第7話 フローディア姫の護衛
さて、今日から暫く姫様の面倒を見る事となった。姫様の護衛は、アルマ伯爵令嬢とルーク辺境伯令息である。ちなみに、アルマは敵意剥き出しで僕をみている。ルークは、無言で僕を見ているだけ。
「お聞きしても、良いですか?姫様は、ダンスは踊れますか?それと、文学の見聞きについても、なるべく知りたいのですが。知っている範囲でです。」
「そんな、個人情報を教えられる訳がない!」
アルマは、険しい表情で怒鳴る。ルークは、協力的に説明しようと、考えてから暢気に言う。
「そうだな、ダンスは基本だけ。勉学は、全くだ。足し引きが、出来るくらいだろうか?」
「ルーク!貴様、何を考えてる!」
ノイルは、なるほどと頷く。そして、考える。
「アルマさん、姫様ってどんな性格ですか?」
期待は、全くしてないが一応は聞く。
「ふん、姫様はとても美しく落ち着いていて、武術も心得ておられる。その姿は、戦女神のようだ。」
ふむ、脚色され過ぎてやはり参考にならない。次だよ、次!ここは、頼れるお兄さんルークさん!
「ルークさん。」
ノイルが、名前を呼べば言う。
「姫様は、おてんばで天真爛漫。そして、脳筋っぽい所がある。思考は、割と雑で適当だ。」
「ルーク!お前は、姫様を愚弄するつもりか!」
うーん、これは話がまとまら無い。でも、まあ良いかな。取り敢えず、少しだけ入れ知恵してみよう。
「今回のお茶会で、姫様の印象を変えないと悲惨な末路を辿るよ。アルマさんは、姫様が大切じゃないの?姫様が、望まぬ結婚をしても良いわけ?」
ノイルは、真剣な表情で説得を試みる。
「ふん、嘘つき野郎め!どうせ、姫様狙いだろ!いいか、姫様は体格の良い腕の良い騎士が好みだ!お前みたいな、ひょろくて弱々しい奴が……」
「良い加減にして…。姫様の好みとか、どーでも良い。現状、姫様は狙われてる立場なんだよ?」
ノイルは、冷たい雰囲気で言う。
「アルマ、余り迷惑をかけては駄目よ。」
姫様の登場に、アルマは青ざめる。
「ごめんね、兄様から頼まれただけなのに。」
「良いのですが、姫様は今回の件は?」
すると、姫様は苦笑してから言う。
「兄様から、粗方は聞いてるわ。」
なるほど、さてさて……ん?
そう言えば、陛下も娘の好みが全く分からない。なので、婿選びが出来ないってボヤいてような。
「姫様の好みは、体格の良い腕の良い騎士ね。わかった、それは国王陛下に相談するとして……。」
「いくら、公爵だろうが謁見は無理だ。」
アルマは、慌ててから馬鹿にしたように言う。
「無理じゃないよ。だって、僕は姫様の従兄弟だしね。2日後に、城に来るように呼び出しくらってるし。おそらく、何で公爵家に帰らないか怒られるんだろうけど。まあ、それはさて置きだよね。」
「あらら、まだ帰ってなかったの?」
姫様は、苦笑してノイルを見る。
「帰りたくなかったので。」
ノイルは、詫び入れる様子も無く、素っ気ない口調で戯ける。すると、フローディアは笑う。
「それより、アルマ?いつから、私の好みの男性が体格の良い腕の良い騎士になったのかしら?」
目は、笑っておらず声音は少しだけ冷たい。
ノイルは、書類仕事に集中する。早く片付けて、姫様のサポートをするためだ。その速度に、ルークは驚いて笑う。アルマも、悔しそうに睨む。姫様は、キョトンとしてから考えて。意味深に、笑う。
「さて、書類を提出して来ます。ルークさん、この書類を軽くで良いので目を通しておいて。件のお茶会の、警備体制や経費リスト……参加する、王族と貴族の名簿です。商品を仕入れる、商人はエウロス殿下が捌いてくださるらしいので。よろしくね。」
丁寧に、纏められ見やすく分かりやすい書類。ルークは、嬉しそうに頷くと流し読みする。ノイルは、それを見ると足早に部屋を出る。
「本当に、優秀。経費の計算も、間違いなし。」
ルークは、仕事がやりやすいので上機嫌。
「ふんっ!優秀でも、中身は悪人だぞ!何せ、弟を殺し公爵家を乗っ取る為に来たらしいしな。」
ルークは、呆れたようにため息を吐き出し言う。
「お前の目は、節穴か?」
そして、真剣な雰囲気で諭すように続ける。
「噂なんて、全てが事実であった事なんてないだろが。それにだ、私情を捨てて考えてみろ。あれが、その気ならとっくに公爵家は乗っ取られてる。それくらい、ノイルは賢く有能。動かない理由なんて、お家に興味がない。または、動かずとも家が潰れると思ってるかだろう。おそらく、後者だろうが。」
すると、フローディアは頷くと椅子に座る。
「まあ、あの豚では潰れるわよね。」
「私は、あいつが嫌いだ。泥臭い、平民育ちの捨てられた不幸児。どうせ、猫を被っているだけ。」
ルークは、困ったようにため息を吐き出す。ノイルは、アルマの言葉を聞いていたが無視した。
「安心して。僕は、名ばかり公爵令息だよ。だから当主が、弟に決まれば貴族の地位を国に返上する。そして、この重みから解放されるんだ。」
ノイルは、本当に嬉しそうに呟く。
「……陛下は、おそらく許さないぞ。」
ルークは、苦々しく気遣うように言う。
「うん、知ってる。でも、許すとか許さないとかの問題じゃないんだ。だから、多少は強引だろうが突き進むよ。まあ、今はのんびり生きるさ。」
手を止めず、書類を片付け整理しながらも笑う。
「剣公爵の悪魔。」
「何それ?」
ノイルは、嫌な表情をしつつも聞く。
「お前の噂は、綺麗な程に悪い噂しかない。だからだな、きっと悪魔の子だと蔑んで貴族達が、影で言っているお前の事をだ。……何故、怒らない。」
「え?あー…、悪口とかそういうの日常だったし。特に、僕が気にする事でもないかなって。」
すると、ルークは怒りを押さえて言う。ノイルは、その瞳に暗い光を宿して諦めたように呟く。
すると、姫様は青ざめて固まる。
「それで、君は良いの?駄目よ、諦めないで!」
「何も、最初から諦めた訳じゃないよ。僕から、歩み寄り話しかけた。でもね?それで、大切な人を失うなら……僕は、一生一人でも構わない。」
ノイルは、優しく笑って立ち上がる。
「まるで、呪いね。」
フローディアは、そう呟いて困ったように笑う。
「さて、そんな事より入れ知恵するので、全て叩き込みますよ。では、頑張って行きましょう。」
ノイルは、明るく笑って歩くのだった。
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