北風と太陽
季節は夏、世間一般では梅雨と呼ばれる季節だ。
とはいえ、お兄ちゃんと私の小さな小さな関係性は一つの家で閉じており、世界が雨で地面を湿らせていることなど些細なことだ。
私は自室のPCで『お兄ちゃんの部屋』の温度湿度等の環境を確かめる、うん、まったく問題ない。
さて、そろそろ暖かさも暑さに変わりつつあるし……お兄ちゃんにアピールするチャンス! です。
私は無駄に薄着になってお兄ちゃんがドキドキしてくれるという期待をしながら地下へ降りていく。
「おにいちゃーん! 暑いですねえ! 私もつい薄着に……って寒!」
私はすっかり忘れていた。
そう、お兄ちゃんの部屋は管理用のサーバを置いているので他の部屋より気温が低いのだった。
「何をやってるんだお前は……」
お兄ちゃんは冷静に毛布をかぶりながらツッコんでくる、こうなったら……
「お兄ちゃん、寒いので入れてください」
私はお兄ちゃんのくるまっている毛布に入り込む、暖かさと恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「お、おい! 暑苦しいぞ」
お兄ちゃんも恥ずかしいらしく顔を赤くしていた。
これは……効いている!
「おにーちゃーん……もっと暖まりましょーよ!」
私が身体を寄せるとお兄ちゃんは毛布から出てしまった。
私はお兄ちゃんの体温の残る毛布にくるまりながらブーブー言う。
「お前……この部屋エアコンの調整が出来ないんだが……もうちょっとどうにか出来ないのか……?」
おっと、お兄ちゃんには管理サーバの存在は秘密なんだった。
「いえいえ、外の世界は灼熱地獄と化していまして、せめてお兄ちゃんだけでも涼んでいただこうという私のいたわりですよ?」
「何故疑問形……」
お兄ちゃんはため息をついて部屋のクローゼットからスウェットを貸してくれた。
ロマンの欠片も無いがお兄ちゃんには外向けの服を用意していなかったのでこれしか無いのだろう、ちょっと申し訳なく思う。
「へへへ……あったかいです!」
「しょうがないやつだな……」
お兄ちゃんも呆れたように私に微笑む、お? デレましたかね?
「じゃあさっさとこの部屋の温度管理しに戻ってくれ、どうせ出来るんだろう?」
お兄ちゃんときたらロマンの欠片も無いことをいうがこのスウェットに免じて許してあげよう。
「ただでさえ服が少ないんだからちゃんとその服洗って返せよ」
お兄ちゃんの着ていた服……うん、返すのやめよう!
そうして私は管理端末にsshでアクセスして室温を数度上げておいてぱっと見同じに見えるスウェットを買いにし○むらに走ったのだった。
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