第6話 送られた花の意味

さて、見回りの関係で朝帰りになっちゃった。はっきり言って、眠い。いきなりの、変更に疲れる。


「おはよう、少しだけ眠そうだね。」


「エウロス殿下、おはようございます。」


エウロスは、頷くと隣に座る。


「ノイル、聞きたいんだけど。妹にさ、108本の薔薇が送られて来てね。凄く、困ってるんだ。」


「誰からですか?」


すると、苦笑してから言う。


「第4王妃の、長男ガルフだったかな。赤薔薇。」


ふむ、薔薇は夏の花だしね。そして、色や本数などで花言葉の意味が変わる花でもある。


ピンク……上品・しとやか・温かい心・満足

シロ……無邪気・清純・相思相愛・尊敬

キイロ…献身・美・さわやか・あなたに恋しています・嫉妬

オレンジ……無邪気・魅惑・信頼・絆

ムラサキ……誇り・上品・尊敬

アオ……奇跡・夢がかなう・神の祝福

ミドリ……おだやか


確か、赤い薔薇の花言葉は……


「赤い薔薇は、愛とかあなたを愛しますとか熱烈な恋でしたっけ。108本は、プロポーズを意味する本数だったはず。でっ、どうなさるんですか?」


これは、王家としても宜しくないはず。


「取り敢えず、暗殺して骨も残さず……」


「やめましょうね?」


ノイルは、素早くツッコミを入れると考える。


「薔薇は、今回だけですか?」


「うん、そうだよ。」


ふむ、いきなりプロポーズか。それって、礼儀知らずだよね。正妻の子では、無いとはいえそこら辺の教養は、どうなっているのやら。立場が、低い者が段取りもせず格上にいきなりプロポーズとは。


「そうとう、姫様は舐められているようですね。」


「………そうだね。ノイル、何か考えがある?」


うーん、あるけど。先ずは、相手の出鼻を折る事をしなければ。プライドを、ズタズタにされれば猫も被ってらんないだろうし。相手の目的は、王家の血を濃ゆくする事。子供が出来れば、血の濃ゆさを理由に次期国王の養子として貰う事が出来る。もし、その子が次期国王になれば……裏から操るつもりなのかもね。時間はかかるが、安定して案だと思う。


「先ずは、あちらの出鼻を折らなければ。」


「……ノイル、この件が終わるまで妹を頼まれてくれないかい?あの子が、傷つく姿を見たくない。」


少しだけ、悔しそうな辛そうな表情と口調。


「君を、明日から妹の専属騎士にするから。」


動けない、我が身を憎むように言う。ノイルは、深呼吸すると困ったように笑ってエウロスに言う。


「エウロス殿下、大丈夫ですよ。貴方は王族、身軽にこの問題に突っ込めば弱みとなる。それは、仕方ない事です。だからこそ、私を存分にお使いください。私の、全力を持って姫様と貴方の平和をお守り致します。胸を張って、構えていてください。」


すると、驚いてから肩から力が抜けるエウロス。そして、ポロポロと泣き出してから笑顔で言う。


「それは、心強いね。安心して、涙が出て来ちゃった。でも、良いの?その、えっと……。君だって、縛りが有るんじゃ……立場的その……ね?」


うーん、森の賢者の縛り?精霊や妖精を、言の葉で縛らない事とか?それは、いつもやってるし。剣聖に至っては、そんな決まり事は無いし大丈夫。


「ご安心を、そこら辺は心得てますので。」


「良かった、君が居てくれて。」


エウロス殿下は、第二殿下で味方も多い筈なんだけどな。安心して、身を任せられる人が居ないんだ。なるほど、だから僕に味方になってと……。


「それにしても、食堂で話す内容では無いですよ。まったく、厨房から離れた席で僕しか居なかったから良かったものの。もう少し、慎重に動いてください。まったく、分かりましたか殿下?」


「うん、ごめんね。」


何故か、嬉しそうに笑うエウロス。


「ん?」


「いや、なかなか僕を思って、怒ってくれる人は居ないからね。少しだけ、嬉しかったんだ。」


エウロスは、ご飯を食べながら言う。


「それは、退屈ですね。」


どうせ、殿下を褒め称え、裏では腹黒い事を考えてるんだろうな。どうやって、自分の株をあげるか。どうやって、信頼を勝ち取るか。あわよくば、自分達の傀儡にしようとしているのが、透けて見えているの。だから、社交での殿下の笑顔はとても嘘っぽいし、内心は警戒しているんだろうな。


「うん、退屈。ねえ、ノイル?人が居ないんだし、敬語はやめてくれない?何か、素の君を知っているから、さっきから違和感しか無いんだけど。」


エウロスは、困ったように言う。


「一応、仕事場の食堂ですからね?それに……」


「おはようございます、殿下。ノイルは、夜勤明けか?早く、寝ないと騒がしくなるぞ?」


ファイは、暢気に笑って言う。


「そうだね。僕も、眠いし早く食べないと。」


「あらまあ、食べて直ぐに寝るのは宜しくなくってよ?せめて、腹休めしてから寝ませんと。」


アイリスが、心配そうにノイルを見る。


「ありがとう、そうするね。」


ノイルが、薄くて笑うと固まるアイリス。


「いっ、いえ……その、お気になさらないでくださいまし。とっ、当然の事を言ったまでですわ。」


エウロスは、苦笑してから内心は思う。


ノイルは無自覚だからなぁー。なんせ、親があれだしね。母親は、世界で絶世の美女と呼ばれており、武芸も出来た知的な母親。そして父親は、素は天然で臆病だが、剣術と戦術を極めた美形軍師。


どちらも、共通するのは自分の容姿に無自覚。


そのせいで、何度戦争になりかけた事やら……。何気に、帝国がノイルの事を探っているんだよね。他の国も、あわよくば結婚を持ちかけようとしてる。


でも、国としても僕個人としても……彼を、取られる訳にはいかない!動ける範囲で、どうにかしないと……。でも、ノイルがノリ気になったら……。


しかし、エウロスは忘れていた。


ノイルには、精霊や妖精達がついている。そして、彼らはおしゃべりだ。ノイルは、帝国の動きや他国の動きを既に全て把握していた。


「まあ、ノイルは天然で無自覚な所あるしね。」


「ん?えっと、何か言いました?」


ノイルは、キョトンとエウロスを見る。


「いいや。それより、ノイル。君、結婚願望とかあったりする?それと、何の花を送れば良いかな?」


「結婚願望って、まだ私は10歳なのですが。それとです、季節外れですが黄色いカーネーションとかでも良いですね。花言葉は、軽蔑ですし。」


すると、エウロスはキョトンとして言う。


「それ、怒るんじゃない?」


「あわよくば、あの被っている猫が外れれば面白いですね。それに、軽く馬鹿にされたんですよ?王家の、正妻の娘を。これは、後々に面倒になりそうなので、煽りに煽って詰んでしまおうかと。」


ノイルが、さらっと言えば笑うエウロス。3人も、興味がある雰囲気で聞いている。ノイルは、食べ終わり席を立つ。そして、エウロスに笑って言う。


「いざとなれば、頼りになる人脈もありますし。取り敢えず、油断せずに頑張りましょうね殿下。」


「やっぱり、君は頼りになるね。」


こうして、エウロスとノイルは動くのだった。

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