第4話 システムを把握しよう

困った。

本当に困った。悪役令嬢ギルドのホープな私が、ヒロイン!?


おのれ、あのナビゲーター。確かリオルドと言ったか。


オールバックのダークブラウンの髪に、凛々しい切れ長の黒い目。神秘的なほど整った顔立ちだったけれど、こんなミスは許されない!


今度会ったらビンタしてやる、そう思って私は頭を切り替えた。


まずはヒロインのステータス画面やシステムそのものを把握しなくては。

トリセツを読まない女は、真の悪役にはなれないのよ!


「えーっと、王子とはエンカウント率がそもそも高く設定されているから教室での挨拶や委員会、街でのおでかけイベント、新入生歓迎会などをこなせばオッケーか」


ヒロインの素直でよく笑うかわいいところに惹かれる、か。

シンプルでわかりやすい好感度の上げ方でいいみたいね。転生65回めのヒロイン・リズ、89回めのアリシアを参考にしよう。


大丈夫、これまでに出会ったヒロインのことは覚えている。データは頭の中にあるわ!


「サブキャラを落としておくと、王子様とのイベントで有利に働くのね」


逆ハーにはならないけれど、周りの男たちが秘かにヒロインを好いている設定ね。


いつも思っていたんだけれど、揃いも揃って女の趣味が同じなのはどうなんだろう。普通は、好みってバラけると思うのに。


ま、そんなことはどうでもいい。


「シナリオに沿うと、まずは悪役令嬢の取り巻きが家に押しかけてきて馬鹿にされるところがあるわね。ここって、悪役令嬢のポイント稼ぎが目的のシーンだから、カットしても問題ないはず。状況によっては、端折はしょらせてもらいましょ」


私は悪役職人ともいえるプロ。

システム的にやられて嫌なことは熟知している。


けれど、ヒロイン転生なんて私の矜持に反するから早く終わりたい。というより、こんなことしてるくらいなら帰って寝たい。シナリオをスキップしまくって、早々にハピエンを目指そう。


しかしシナリオを読み込んでいた私の目に、とんでもない情報が入ってきた。


「父親が騙されて借金ですって……!?悪役令嬢の手下が父親を騙し、偽契約書にサインさせる、しかもヒロインが借金のために売られそうになって、下着姿で奴隷商人の前に出されるですって!?」


王子が助けに来てくれることになっているが、そんなシーンは断固拒否!


「これは早急に借金問題に手をつける必要があるわね」


よし、終盤は悪役令嬢ソフィーユの部屋に忍び込もう。契約書の類は、1000%の確率で悪役令嬢が持っている。


「私がヒロインであるからには、好き勝手させないわよ……!」


闘志を燃やした私は、明日からの行動予定を決めてステータス画面のメモ機能にまとめた。


・不良キャラの魔導士セラを探して、懐柔する

・王子に挨拶して、転んでハンカチを借りる

・ソフィーユはかわいそうなのでポイントが稼げるように嫌味を聞く時間を取ってあげる


「これでよし!」


完璧な計画だわ!

魔導士セラくんは役に立ちそうだから懐柔するとして、他はスルーでいい。


人数が増えると、監視が行き届かないからね。


私は早めに就寝して、明日からの戦いに備えた。

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