第21話 ハッピーエンドはすぐそこ?
シリル様からの突然のプロポーズ。私は返事をしないままだが、恋人同士にはなったらしい。「らしい」というのは、はっきりとした言葉ではなく何となくそうなんだろうという雰囲気と成り行きから判断したから。
「マデリーン、これを」
ある日の午後、シリル様から輝くプラチナの指輪を贈られた。内側にはS to Mと彫ってあり、これはどう考えても愛の証だ。
なぜ指にぴったりかなんて、これも聞いてはいけない。できるヒロインはスルーすべし。
「うれしい……!ありがとうございます」
左手の薬指に指輪を嵌められ、私は満面の笑みを返す。シリル様はそっと手を繋ぎ、満足げに微笑んだ。
これはもう、結婚まで一気にシナリオが進むのではないかしら。
とても短い物語だったけれど(すべてはソフィーユのせいで)、どうにかヒロインとしてハッピーエンドを迎えられそうだわ。
シリル様は離れるのを惜しんでくれたけれど、今日はご公務があるといい早退していった。隣国から使節団がやってくるので、王子としてお出迎えする準備をしなくてはいけないらしい。
私は授業をきちんと受けて、帰りは「危ないから」と言って迎えに来てくれたセラくんと共に学園を出る。
「まだ手紙とか届くの?嫌がらせされていない?」
「ううん、もうすっかり収まったわ。歓迎会でシリル様と一緒にいたのが大きかったみたい。私に何かすると、シリル様が出てくるって思われたんじゃないかしら」
そう、あれ以来私に対する嫌がらせはぱたりと止み、これまでのような陰口も聞こえてこない。周りは私に媚を売った方がいいのか、仲良くなっていた方がいいのかと様子を見ているようだった。
将来的に私がシリル様と結婚するとなれば、それは王妃になるということだ。未来の王妃に嫌がらせをしたとなれば、今後の社交や出世に差し障る。というわけで、皆すっかりおとなしくなってしまったのだ。
セラくんが心配するような事態は起こっていないので安心して欲しい、そう言って笑うと彼も柔らかに微笑んだ。
「あれ、その指輪って」
セラくんの目が、私の左手薬指に留まる。
「あ………これは」
「シリル様から?」
私は小さく頷いた。セラくんの気持ちを知っているので、申し訳なくて目を逸らす。
「シリル様、けっこうおもいきりがいいんだね。ソフィーユと婚約解消したらすぐマデリーンに求婚するなんて」
「……そうね。驚いたわ、突然だったから」
指輪をもらったとき、婚約が解消されたことを聞いた。
世間体があるので、政略結婚でもない限りはすぐに婚約できないけれど、それでも「待っていて欲しい」と言われて
セラくんは歩きながら、何か確信を持っているように尋ねる。
「ねぇ、本当に納得してその指輪を受け取ったの?」
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。
「王子様に愛されちゃって、断れなかったんじゃないの?」
「それは、ないわ」
いくら本気の恋ではないとはいえ、私はヒロインとしてシリル様の求婚を受け入れなくてはいけない。そこに私の意志なんて関係ない。
うまく演技していたはずだったのに。
もしかしてセラくんは、他人の心の動きに敏感な人なのかも。
「マデリーンってさ、あの教師とどうなの?ただの教師と生徒の関係じゃないよね?」
「セラくん」
「シリル様には悪いけれど、僕にはマデリーンが無理しているように見えるよ」
うっ、それは否定できない。
私はコメントに詰まり、曖昧な笑みをもってごまかした。
セラくんがそれ以上私を問い詰めてくることはなく、普段通りに会話をして家路についた。
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