第5話 お茶会
さて、案内されたのは王城のとある一室。エウロス殿下は、少しだけ安堵した表情で手招きする。
ノイルは、ゆっくり椅子に座る。すると、執事が紅茶を入れて目の前に置く。ノイルは、小さく礼を言いエウロス殿下を見て形式上の挨拶をする。
「本日は、お茶会にお招き頂きありがとうございます。少々、作法面で至らない事も有るでしょうが、お目溢し頂けると有り難いです。」
「良く来たね。まあ、ゆっくりして行ってね。」
さて、形式上の挨拶が終わり無言になる。お茶会と言っても、2人だけだしメイドや執事は無言だ。
「ノイル、声が外に漏れない魔法ってある?」
「やっぱり、知っているんですね。魔法は、気付かれたら面倒なので、魔術で勘弁してください。」
ノイルは、小さく詠唱。見えない結界に、部屋が囲まれる。エウロスは、驚いてノイルを見て言う。
「君、魔術もかなりの腕前なんだ?それと、気付かれたら面倒って?少しだけ、興味があるな。」
「森に、暫く帰って無いですからね。」
まさか、精霊王の事を話す訳には行かず、適当に誤魔化すように笑って紅茶を飲んだ。
エウロスは、何か感じたのか追求して来なかった。
この国は、現精霊王が降臨した地。ここで魔法を使えば、自分の居場所が精霊王にバレてしまう。そうなれば、彼がここに来てしまう可能性がある。
この国は、精霊信仰と神信仰が均衡している。
しかし、精霊王が来てしまうと均衡が崩れる。それは、やめて欲しい。神敵には、なりたく無いし。かと言って、友たる精霊王を蔑ろにはしたく無い。
僕って、難しい立場なんだよね……。
「さて、絶縁書だけど。やっぱり、無理。」
「あー、やっぱり?」
頷く、エウロス。そして、真剣な表情でノイルを見て、言いにくそうな雰囲気で話を切り出す。
「まず、僕と君の関係……従兄弟。君の母親は、現国王の姉で君は甥にあたる。父は、姉の忘形見である君を大切にしてるんだ。勿論、君の立場とは別にね。だから、君の受けた仕打ちを聞いて、心から怒り狂ってさ。とても、大変だったんだよ?」
やっぱり、血筋の縁か!お母さんは、王族で父は四公の当主。そりゃ、手放さないわけだよ!っていうかさ、仕打ちを知ってるの?あの、差別とか暴力とか地獄の日々を。殿下は、内容を知らないのかな?
「まあ、僕も殺してやろうかと思ったけど。」
従兄弟からの、愛情が重い……まあ、殿下は14歳で僕は10歳。兄弟ぐらいな、歳の差がある訳だし。
「それで、僕の事はどれくらい?」
すると殿下は、メイド達を追い出し執事だけ残す。
「そうだね。君が、森の賢者で剣聖の資格保持者である事。そして、かなりの知恵者で戦闘能力が高い事。それと、失われつつある魔法を使える事くらいかな。しかも、世界に6人しか使えない魔法を。」
6人は、強い祝福を受けた故に彼らを見て、聞くことが出来た。もともとは、20人居たんだけどな。
やはり、強い祝福は薬にも毒にもなる。怪異は、その殆どが姿を見られるのを嫌う。なので、姿を見た祝福児を殺してしまうのだ。妖精も、良い奴だけとは限らず気に入った祝福児を、あちら側に連れて行ってしまうのだ。いわゆる、神隠しみたいな。
勿論、行きは良い良い帰りは怖い。
行ってしまえば、簡単には帰してくれない。僕も、精霊王のせいで迷い込んだ事がある。幸い、土地神……国の守護神チェルノに助けられたんだけど。
という訳で、精霊と神どちらとも面識あり。まあ、神様とは顔見知り程度だけど。ちょいちょい、ウチの森で会うんだよね。精霊王、オリジンに用があって来ているんだろうけど。うん、脱線しちゃった。
「まあ、私も強い祝福を待ってますからね。」
祝福と呪いは、紙一重で時に同じ。そもそも、人とあちら側の存在では考え方が大きく違うしね。
「あのさ、そろそろ敬語をやめてくれない?ここはさ、公の場では無いし不敬にはならないから。」
「……じゃあ、君の事を教えて。」
執事が、ケーキを置く。
「そうだね、食べながら話そうか。」
エウロスは、悩む仕草をすると言う。
「ねぇ、ノイル。僕が、転生者だって言ったら信じてくれる?まだ、執事のゼバスにしか話してないんだけどさ。僕には、前世の記憶が有るんだ。」
どうやら、前世はブラック企業?とか言う場所で働くサラリーマン?っていう職業だったらしい。
説明を聞いて、同情したのは仕方ない。
「ふーん、今の話は聞かなかった事にするよ。そして、転生者の事は心に閉まっとくべきだよ。」
「え?」
ノイルは、エウロスを見てため息をつく。
「転生者は、神信仰者にとって特別な者なんだ。祭り上げられたい?一生、神殿から出られないよ?」
「それは、知らなかった。教えてくれて、ありがとうノイル。やっぱり、君って良い人だよね。」
エウロスは、驚いてから真剣に言い笑う。
「ノイル、お願いが有るんだ。」
「内容次第。」
冷たい反応だが、一応は話を聞いてくれるノイル。エウロスは、優しいねノイルはと笑う。
「君だけは、僕の味方でいて欲しいんだ。」
「……人払いしてくれる。」
エウロスは、少しキョトンとして頷く。視線を向ければ、素早く撤退する。気配を確認する。
「僕には、賢者としての名がある。ケイロフ、それが森の賢者の名だ。賢者として、君が間違わない限りは真名に誓おう。僕は、君の味方になるよ。」
エウロスは、嬉しそうに笑って言う。
「よろしく、小さな賢者様。」
「小さくない、まだ成長期だもの!」
ノイルは、ムスッとして言う。次の瞬間、執事が入って来てノイルの剣を投げ渡す。ノイルは、雑に使われて少し不機嫌になる。しかし、緊急時なので迫り来る暗殺者を生きたまま捕らえる。
「すっ、凄い。これが、次期剣聖候補。」
その声は、暗殺者を連れて行く騎士の声で、かき消された。ノイルは、座って紅茶を飲むと苦笑。エウロスは、ケーキを食べる。とても、美味しい。
「ねえ、ノイル。剣聖に、なるなら弟君をどうにかした方が良いよ。君、裏で既に動いてるよね?」
「……早く、何とかしなきゃ。」
すると、悪戯っぽくエウロスは言う。
「僕はてっきり、弟君の事も嫌いだと思ってた。」
「どうとも言えない。ただ、彼の心は迷子になっている。少しだけ、荒療治する必要があるかな。」
すると、エウロスは楽しそうに言う。
「それじゃあ、お手並み拝見だね。」
「期待は、しないでね。」
こうして、乱入者があったが何気に、有意義なお茶会になったのだった。ちなみに、エウロスはとんでもない人と口約束とはいえ、契約を結んだ事に気付いていなかった。ノイルは、小さく微笑む。
そして、部屋に戻るのだった。
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