。


「殿下、本心は?」


「うん、凄い不安要素しかないね。護衛が、襲って来たりするかも。だから、帯剣だけはしといて。」


エウロスは、深いため息とともに言う。ノイルは、苦々しい表情でホークを置いてしまう。


「何か、食欲が無くなりました。」


「そう…。何か、ごめんね。」


エウロスは、複雑な表情で謝る。


「いいえ、聞いたのは私ですから。なので、お気になさらず。それより、私に何か用事ですか?」


「うん。今から、お茶会に出れない?」


エウロス殿下は、心底から困ったように言う。


「と、言いますと?」


ノイルは、素晴らしい笑顔で言う。


「うん、ごめんね。一言、バレちゃった☆」


「僕の、プライバシーはどこ行った?」


黒いオーラを、出しながら言う。


「あはっ☆」


ノイルは、ザンザスを見れば頷く。


「良く、分からないが行って来い。」


ノイルは、頷くと部屋に戻る。そして、着替えようとして剣を構える。他人が、部屋に居たからだ。


「驚かせて、申し訳ございません。私は、公爵家より送られました執事クノンと申します。」


ノイルは、驚いた表情になる。何故なら、青年は精霊と人間のハーフだったから。そして、信仰上そのハーフは差別されがちだ。どちらの、宗教からも。


多分だが、嫌がらせのつもりなのだろう。


しかし、彼は精霊の血のせいで、僕を傷つける事が出来ない。ノイルにとって、クノンはこれ以上も無い味方なのである。ノイルは、心から微笑んだ。


一方、クノンも驚いていた。その少年から、精霊王の気配がしたからだ。そして、精霊王の気配がするという事は……。彼は、森の賢者様……全ての理を理解し、全ての精霊の友にして理を司る賢者様。


「あの、ノイル様。」


「取り敢えず、お茶会に行かないと。」


ノイルは、素っ気なく言う。すると、男の人が入って来る。狼の獣人で、首には首輪がついている。


狼の獣人は、ノイルを睨んでから座る。


どうやら、ノイルにってよりも貴族が嫌いみたい。ノイルは、気にした様子もなく獣人の前に立つ。そして、首輪に触れると解除した。獣人は、襲う。


「うーん、粗削りだね。この程度で、僕の護衛?」


ノイルは、素早く回避して笑うと投げ飛ばす。


「ぐっ……」


「お疲れ様、帰って良いよ。公爵家には、僕から話しとくから。取り敢えず、鉱山奴隷送りと処刑だけは回避してみせるね。じゃあ、行こうかクノン。」


クノンは、無言で頷くと歩き出す。


「……お前は、何者だ?」


ノイルは、足を止めてから含みを込めて言う。


「僕の正体は、知らない方が良い。知れば、寿命が縮まるし。あ、怪我は治療しておいたから。余り、無茶な事をしたら駄目だよ?じゃあ、お大事に。」


獣人は、自分の体を確認して驚く。そして、声をかけようとしたがノイルの姿は無かった。


「あいつは、神様か何かか?」


そう、小さく呟いて部屋から去った。

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