第3話 悪役令嬢のご登場

今度の転生先は、定番の学園もの。

目覚めた私は、制服を着て学園の校舎が見える場所にいた。


「ふふふっ、学園ものはオイシイからありがたい」


いっぱい虐められる!ポイント稼ぐチャンス!ありがとうございます!


私はさっそく、ステータスを確認する。

目の前に半透明のパネルが現れ、それを操作するとシナリオやステータス、ポイントが見られるのだ。


「名前は、マデリーンのままなのね。それに男爵令嬢か、下級貴族が悪役令嬢なんてめずらしい」


今着ている制服は、ミッション系の紺色の長袖ワンピース。赤い髪の縦ロールとの相性はよく、威圧感たっぷりだわ。


「なんか画面がこれまでと違うわね。バージョンアップでもしたのかな」


こういうことはたまにある。だから私は気にも止めなかった。

ピンク系の画面はやたらとキラキラしくて、ラブリーな感じだ。


この作品が甘々ベッタベタの展開で、それに合わせてこうなったのかも。


ささっと指で操作し、シナリオを確認する。


「ヒロインが王子様と結ばれる、王道ラブストーリーかぁ。学園入学式の日に運命の出会い、王子様の側近を無自覚に落としながら、最終的には王太子妃に……。悪役令嬢の私は、王子様の婚約者ね。ありがちありがち」


テンプレはもう身体に動きが染み付いている。夕食のメニューを考えながら、嫌味を言うことができるほど。


「では、行きますか!」


入学式のイベントは、転生してさっそく発生する。これを終えて、授業中や家でじっくりシナリオを読み込めばいい。


私は長い髪をかきあげると、颯爽と歩き出した。


校門を通り、ホテルみたいなエントランスロビーから教室へ向かう。


けれど、目的地は途中の廊下。そこで出会いイベントが発生するのだ。

私はここで婚約者の王子様を待ち伏せし、これ見よがしに腕を組んで教室へ行かなければならない。


王子様はどこかしら。

キョロキョロと辺りを見回すと、なんと目の前からキラキラオーラの金髪碧眼王子が歩いてきた!


「いた!」


彼の名前は、シリル・レオンハート。この国の王太子で、優秀すぎて何もかもが思い通り。日々を退屈なものと思っているこれまたテンプレヒーロー。


うっとりするほど美しい容姿は、皆が夢中になるのもわかるわ。


さぁ、私は彼の婚約者。

今すぐご挨拶を…………って、んん!?


なんか黒髪ロングの派手な女子が、王子に話しかけている。

しかもあろうことか、シリル王子は彼女に腕を出してエスコートし始めた!


え。

どういうこと!?

それは私の役よ!?


近づくと、さらに違和感が増す。

黒髪のその女子、私みたいに縦ロールだ。私みたいというか、まんま同じ髪型である。


え?キャラ被り!


「はぁぁぁ!?」


私はいったん逃げた。物陰から、彼らの様子を観察する。


「あれは悪役令嬢ギルドのソフィーユじゃないの!」


信じられない。

なんでこんなことに!?

私は慌ててステータスを確認する。


プロフィール情報を引っ張り出し、そのアイコンを見て失神しそうになった。


煌めく王冠のアイコン。

これ、ヒロインのアイコンだ!


「嘘でしょぉぉぉ!?」


転生先がちがーう!!!!間違ってヒロインに転生してる!

あのナビゲーターが間違えたんだ!!


顔面蒼白でステータス画面を見ていると、通り過ぎた悪役令嬢が困惑の表情でこちらを見た。


ばちっと視線が合うと、向こうもぎょっと目を見開いて絶句する。


やばい。

私はヒロイン。赤毛で縦ロールのヒロイン!

髪型モロ被りで、悪役令嬢の熱狂的なファンみたいになってるー!


あわあわと頭を抱えていると、王子にも見つかってしまって「おや?」と気を引いてしまった。


ちなみにこの王子様は、転生しているという自覚はない。普通の演者である。


「どうしたの?教室がわからないのかい?」


やばい。

今逃げたら消避税を取られる。イベント回避は減点!!


教室の位置なんてだいたいわかる。

どこもだいたい同じ造りなんだから!


や、やるしかない……

ヒロインをやるしかない!


ぐっと拳を握った私は、観念して王子様と運命の出会い(?)を果たす。


「そ、そうなんです。新入生の教室を教えてくださいますか?」


あああ、ソフィーユがお口あんぐりでお目めも全開だ。ごめん。私がいてびっくりよね。私もびっくりなの!


私たちの状況を知らない王子様は、にこっと笑ってセリフを言った。


「では、一緒に行こう。案内するよ」


「わぁ!ありがとうございます!」


ううっ、こういうヒロインの悪気なく無礼なところってホント嫌い。

明らかに婚約者連れの王子様を見たら、すぐに遠慮して引けよって話でしょう!


なんでヒロインなんて演じなきゃいけないの……


こうして私のヒロイン生活は始まった。

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