第20話「奈落に落ちろ」

20.奈落に落ちろ


 和葉を連れ、石の階段を降りてダンジョンの中に足を踏み入れる。

 入口付近には、オークもゴブリンの影もない。開けられた、宝箱が転がっている。


「誰か先に入ったのかな」


 一階から二階にかけてまでは、生徒会の探索がだいぶ進んでいるそうだ。

 他の集団パーティーに出会うと、また面倒が起こりかねないので下に降りる最短ルートを通る。


 モンスターより、人間と出会うほうがよっぽど厄介になりそうだから、さっさと通り過ぎたい。

 そんな俺の悪い予感が的中したのか、大広間に入ったところで前から武装した男たちが顔をだした。


「おっと、ここは行き止まりだぜ」


 染めた髪がプリンのような色合いになった金髪ロン毛が、ロングソードを構えながら俺に立ちはだかる。

 オークのほうが幾分とマシな面をしている脂肪でブヨブヨの巨漢、眼つきの鋭いガリヒョロに、出っ歯でネズミのような顔をしたチビ。


 気配を感じて後ろを振り向くと、そっちからも有象無象が四人現れる。

 前から四人、後ろから四人で計八人か、どうやら囲まれてしまったようだ。


 コイツら、さっき七海の集団パーティーと対立してたな。

 そう思ったら、金髪ロン毛が口を開いた。やはり、こいつがリーダーか。


「真城く~ん、あの凶暴なウサギ女はどうしたのかなぁ~」

「ああっ? 街においてきたよ」


 嫌ったらしい口調が癪に障るが、別に隠してるわけではないので教えてやる。

 面倒事は避けたいが、この雰囲気は素直に通してくれるとはとても思えない。


「フへへへッ、こりゃ都合がいいなぁ。あの化物ウサギ女がいなけりゃ、真城くんなんて怖くねぇ」


 どうやら、強いのはウッサーだけだと勘違いしているようだ。

 結局のところ、力の差を見せなきゃ納得しないわけか。まあ良いさ、こいつらムカつくから、そのうちシメてやろうと思ってたところだ。


 軽く脅して、それでも言うこと聞かなきゃ骨の一二本でも叩き折って、引かせることにしよう。

 俺は、背中に背負っている鞘を掴み、いつでも抜刀出来る体勢を整えた。


「うひょー、また女連れじゃねえか」

「おい、こいつ級長の和葉じゃねえか! ウヘヘ、たまんねぇ身体してるよなコイツ、前からやっちゃいてぇと思ってたんだ」


 ロン毛の後ろから、ガリヒョロとチビがゲスな歓声シュプレヒコールを上げるので、和葉が怯えて足を震わせている。

 連中は、竜胆和葉を舐めるように眺めて、皆一様に下卑た笑みを浮かべた。


 俺を襲うのは分かる、どうせウッサーにやられた意趣返しのつもりなのだろう。

 だけど、コイツら本気マジで、同じクラスだった女子まで襲うつもりなのか。


 いや、女を襲わないと思うのは俺が甘すぎるのか。

 ネガティブ行為の出来ない街の中ですら、和葉は死にそうな目に遭っていた。


 街から一歩迷宮に踏み出せば、そこはやりたい放題の無法地帯。

 すでに転移から九日が経過して、殺人やレイプが表立って起こっていないのは七海の生徒会の管理がよほど良かったのだろうと思えるぐらいだ。


 強いストレスを受け続ける閉鎖環境で無法状態になれば、人はそれぐらいのことを当然やる。

 そろそろ、七海たち生徒会が嵌めた理性のたがが、外れる連中も出てくるか。


 こいつらがもう人としてのモラルを失ってしまったのなら無駄とは思うが。

 言うだけ言ってみるか。


「お前ら、最後の警告だ。死にたくなければ、俺達に構うな……」

「おー怖い怖い」「ウハハハ、コイツこの状況で、まだ虚勢を張ってやがるぜ!」


 俺の警告は、やっぱり無駄だったようだ。

 金髪ロン気が、さもこれが精一杯の譲歩だという口調で言う。


「真城くんよぉー、同じF組だったよしみもあるし、和葉ちゃんを街から誘いだしてくれたことは評価しようじゃねえか。大人しく女を差し出せば、お前は身ぐるみ剥いでボコるぐらいで済ませてやってもいい。へへっ、なんなら俺達が全員楽しんだあと、お前にもやらせてやってもいいんだぜぇ」


 話にならない。

 俺は押し黙って、囲んでいる八人との距離を測る。


 俺だって強くはなったが、武装した八人を相手するのは初めてだな。

 俺一人だったら、眼の前の敵を叩いて突破すればいいだけだが、今日の俺には足手まといが付いてる。


 この人数では、本気ガチで殺る覚悟でないと勝てない。

 問題は、まだ人を斬ったことのない今の俺が本当に殺れるかってことだが……殺る。


 殺らなきゃ殺られるなら、俺は殺れる。

 ずっとダンジョンでやって来たのと、同じことをするだけ。


「おらおらっ、真城くんよぉー、さっさと地べたに頭を擦り付けて命乞いしろや!」「へへへっ、八対一じゃ勝ち目はねえよなぁ」「死にたくなければ、大人しくしやがれっ!」


 そりゃ、こっちのセリフだ。

 お前らがもう少し愚かでなければ、殺り合わなくて済んだ。


「ハァ……」


 俺の胸を深い溜息が吹き抜けていった。

 人の心も、それと同時に吐き捨てる。俺は人を殺す抜身の刃だ。そうなれなければ、俺が死ぬ。


「きゃあああぁ!」


 悲鳴が上がった。後ろの四人が、和葉に群がって抱きついて、さらって行こうとする。

 男たちの下卑た笑い声と、ビリッと引っ張られた和葉のスカートが破れる音が響いた。


「……本当に手を出したんだな」


 戦闘開始だ、俺の頭がスッと冷えた。

 全身に気迫を込めて、背中に担いでいる野太刀『孤絶ソリチュード』を一気に引き抜く。


 ギラリッと凶暴に輝く刃渡り一メートルもの刀身に迫力に、金髪ロン毛たち前の四人が少し怖気づく気配を感じた。

 それでも、和葉を取り囲んで乱暴しようとしている男たちは、夢中になって掴みかかり、スカートを引っ張り下ろし、皮の鎧を剥ぎ取ろうとしている。


 敵の刃を前にしても、眼の前の自分の欲を満たすことしか考えてない。

 どこまでも愚かだな。


 男どもに群がられた和葉の悲鳴に向かって、俺は無造作に長い野太刀を振るった。


 和葉に群がっている男どもは、隙だらけ。

 一刀で、二人の背中と肩を斬り飛ばす。


 派手に飛び散る血しぶきと絶叫。

 斬られた二人だけでなく、和葉を囲んでいた残りの二人も「ひゃあ!」と情けない声をあげて腰を抜かす。


 弱すぎる、こっちは囮だな。

 本命は、金髪ロン毛たちのほう。


 案の定、俺が和葉を囲んだ側に攻撃を仕掛けたタイミングで、金髪ロン毛たちが一斉に襲い掛かってくる。

 ロングソードで素早く斬りこんできた金髪ロン毛の攻撃を、俺は紙一重でかわす。


「くっ……」

「おりゃああああっ!」


 野太い声で叩き切ろうとしてきた上背のある巨漢デブ戦斧バトルアクスを、返す刀で受け止める。

 金属が擦れて、嫌な音を立てる。


 さすが百貫デブ、かなり重い打撃じゃないか。

 俺は、受け止めきれなかった重い一撃の勢いを、辛うじて斜め後ろに飛ぶことでなんとか殺した。


 ギリッと宙に火花が散った。


 着地すると同時に、動きの鈍重な巨漢デブに再攻撃。

 俺は刀を大上段に振り上げて、全身のバネを使って右手から全力の袈裟斬りを仕掛ける。無数に鍛錬してきた動作だ、一秒一回のペースで振れる。


「遅いっ!」

「ぎゃあああぁぁ!」


 動きの鈍重な巨漢デブは、まだ戦斧バトルアクスを振り下ろしたままで無防備だった、肩口から深く斬り崩してデブを押し倒す。

 決して傷つくことのない孤絶ソリチュードは、こもる力が十分であれば鉄の鎧だって斬り裂く。


 殺す気で深く斬り込んだが、悲鳴を上げる余裕があるぐらいだから、死にはしないだろう。

 デブは厚い脂肪が守ってるしな。


 余勢を駆って、巨漢の右に居たショートソードを持つチビの腕まで巻き込んで斬り捨てた。こっちはまるで豆腐を斬るような手応えのなさ。雑魚だ。

 それでもまだ敵は残っている。俺は油断なく構えなおして、次の攻撃を待つが何故か誰も攻めかかってこない。


 全員が武器を構えていたにもかかわらず、敵は俺のスピードに反応できていない様子だった。

 こいつら本当に鈍いなと思いつつ、左に居た長身で痩せた男の脇腹を斬り上げた。


 長身の生徒の着ていた鎧は丈夫な鋼鉄製で、装甲が砕けるまでいかなかったが、グシャッと胴板がひしゃげ、背の高い身体がくの字にへし折れて壁に叩きつけられた。

 いくら鎧が硬くても、中の人間の鍛え方が足りなければ意味は無い。


 五体満足なのは、後三人か。

 俺はそのまま、腰を抜かしてた連中を斬ろうと後ろに刀を向けた。


「おい何やってるっ、魔法で援護しろよぉ!」


 ようやく指示を飛ばす金髪ロン毛。ビビッて腰が抜けていた二人は、金髪ロン毛の声で正気を取り戻したようで、口々に炎球ファイアボールの魔法を唱える。

 そうかこいつらは、魔術師だったか。


 飛び道具は良い、だがここで魔法は下策。

 もしこれが、よく狙いをつけた矢か投げナイフであったなら避けられなかったかもしれない。そうであれば体勢の崩れた俺に、痛打を浴びせることもできたかもしれない。


 ジェノリアでの攻撃魔法は、自分の前面にまっすぐにしか飛ばない。かなり弾道の角度が限定されてしまう。

 避けようのない狭い通路で、巨大な上級ハイの攻撃魔法を使うなら確実に当たるが、小さな下級ロー炎球ファイアーボールなど当たるわけがない。


 俺は目視できるほどの低速度で飛ぶ、二つの炎球の間をくぐり抜けると、魔術師の二人を撫で斬りにした。

 ザクッと小気味良い音と手応えともに、真っ赤な血糊ちのりがぶちまけられる。遅れて、男の「ぎゃああああ!」という野太い悲鳴。


 どうせこいつらは全員殺るつもりだが、とりあえず戦闘不能にさえできれば、死んでもいいし生きていてもいい。

 さてと、これであとは金髪ロン毛だけだ。


「ひいっ!」


 リーダーの金髪ロン毛を残して、右手を斬られて喚いていたチビが背中を見せた。一人で逃げるつもりなのだろうが。

 ちょっと判断がちょっと遅かったな。俺はもう全員殺すと決めた、いまさら逃しはしない。


中級ミドル イア 飛翔フォイ!」


 俺は、落ち着いて中級ミドルクラスの炎球の魔法を詠唱する。

 これも落ち着いて伏せるなりかわすなりすれば、避けられないこともない攻撃だが、闇雲に逃げようとすればそりゃ当たる。


「ぎゃああああ!」


 背中に炎球ファイアーボールを受けたチビの背中は激しく炎上。火達磨になって倒れこんで、地面でのたうちまわった。

 肉の焼ける香ばしい匂い、地面に転がったことで火はあらかた消えたが、酷い火傷のせいか悶え苦しみ続けている。


「さて、後はお前だけだな金髪!」

「待てっ、待ってくれ……話せば分かる!」


 ロングソードを取り落として手を挙げる金髪に、俺は心が凍えた。いまさら降伏を許すと思っているのか?

 こっちを集団で囲んでおいて、勝てないと分かったら今度は降伏、心の底から呆れ果てた。


「心底つまらん、これが悪の凡庸さってやつか」

「なんだそれは」


 俺と同じF組だって進学校の生徒だから、こいつら勉強は最低限できるはずだが、ハンナ・アレントも知らないのか。

 学校の勉強だけで自分の頭でモノを考えようとしないから、こんなバカげたことをしでかすんだろうに。


「お前らが、なんで俺や竜胆を襲ったのかということだ」

「違うっ、俺は襲うつもりなんてなかった! あいつらだあいつらが勝手に!」


 金髪ロン毛は、俺に斬られて呻いている自分の仲間に向かってそう吐き捨てるように言った。

 囲んでおいてその言い草か。


「加藤だ、加藤がやれって!」

「お前ら嘘をつくな、俺はそんなこと言ってねぇ!」


 傷ついた連中は、加藤とかいう名前の金髪ロン毛に命令されたのだと口汚く罵った。

 まあ、こいつがリーダーであるのは分かってるけど、結局誰が命じたというわけでもなく自然の流れで誰でもいいから襲おうということになったのだろう。


 辺りには、鉄さびのような血の匂いだけではなく、鼻を突くアンモニア臭も漂う。

 床にのたうち回っている男たちが、斬られたショックで盛大に漏らしたのだろう。腹が据わってなければ、そういうこともある。


 情けない男たちだ。こいつらは、自分が斬られる覚悟がないくせに俺を襲った。

 理由を聞けば、その場の雰囲気に流されてやっただけだと口々に弁明する。誰かに命じられただけだ、自分だけは悪くないと。


 例えば神宮寺のような自覚的な悪に対して、心が弱かっただけで明確な動機を持たない小悪党のコイツらには情状酌量の余地があるだろうか?


 あり得ない!

 動機もないのに、状況に流されるまま人を襲えるコイツらこそ、真っ先に始末しなければならない邪悪だ。


 神宮寺たちは、まだしも自らの意志を持った人間たちだ。

 自覚のある悪は、状況によって自覚のある善にも変わる。神宮寺のやつは大嫌いだが、こういうバカどもを抑える力にはなっていたのだろう。


 生徒会の秩序はクソッタレだと思う。

 だが、神宮寺や七海と俺とは、信条が違うだけで誰が正しいというわけでもない。


 それに比べて人を襲ったコイツらは、すでに人間ではなくなった絶対悪だ。知能のないモンスターと同じ畜生。

 俺は、コイツらをもう同じ人間とは認めない。だから、始末するのに一片の良心の咎めもない。


「分かった。つまりお前らは、生かしておく価値もないってことだな」

「や、やめろ。助けて、助けてください」


 地の底から響くような俺の声色を聞いて、金髪ロン毛は慌てて地面に顔を伏せて、額を冷たい石の床に擦りつけた。

 俺に土下座しろと言っておいて、自分でやってれば世話はない。


「よし、なら助かる可能性をやろう。金髪、このロープで全員の手を結びつけて拘束しろ」


 俺はリュックサックからロープを取り出して、全員を手を縛って、数珠つなぎに拘束するように命じた。


「どうするつもりだ、ですか……」

「いいからさっさとやれ、全員だぞ! 拘束がすんだら、怪我はポーションで治療してもいい」


 金髪ロン毛が仲間を拘束して、ポーションで回復している間に、俺は和葉を介抱した。

 男どもに掴まれて、服を剥ぎ取られそうになった彼女は酷く怯えている。


「大丈夫か、竜胆」

「真城くん、私……」


 男どもに強く引っ張られたせいか髪留めシュシュも千切れて、長い髪がボサボサになっていた。

 スカートは無残にも引きちぎられていたが、上半身はほとんど無事。


 こんなことのために装備させたのではなかったが、皮の鎧を着こませていたのが幸いだったな。

 俺は、『減術師の外套ディミニッシュマント』を脱いで、泣くのを堪えている和葉の肩にかけてやる。しばらく貸しておいてやろう。


「……ダンジョンは危険だろ。怖くなったら街に帰ってもいいんだぞ」

「ううんっ、それでも行きたい。ごめんなさい、足手まといになってしまって」


 瞳に涙を浮かべていたが、それでも和葉は泣かずに俺に同行を求めた。行くかどうかの判断は、和葉の勝手にすればいい。

 いまさら街に戻っても、なんともならんだろうしな。さて、男どもの始末だ。


 俺は抜き身の刀で尻を突いて脅しながら、地上への階段近くにある『奈落タルタロス』まで連行した。動かない者は引きずってでも連れていく。

 逃げたら本当に斬り殺すつもりだったが、どうせ処刑されると分かっているのになぜか逃げない。


 ここはまだ安全圏の街が近い。しかも、向かっているのは入口付近の『奈落タルタロス』だ。

 タイミングを見計らって、全員で一斉に逃げれば一人ぐらい助かったかもしれないのに愚かだな。


「よし、金髪。お前の仲間をこの穴に落とせ」

「やめてください、殺さないでください……」


「この穴に落ちても、死にはしないんだ。さっさとやれ!」

「ううっ、すまんみんな」


 俺の命じるままに、金髪ロン毛が仲間を順々に奈落に蹴り落とし、ロープにくくられた男たちは次々に足を踏み外して落ちていく。

 何人かが落ちても、まだ耐えている奴らが必死にロープで引っ張り上げようとして抵抗している。


 さっさと落とせというのに、金髪も動きがトロい。

 俺が刀の先で金髪のケツを小突いてやったら、ようやくそいつらも金髪が落としにかかる。


 なるほど、口で言っても分からない連中は、最初からこうやって言うことを聞かせれば面倒がなかったんだな。

 神宮寺が俺に脅しをかけて言うことを聞かせようとした気持ちも、分からないでもない。


「おい加藤やめろ、やめてくれー!」

「すまん、しかたないんだ……やれって言われたから、俺が悪いんじゃない」


「加藤ぉ、テメエェェ!」

「ごめん!」


 最後まで落ちずに抵抗していたヒョロッとした長身生徒が、ものすごい形相で加藤を罵っていた。必死に縛られた手で崖にすがりつくが、落ちていった奴らの重みに耐え切れずに滑り落ちていった。

 今落ちていった奴らの名前って、なんだったんだろうな。辛うじて顔に見覚えがあったからほとんどが同じF組だったような気もするが、まったく名前が思い出せない。


 まあ、どうでもいいか。

 どうせもう生きて会うことはない。


 七人全員を落とし終わると、最後は加藤とか言う金髪ロン毛の番だ。


「よし、加藤。お前もこの穴から下に降りろ。武器や荷物は、ここにあるだけは全部持って行ってもいい」

「そっ、そんな……助けてください。俺は全部、真城さんの言うとおりにしたじゃないすかぁ!」


「今さら何言ってんだ! 仲間を落としておいて、お前一人だけ免罪されるわけないだろ」

「酷いっすよ、そうだ俺は真城さんの忠実な舎弟になります、なんでもやります。だからどうか命だけは助けてください!」


 跪かれても、レイパーの舎弟なんかいらん。

 俺に襲いかかった段階で、お前らは終わってんだよ。


 コイツらは人間を襲う鬼畜に成り下がった。そのラインを越えた段階で、全員始末するしかないのだ。

 人肉の味を覚えた熊は駆除するしかない。そこを、最後に生き残るチャンスをやるだけ温情だと思うんだけどな。


「いいか、この下は地下十階ならくだが、落ちた先には水場だってある。落ちた初心者ニュービーが生き残って帰還したってケースもあるんだ。お前が行って、仲間のロープをほどいてやれ、八人で助けあって周囲をよく探索すれば助かる可能性もある。生き残りたければ、自分たちが生きる価値のある人間だってことを証明しろ」


 そう忠告してやっても、金髪ロン毛は俺の話を聞かず「嫌だぁ、助けてください!」と連呼するので、じれったくなって首根っこを掴むと奈落の底に蹴り落とした。

 絶叫しながら落ちていく金髪ロン毛に続けて、荷物と剣も穴に放ってやった。


「あの分じゃ、十中八九死ぬな」


 いや、確実に死ぬか。


 生き残れる可能性があるというのも嘘ではないが。

 ジェノリアの知識がなかったなら、今の俺でも十階に降りて確実に帰還出来るとは限らない。


 危機的な環境で生存率を上げるのは、生き残る意志の強さだ。

 あいつらには、それがないからきっと醜く言い争って全員死ぬだろう。

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