第28話「迫りくる危機」

 七海修一の気を取り直させたところで、俺はすかさず危機が迫っていることを説明した。

 下階から、地下十四階層に居るはずの黒の騎士ブラック・デスナイトの集団が登ってくると。


 その恐怖に、ギャーギャー騒いでいた七海ガールズも一旦は押し黙った。意外に、聞き分けが良い。

 こいつらだって地下七階まで戦い抜いた精鋭だから、俺が言ってることが洒落にならないってことだけは分かるようだ。


「じゃあ、私が偵察に行ってくるわね」


 久美子がそう提案してくれた。確かに敵の動向を探るのは必要か、久美子の隠密能力ハイディングなら危険はないだろう。

 俺は『減術師の外套ディミニッシュマント』を脱いで差し出した。


「これを着て行け。隠密効果が上がる。くれぐれも戦闘はするなよ、偵察だけだ」


 俺は、久美子の肩を手で寄せて、こっそりとクイックとウォールの魔法を教えてやった。

 抜かりのない久美子は、そこそこ魔法力も鍛えているだろうから、初級ならできるだろう。土壇場で何が命を救うか分かったものではないから、念の為だ。


「分かったわ、ワタルくんありがとう」

「ちょっとそこ、なにゴソゴソやってるんデスか!」


 ウッサーが、何故か怒っている。

 補助魔法を教えているだけだ、ウッサーにも教えてやってもいいんだが、ほとんど魔法力がないのであまり意味が無い。


「俺達は、とりあえず地下六階の階段を登ったところまで後退する、そこで落ち合おう」


 俺の指示に久美子は無言で頷くと、『減術師の外套ディミニッシュマント』をサッと羽織って闇に消えた。

 さて話の続きをしようとしたのだが、七海ガールズの悪役令嬢っぽい女子が、聞いても居ないのに、いけしゃあしゃあと「自分たちはイジメられていた竜胆和葉を助けようとした」などと臆面もなく語り出した。


「いや……。今そんな話をしてる場合じゃねぇだろ」

「うるさいわね、あんたは関係ない! 私たちは七海くんに話してるのよ!」


 作戦会議の邪魔だと言うこともあるが、いくら七海修一がお人好しでも、いまさらそんな話を信じるわけないだろうに。

 イジメの事実は認めざるを得ないので、今度は街にいる女子どもを切り捨てて、自分達だけ信頼を回復しようと試みている。


 七海が自分達に対して冷淡になったことを敏感に感じ取って、焦ったんだろうが無茶苦茶だ。

 敵が迫っているこの状況で、それへの対処より七海修一の好感度を優先するのかと呆れるより感心する。


 こいつらにとって、七海からの好感は命より大事なのだろう。

 それより七海は、よくガールズにここまで好き勝手言われて黙って耐えている。そう思ったら、さすがの七海も注意した。


黒川穂垂くろかわほたるくん、少し黙ってくれないか。今はそんな話をしてる場合じゃない」


 七海の声は冷淡だ。ガールズのボス黒川穂垂は、七海に怒られてシュンとしている。良い気味だ。

 七海と二人で話してるときに詳しく聞いたところだと、「俺が竜胆和葉を攫った」と七海に吹き込んだ犯人も、やっぱりこいつらだった。


 自分達が和葉を街から追いやった責任は、はぐれ者の俺に押し付けておけば都合が良いとでも考えたのだろう。

 他人を悪者にして、自分たちだけは綺麗でいようとする。その黒川穂垂たちの面の皮の厚さは、こいつらなりの生存戦略なのだろうが、はた迷惑だ。


 しかし、七海修一が俺と和葉を追ってダンジョンの下層まで行くと言い出したのはガールズの誤算だった。

 そして、安易な嘘の結果として命より大事な七海の信用を失った。これは報いだな。


 七海修一も、少し変わった。

 前なら、取り巻きの女子に向かって「黙れ」とは言わなかったはずだ。


 黒川穂垂という気位の高そうな顔をしたツリ目の女子は、厳しく注意した七海ではなく俺を恨みがましい瞳で睨みつけた。ツリ目をさらに吊り上がらせている。黒川だけではない、七海ガールズ特選隊は五人とも俺を敵視している。

 戦闘力のない女子に、どうせ何も出来やしないだろうが敵対した女子の顔と名前は念の為に覚えておくか。


 黒川穂垂は、七海をサポートできるほどの僧侶・魔術師ランクを持ち、七海ガールズをまとめている女子だ。他の四人も、装備から補助魔法系であると判断できる。

 戦っているところは見てないが、それなりの武器を所持していることから戦闘もできるのだろう。


 七海修一に次ぐ権力と戦闘力を持つ、生徒会役員の九条久美子ほどではないが。

 七海ガールズの元締である黒川にもバカにはできない影響力があるはずだ。学校の女子の多数派閥を俺は敵に回したかもしれない、注意は必要だ。


 さて、作戦会議の続きだと、俺は話を戻した。


「良いか。黒の騎士ブラック・デスナイトは、今のお前らのランクじゃ太刀打ちできない。さっきも言ったが上階に退避して、有利な場所で準備して迎え撃つべきだ」

「真城ワタルくん、十四階層と言っても僕らでは強さがイメージできない。もっと詳しく教えてくれないか」


「七海、お前らが相手にした地下六階のボスが居るだろ。青蛇神ブルーサーペントって、首がいっぱい生えてるデカい蛇。あれの二体分が、黒の騎士ブラック・デスナイト一体の攻撃力と考えるといい。その軍団が俺が見かけただけで、一気に三体上がってくる。あるいはもっとか」

「あのデカいボス二体分って、凄すぎてイメージできないが、とても勝てないというのは分かった」


「しかも、黒の騎士ブラック・デスナイトが強いのは攻撃力より防御力なんだ。物理攻撃しか通用しないし、お前らの武器じゃ、ほとんど傷つけられない。七海や久美子のランクで多少削れるってとこか。クイックの補助魔法すら使ってくるし、攻撃をかいくぐりながら削れるスピードがないと相手はできない」

「ワタシなら殺れるデス!」


 ウッサーが、拳を振り上げながら叫んだ。

 外見はウサ耳少女にしか見えないのだが、スカートを揺らして足を踏み鳴らしただけで地面は振動し、小さな拳を振るっただけで空気が震える。


 ウッサーは、久美子から同士討ちを止められて我慢させ続けられていたせいもあって、相当鬱憤がたまってるようだ。

 それなりに空気を読んでくれて、久美子がいなくても不満をぶちまけないだけの器量は褒めてやりたいけど、このままじゃまたブチ切れるのも時間の問題かもしれない。


「そうだな、一体なら互角ってとこか。二体以上が同時にきたら、ウッサーでも対応できない。相手の攻撃が当たったら終わりだ、お前は強いからこそ俺の言ってることが分かるはずだ」

「そうデスね……。ワタシの集団パーティーも慢心で全滅しました」


 強さに溺れて慢心しないのは、さすがだな。武闘家の下級師範ローマスターランクに到達したウッサーだけは、体感レベルで俺の言ってるヤバさが理解できている。

 俺の戦士ランクも、そろそろ下級師範ローマスターに到達すると思うが、マスターランクの戦闘は、そこより下のランクとは全然違うのだ。


 ジェノリア後半の代表的な敵となる黒の騎士ブラック・デスナイトの肉体的強さは、下級師範ローマスター戦士ランクに相当する。

 しかも、クイックの補助魔法付き。まともに相手をするべきではない。


「とにかく、引き返すぞ。いつ敵が攻めて来てもおかしくない状態なんだ。上階へと撤退しながら、対策を練ればいい」


 七海の集団パーティーを急かして、俺は上階へと誘導した。

 いっそこのまま街に逃げ帰ってしまえば安全かとも思うが、俺は頭を振る。


 ゲームのジェノリアであれば、街にモンスターは入ってこない。しかし、これはもうゲームじゃない。街が安全なんて保証は、もうどこにもない。

 街の中まで黒の騎士ブラック・デスナイトが侵入して、生徒皆殺しなんてことも十分に考えられる。


 他の生徒なんかどうなってもいいが、街には瀬木がいる。

 どこかで、敵の『侵攻』を食い止めなければいけないわけだ。水辺が多くて不安定な地下七階より、地面がしっかりしている地下六階に上がったほうが撃退に適している。


「真城……」

「三上、どうした」


 俺が歩を進めながら撃退法を思案していると、三上直継に声をかけられた。


「その黒の騎士ブラック・デスナイトというモンスター、俺達でも勝てないと思うか」

「今のランクだと無理だな。お前らの数で勝負する戦法は悪くないが、単体で一撃死を与えてくる相手には効かないだろう」


「そうか……」


 俺が、そう言っただけで理解できる三上は、やっぱり戦闘センスがあるんだよな。

 こいつも、後少しランクが上がれば十分行けるはずなんだが、敵が強すぎるのだ。


「そうだ、三上。なんでさっき、俺に味方してくれたんだ」

「えっ、ああ。そりゃお前の剣筋が真っ直ぐだったからよ。七海副会長より、お前のほうが正気だと思った。あれはいきなり攻撃した副会長が悪いし、真城の剣からはまったく殺気は感じなかったから」


 剣筋だけで信用したのか。屈強で無骨な男の三上が意外に屈託なく笑うので、剣道家らしいなと俺も苦笑した。

 剣筋だけで、人の良し悪しまで分かるなら苦労はないんだが、その単純シンプルな判断力は意外に正しいのかもしれない。


 健全な単純さは、武器にもなる。

 それこそが、アスリート軍団がこの厳しいダンジョンで心を病まないで生き残っていける秘訣なのかもしれない。


 どちらにしろ、三上には世話になったから、お礼をしておかないといけないか。

 俺はリュックサックを漁って、エノシガイオスから奪った『三叉の神矛トリアイナ』を三上に渡した。


「地下七階のボスが使ってた武器だ。この神矛を使えば、三上でもやれるかもしれない」

「こんな良い武器をくれるのか」


「ああ、矛と槍ではちょっと使い勝手が違うかもしれないが、リーチがあって突き刺す武器なら使えるだろう。どうせ三上の職業は槍使いランサーだろうから」

「よく俺の職業が分かったな」


「戦い方を見れば分かる。神矛なんて名前は大袈裟すぎるが、いい武器だぞ。上手く使いこなせればスプラッシュトライデントって、パッシブスキルも出せる」

「そうか、そんな武器を譲ってもらって本当に良いのか」


「気にするな、俺は慣れた得物のほうが良いから……」


 そう言って、俺が背負ってる『孤絶ソリチュード』を見せると、三上が少し妙な顔をして含み笑いをした。

 俺も妙な感じがする、既視感があると思ったら。


「……そうか、最初に一階で会った時、三上とそんなことを話したことがあったか」

「そのセリフを言ったのは、俺だったんだけどな。『三叉の神矛トリアイナ』、そのときの戦斧バトルアクスの返しにしては立派過ぎる武器だが、その分は借りってことでありがたく受け取っておこう」


 あの時は、三上が慣れた得物のほうが良いと言って。

 俺に、オークの持っていた戦斧バトルアクスを心良く譲ってくれた。最も危険だった序盤、あれがなかったら生き残るのは難しかった。


 その時は何も思わなかったが、今思い出すとあれは三上の不器用な気遣いだったのかもしれない。

 三上は、もともと気の良い奴なのだろう。


「俺だって助かったから、借りとかは気にしなくていいけど……」

「まっ、借りは腕で返すってことでな」


 そう言うと、巨漢の三上が目の前に、俺の頭ほどもありそうなデカい拳を突き出してきた。

 何だと一瞬焦るが、合わせればいいのかと俺も拳を突き出すと、笑顔で思いっきり叩き返してきた。鋼拳だ。


「いてえよっ」

「ハハッ、お前こそ拳もしっかり鍛えてるじゃねえか」


 グータッチってやつか。運動部の連中の陽気なノリにはついていけないんだが、まあ悪い気分じゃない。

 運動部にも良い奴もいるとか、学校に居た頃は考えもしなかった。


 ついこの間のことなのに、学校のことなんてもう遥か昔に思える。

 まったく、遠くまで来てしまったものだ。


     ※※※


 そうこうするうちに、俺達は地下六階への階段にたどり着いた。

 ボスの部屋の扉は、開かれているのでプレイヤーも出入り自由である。


 階段へと上がった先の青蛇神ブルーサーペントの刻印が入ったボスの扉は、大きく開かれている。

 地下六階のボスを七海達が倒してくれたため出入り自由なわけだが。


 実は鍵がなくても、下階から上階への移動なら外側のレバーを引くとボスの門が開けるので、ボスを倒してなくても下の階層から戻ることなら出来たりする。

 ただボスの部屋の鍵が差し込まれていない場合は、一定時間が経つと閉まってしまうシステムにはなっている。


「着いたね。真城ワタルくん、とりあえずこれからどうする」

「そうだな、あとは久美子の偵察が終わるのを待つだけだから休憩を入れる」


 俺は階段の近くにある泉で喉を潤すと、ゴロンと石の床の上に寝っ転がった。

 すかさず、俺の横にウッサーも寄り添ってくる。


「えっと……九条久美子くんが偵察に出てくれているのに、僕達はのんきに休憩なんかしてていいのかな」

「七海、だからこそ一息入れておけ。少しでも眠っておかないと持たない」


 俺がそう言っているのに、寝ようとするとウッサーが絡み付いてくる。

 そんなに強く抱きついてきたら、ワサワサするウサ耳が顔に跳ねて、よく眠れないだろ。


「ご主人様、あと繁殖の件なんデスが」

「お前、それまだ言ってるのか……」


 黒の騎士ブラック・デスナイト侵攻で誤魔化せると思ったのに、忘れてなかったのかよ。


「ワタシだって状況は分かってマス。今すぐにとは言いませんデスが、この危機を乗り切ったらご褒美に繁殖して欲しいデス」

「あー、あの、ウッサー」


 ……なんと返したらいいんだろう。ウッサーの装備はエプロンドレスだし、小柄なので重いってほどではないのだが、上に乗られると胸が苦しい。

 ウッサーは、俺の胸に重たくてデカい胸を乗せて、期待に満ちた碧い瞳をキラキラとさせて見つめている。


「これ邪魔デスね、寝苦しくないんデスか」

「俺の鎖帷子チェインメイルを剥がすな」


 これは、誤魔化せる雰囲気ではない。

 真正面から説得するか。


「ウッサー、お前がここに来た目的はなんだか言ってみろ」

「繁殖デス」


 そうじゃねえだろ、アホか。


「その前の目的だ……」

「地下で膨れ上がった狂騒神ロアリング・カオスの侵攻を食い止めて、創聖破綻ジェノサイド・リアリティーを阻止するためデス」


「そうだよ、それだよ!」


 どうせゲームの設定だと思って詳しく考えてなかったが、ウッサーの言ってることは正しい。

 世界ムンドゥスを滅ぼそうとする狂騒神ロアリング・カオスの『侵攻』。今まさに、起きている現象がそれだ。


 確か、ウッサーのラビッタラビット族の治める祭祀王さいしおうの予言とやらだったか。

 俺が知悉ちしつしているゲームの設定よりも、ウッサーの知識のほうが正しいのではないか。


「どうかしましたか、旦那様?」

「いや……とにかくジェノサイド・リアリティーをクリアするためには、繁殖してる場合じゃないだろってことだ」


「大丈夫デス、繁殖しながらでも戦えるのデス」


 俺の上に乗って腰をクイックイッと押し付けてくる。

 ウッサーと話してると、バカになりそうだな。はぁ、どうしよこれ。


「だけど、あーそうだな。腹を庇いながらとかになるから、戦闘力は落ちるだろ。それは良くない」

「なんとかカバーするから大丈夫デス。それにほら、えっと……ワタシと旦那様の子供達なら、きっと最強戦士になりマスよ!」


 育成に何年かけるつもりだよ。そんなの待ってたら世界ムンドゥスが滅んでしまうわ。

 お前なんで、そこまで繁殖したいんだ。仲間が全滅させられてる上に、これは世界ムンドゥスを救うための戦争なんだろ。


 バカなのか、バカなんだな……。

 久美子が言ってたな、全滅させられたから仲間を増やそうって動物の本能か。


「とにかく、ジェノサイド・リアリティーをクリアするまで繁殖は禁止だ」

「そんなぁ、ここまで来てまだおあずけなんデスかぁ」


 ずっとおあずけだよ。

 できれば、永久にな。


「敵の撃退にはお前も働いてもらうから、今は身体を休めておけ」

「じゃあ、チュー」


「はぁ?」

「チューデスよ! あの乳無しが旦那様と何度も唇を重ねたとか、自慢してましたデス……。ワタシは、妻なのにチューしてもらってません、妻なのにーっ!」


 クッソ、久美子め余計なことを言いやがって……。

 俺の腹の上で、バタバタ暴れんな。


「分かった、これでいいか」


 俺は、ウッサーを抱き寄せて、さっと接吻せっぷんしてやった。

 ガキじゃあるまいし、キスぐらいでガタガタ言うな。


「ほっぺにチューとか、子供じゃないんデスから!」

「あーもう、じゃあこっちにこい」


 俺は、泉までウッサーを連れて行ってポーション瓶で水をすくってヌルい水で口をゆすいだ。


「さっき、濯ぎましたデス」

「もう一回しっかり口を濯げ、じゃないとしないぞ」


 ウッサーは俺に言われて、必死に口を濯いでストロベリーブロンドの長い髪を手ぐしで整えている。

 ダンジョンの塵に塗れても、ウッサーは美少女だが俺は違う。


 身だしなみがなってないのは俺も一緒だ。ウッサーは、俺みたいな何日も風呂に入ってない男と抱き合ってキスして嬉しいのだろうか。

 そう思うと、微妙な気持ちになった。本人がしろというものは、しょうがないんだが……。


「もういいデスよね、一分はしないと許さないデスよ」

「十秒に、負けておけ」


 改めてすると、なんか緊張する。

 これなら、さっきさっさとすませておくんだったと思いつつ、俺はウッサーの額にかかる髪をかきあげて、柔らかい唇を塞ぐ。


 きっちり十秒。

 申し訳ないと思っていれば、人はどこでもキスができる。


 たとえ、危険なダンジョンの中で、シレッと冷めた目でこっちを見ている七海たちのパーティーの目前でも。


 女子ってなんで人の目も気にせずキスできるんだろう、俺はすごく気になる。

 むしろ見せつけてやれってことなのか。


「うふふっ……」

「なんか、嬉しそうだなウッサー」


 ようやく機嫌が治ったのは良いが、なんか機嫌が良すぎて怖い。


「すぐ繁殖できないのは残念デスが、考え方をポジディブに改めることにしたのデス」

「どういう風にだ、言ってみろ……」


 聞きたくないが、聞かないのもなんか怖い。


「旦那様と繁殖前に、ラブラブしながら二人っきりの新婚生活を楽しみつつ、ついでに狂騒神ロアリング・カオスをやっつけて、創聖破綻ジェノサイド・リアリティーを阻止してから繁殖と考えたら、すごく楽しくなりましたデス」

「ウッサー、お前のダンジョンは何色なんだよ……」


 黒と灰色に染まった殺戮迷宮を、桃色のお花畑に変えるつもりか。

 ダメだこいつ、ジェノサイド・リアリティーのクールな世界観を完全にぶち壊すつもりだ。


「さあ、寝ましょう寝ましょう、夫婦でイチャイチャするのデス」

「石畳の上で寝転ぶのに、よくはしゃげるな」


 これ以上何か言っても、墓穴を掘るだけになりそうだし、ウッサーがとりあえず繁殖しないことで納得して機嫌を治したので良しとして寝ることにした。

 鍛えている癖に部分的にとても柔らかいウッサーは、枕がわりとしてはちょうど良いサイズだ。


 寝心地は良いから問題ない、もう深く考えない。

 ジェノリアが終わったら、全部スッキリと解決するだろ。後は野となれ山となれだ。


 ウッサーの柔らかい肉を枕がわりにしてぐっすりと眠った俺は、背中を硬いものでつつかれて眼を覚ました。

 目を覚ますと、久美子が唇をワナワナと震わせて強張った笑顔で覗き込んでいた。


「ごめんなさい、お邪魔だったかしら……」

「久美子、お前の靴の先は鉄でも入ってるのか」


 おそらく隠し武器の一種なのだろう。

 俺の背中をつついた久美子の靴の先は、やけに硬い。久美子は、強張った笑顔を緩めて、真面目な顔で報告した。


「真城くん、黒の騎士ブラック・デスナイト十体。おそらく十体で正しいと思うけど、一団となってやってきている。警戒しているみたいだからスピードは遅いけど、バラけないように気をつけて動いてるみたい」

「そうか、さっきの戦いで学習したか。再襲撃を警戒する程度の知能もあると」


「私は急いで来たけど、大きく迂回して来たから、もう敵も間近に迫ってるわよ」

「しかし、十体居たのか……厳しいな」


 俺が二体倒したから、もともと十二体で来ていたのかもしれない。

 何のラスボス戦だよと思ってしまう。黒の騎士ブラック・デスナイトがまとまって一気に十体って、下手すると最下層よりもキツイぞ。


 俺が考えている二重の防波堤でなんとかなるだろうか。

 みんなを起こすと、俺は撃退のための作戦を話しだした。

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