第4話
旅先からの帰り道、電車に揺られているところにマル君からのメールが入った。
「帰ってきたら、一緒に神田川を下りませんか!」
稲荷焼失事件で自分でも想像以上に落ち込んだ僕を慰めようとしてくれているらしい。確かに、神田川の源流である七井の一つである親之井があったであろう場所を起点にその水の流れを追って散歩をしてみれば、そもそもあの稲荷に感じた愛着の根源なるものに触れることができるかもしれない。僕はその誘いをありがたく受け取った。
その晩、公園を訪れ親之井稲荷尊の跡地へ向かうと、ふと何か白い影が目に映った気がした。慌てて駆け寄ると、ロープが張られて立ち入ることのできなくなった跡地の真ん中に生える木の根元、そこに何か白いものが置いてある。不思議に思いながらよく覗き込むと、それは一丁の豆腐だった。
お稲荷さんの社があった時から誰かが供えていた豆腐が、今も変わらず供えられている。さらによくみると、ロープを張る柵の上には数枚の硬貨が重ねられていた。それは賽銭だった。
僕はポケットから小銭を取り出し、重ねられた硬貨の上に重ねると、風に揺れる木々のほか何もない空間に向かってそっと手を合わせていた。
イマジナリー・キツネ 茶谷ムジ @chatani_muji
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