第8話 お茶会と断罪
ノイルは、いつものように朝食を食べる。すると、エウロスが隣にファイ達も、いつもの席に座る。そして、今日はあの3人が居た。いやいやいや!待ってよ!ルークさんやアルマさんは、まだ分かるよ?分かるんだけど……姫様?何で、貴女も居るのさ!
「あれ、珍しいね。」
エウロスは、キョトンとして姫様を見る。
「昨日は、ノイルに色々と教えて貰ったし。少しだけ、仲良くしようと思ったの。ノイルって、大人しくて真面目で仕事が出来るし優秀よね。」
すると、エウロスは驚いてから笑う。
「あげないよ?彼は、僕の味方なんだから。」
ノイルは、無言で2人と視線を合わせない。
うわぁー…、朝からやめてよね。もう、隣で言葉の攻防戦だし。僕は、関係ないですよー。いや、実質は中心人物だけど…。ファイ達は、ニヤニヤする。
ああ…、早く食べてしまおう。
「兄様は、たくさんの部下が居るじゃない。」
「それでも、人手不足なんだよ?だから、優秀なノイルを助っ人に出したのに…駄目なものは駄目。」
よし、完食!そそくさ、撤退しよう!
「では、私は此処で失礼します。」
「え?あ!今日、10時からお茶会よ。それでだけど、ノイルには執事服で私の後ろに待機ね。」
ノイルは、驚いて固まりエウロスは険しい表情。
「もう、ノイルには戻って貰う。」
「これは、陛下のご意志よ。後で、兄様にも書類が届くはず。それと、陛下からノイルに伝言ね。」
姫様は、ルークを見るとルークは頷く。
「一つ目は、どちらを主と仰ぐかは自由にしろと。二つ目は、闇が動く。不幸は、芽吹いている。これは、良く分からないが。しっかり伝えたぞ。あ、執事服で待機は暗殺対策だと言っていた。ノイルに、嫌な思いをさせる事になるが頼むと……。」
「陛下も、お人が悪い。頼むは、命令と同意。最初から、此方には拒否権が無いとの同じ。あえて、僕に伝言を伝える意味は何だろうね。出来れば、このまま平和に解決して欲しいんだけど…無理かな?」
ノイルは、少しだけ疲れたように言う。
「無理じゃない?」
「無理よね。」
「やっぱり、そうなりますか。ちくしょう……」
エウロスは、考えるように言う。フローディアも、紅茶を飲み言う。ノイルは、頭が痛そうに呻く。
「あー、何かあれば協力するね。」
「エウロス殿下、ありがとうございます。」
すると、執事が入って来る。
「王宮執事の、クラナスです。陛下に、ノイル様の執事作法の教育と服の準備を頼まれました。」
ノイルは、無言で殿下達を見る。
「「ノイル、行ってらっしゃい。」」
あ、見捨てられた。ええーい、やってやるよ!
「陛下は、僕に何をさせたいんだろう?謎だ。」
思わずこぼれた、ノイルの言葉にその場の全員が頷く。ノイルは、困惑顔で考えていたがハッとする。
「っと、申し訳ありません。直ぐに、行きます。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
クラナスは、苦笑して優しく笑う。
それから、2時間の教育時間……。
「ノイル様は、飲み込みが早いですね。もう、完璧に作法も技術もマスターしてしまいました。」
「教育、ありがとうございました。」
ノイルは、礼を言うとクラナスはにこっと笑う。
「では、執事服を着て見ましょうか。」
「あの、服以外もあるのですが?」
金の懐中時計、万年筆、手帳もろもろ……
「懐中時計は、仕事上で必要ですから。万年筆とか、手帳は主人の予定をメモしたりですね。他の物は、執事の必需品です。陛下の事です、また何かと執事服で護衛を頼むだろうと思いましたので。」
クラナスは、経験があるのか遠い目で言う。
「それは……なるほど、有り得ますね……。」
ノイルは、一瞬だけ悩み納得する。
「では、会場には私も居るのでお困りなら、目立たないように声をかけてください。解散。」
ノイルは、執事服で姫様の所へ行く。
「……いっ、行くわよ!」
ノイルは、キョトンとしてから礼をする。チラッとだけ、ルークとアルマを見ると視線が返って来る。
「うん、似合ってるぞ。今日は、よろしくな。」
「……。」
ノイルは、無言で頷くと姫様を追いかけた。
会場には、王太子とエウロス殿下と姫様……他、王子達。他は、他国の人みたいだ。数人の視線が、ノイルに集まる。精霊達が、歓喜する声が聞こえるが無視する。ここには、他国の精霊もたくさん居たから。そして、祝福児も全員が揃っている。
祝福児達の、視線を凄まじく感じる。
「フローディア、花束ありがとう。これは、私との結婚の返事だと受け取って良いんだね。」
「馬鹿ね。黄色のカーネーションは、軽蔑を意味する花よ?花言葉で、プロポーズしたわりに知らないのね。それと、呼び捨てを許した覚えは無いわ。」
フローディアは、冷たい声音で言う。
「それは、失礼しました。」
その表情が、怒りに染まる。ノイルは、警戒する。
「何故、断るのです?フローディア様。」
「段階も踏まず、いきなりプロポーズする無礼者。花言葉も、理解せず公衆の面前で恥を晒す愚か者。さらに、立場の違いを理解できずに発言する不敬者よ。それは、誰でも断るに決まっているわよ。」
フローディアは、不愉快だと言わんばかりだ。
「ふざけるな!」
ガルフは、剣を抜いて姫を襲う。が、それより先にノイルはガルフの手首を掴み、軽く捻る事で剣を奪う。そして、その剣を首元に突き付ける。
「あはは…、終わりだ。お前は、王族である俺に剣を突き付けた。無礼者!お前達、何をしてる!」
まあ、誰も動かないんだけどね。王太子は、ゆっくり頷く。ノイルは、一瞬だけ嫌な顔をして頷く。
「この、無礼者を捕らえてください。」
「は?なぜ、俺が捕らえられる!」
ノイルは、困ったように言う。
「一応、私の身分は貴方より上ですから。」
そう、四公爵は第3王子までには敬意を払う必要がある。しかし、他の王子は名ばかりで実質は権力を持っていない。なので、第4貴妃の息子で第8王子であるガルフより偉い立場なのだ。
そして、これは国王も許している。
「彼はね、この国の四公爵……。剣公爵家の長男、そして現国王の姉君の忘形見だよ。」
王太子が、そう言えば他国から探るような視線。
「さて、もともと無いようなものだけど。君から、王位継承権と身分を剥奪するよ。勿論、陛下からも許可は頂いている。ノイル、目立たせてごめんね。それとだけど、僕の主催のお茶会にも顔を出しても良いんじゃない?ずっと、会いたかったのに。」
ノイルは、表情を変える事なく事務的に答える。
「王太子殿下、私情は後でお願いします。」
「後で、君が来てくれるわけ?」
王太子殿下は、嘘は許さないと笑う。
「忙しくなければ……」
ノイルは、素っ気なく王太子の言葉の追撃を回避する。王太子は、少しだけ驚いてから楽しげに笑う。
「うーん、逃げられちゃったか。」
「王太子殿下、ノイルは私の部下ですよ。」
エウロスは、不機嫌そうに言う。
「今はね?」
王太子は、悪戯っぽい雰囲気で言う。完全に、エウロス殿下で遊ぶ気である。あの、公衆の面前なんだけどな。やめて、3人で取り合いは真面目に。
ノイルは、無言で剣を預けて下がる。こうして、何とか平和にお茶会が終わった。後処理が、少しだけ大変だったけど。少しだけ、ほっとして着替える。
ノイルは、部屋に戻ると祝福児達とその護衛が待っている。ノイルは、一瞬だけ固まり思わずドアを閉めて、勢いよく回れ右して走り出す。ドアの先で、慌てた雰囲気で追いかけて来る気配がしたけど、ノイルは何とか逃げ切った。思わず、ため息をつく。
「うーん、困ったな。」
「ごめん、断れなくって……」
エウロスは、苦笑して謝る。
「まあ、それは分かるけど。何で、部屋に入れたのさ。絶対に、バレちゃったじゃない!」
「ごめん…」
ノイルは、深いため息を吐き出して、エウロスと別れた。ノイルは、寮に戻らず騎士団室に泊まった。
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