昔の話、あるいはラブレター事件

「さてお兄ちゃん、これは何でしょうか?」


 今日の私は少しばかり怒っている、こんな事を隠されていたなんてあまりにも酷い。


 バン!

 私が封筒をお兄ちゃんの前にたたきつけるとお兄ちゃんはビクリとした。


 私がたたきつけたのは白い封筒にハートのマークのシールが貼ってある手紙だ。

 切手が貼られていないことからこれが直接渡されたものだと推測される。


「い、いやその……」


「ラブレター、ですね……」


「はい」


 お兄ちゃんがラブレターをもらったこと自体は別にいいのだ。お兄ちゃんの評価が高いことはいいことだろう。

 だが、だがしかし! それを私に隠していたというのは許されないことです!

 兄妹といえば何でも腹を割ってはなせる仲、だというのにお兄ちゃんはこれを自分だけで回答したということだ。

 お兄ちゃんに仕込んでいるGPSのログを追ったが怪しい動きをしていないのが断った証拠だろう。

 断るなら断るで私に一言、伝えて欲しかった。


「お兄ちゃん……私はお兄ちゃんがどこの馬の骨ともしれない女にたぶらかされるのを心配しているんですよ? お兄ちゃんそういうのあっという間に引っかかりそうですし」


 恋愛関係を持った人がいないのは調査済みだ、だからこそ初めて向けられた好意には弱いとも言える。


「いや、だって相談しても結果見えてるじゃん?」


 お兄ちゃんときたら私が真摯な答えをしないだろうと思っているらしい。

 私の回答はすっぱり切り捨てろなのでまあその通りなのだが相談という形が重要なのだ。

「お兄ちゃんの恋愛相談に乗る妹! そんな美味しいシチュをお兄ちゃんはもみ消したんですよ!」


「あ、あぁ……なんかゴメンな……」


 ついでにいうならお兄ちゃんが未練たっぷりに保管していたことも気に食わない。

 私に相談しないなら焼却かシュレッダーくらいはするべきだろう。


 ビクビクしているお兄ちゃんを安心させるために私は言う。


「まあ、お兄ちゃんが妹の信頼を裏切らなかったということは評価します。 今日の晩ご飯はちょっと豪勢にしてあげますね」


 お兄ちゃんはホッとした顔をしている。


 私は今日の夕食に天ぷらを付けてあげた。

 天ぷらは紙の上に置くと余分な油を吸ってくれる、なんと丁度良い紙が手元にあるじゃないか、偶然ってすごいなあ……


 そうして私は手間をかけて天ぷらを揚げてラブレターを下に敷いて油を吸う紙の代わりにした。

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